どう見えるかばかり気にしてしまうから、どんどん生き方が不自由になるのかもしれない。

『ラストマン-全盲の捜査官-』第5話は、見せかけを追い求めるがあまり本質を見失った者たちの自滅の物語だった。

今回の事件で登場した、3つの嘘

Instagramの普及と共に、すっかり日常用語と化した「映え」。見映えがする=人にどう見られるかが、幸福における重要な価値基準となり、食事に行っても、旅行に出かけても、時に同行者そっちのけで、「映える」写真を撮ることに腐心してしまう。

そんな現代病が引き起こしたのが、今回の事件。インフルエンサーを狙った強盗が相次ぐ中、ついに殺人事件が発生した。殺されたのは、人気料理系インフルエンサー・ナオン(わたなべ麻衣)だ。所属する事務所での彼女のフォロワー数ランキングは、料理系では第2位。3位は、「スパイスの女王」の異名をとる青嶌麻帆(高梨臨)。1位は、愛情弁当が人気を博す顔出しNGのカナカナだ。

佐久良円花(吉田羊)らの捜査によって容疑者として浮かび上がったのは、古郡信武(芹澤興人)。古郡は料理系インフルエンサーを狙って不正アクセスを繰り返していたという。さらに今度は麻帆までもが襲われる。古郡の目的はなんなのか。一連の事件の犯人は誰なのか。というのが、第5話の主軸となるストーリーだ。

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この事件では、3つの嘘が象徴的に描かれていた。まず1つ目が、料理系インフルエンサーにもかかわらず、ナオンは自ら料理はしていなかったという嘘。スマホの画面の向こうは、誰にも見えない。私たちが「いいね!」を押した華やかな写真は真実を写しているとは限らないと『ラストマン』は風刺する。

2つ目は、麻帆が襲われたのは自作自演の狂言だったという嘘。一連の強盗は、麻帆が古郡を脅して行わせていたものだった。自分よりフォロワー数の多いナオンへの嫉妬と、ナオンより上位に行きたいという承認欲求が、麻帆を凶行に向かわせた。それだけでなく、襲われたことによってナオンのフォロワー数が急増したことを知った麻帆が、フォロワー数欲しさに古郡に自分を襲わせたのだった。

第3話で不倫を隠すために殺人の罪をかぶったスター俳優の話があったが、一般人が「そんなことのために・・・?」と思わず眉をひそめるようなことで、越えてはならない一線を簡単に越えてしまうのが、現代の有名人の業なのかもしれない。

スター俳優にしても、人気インフルエンサーにしても、根っこにある動機は同じ。人からどう見られるかという欲と恐怖が、彼/彼女らを狂わせてしまった。「見映え」という見せかけのものに心を囚われ、つい足元が見えなくなり、道を踏み外す。日本はもともと罪の文化ではなく恥の文化だと言われているが、SNS社会が拍車をかけた。もう誰も他者の目から逃れることはできない。

が、その中で皆実広見(福山雅治)だけが盲目がゆえに「見映え」がわからないというのが、このドラマらしくて良かった。今の私たちは余計なものまで見えすぎているのかもしれない。だから、本来気にしなくてもいいようなどうでもいいところに心をすり減らしてしまう。皆実が超然として見えるのは、出たがりのフリをして、人から自分がどう見られるかに拘泥していないところにある。

自撮りを盛らないと気がすまない人たちに、犯人のことは笑えない

そして、3つ目が、トップインフルエンサーのカナカナの正体が、実はまだ子どもの中道雲母(平澤宏々路)だったという嘘だ。だけど、ナオンや麻帆の嘘と、雲母の嘘は本質がまったく違う。

雲母が母のフリをして投稿を続けていたのは、自分を捨てて出ていった母がこのInstagramを見ているかもしれないと思ったからだ。自分は元気でちゃんとやっている。だからいつか帰ってきてほしい。毎朝アップされているお弁当は、母から娘への愛ではなく、娘から母への変わらぬ愛の表明だった。決して「見映え」のために嘘をついたわけじゃない。だから、皆実も雲母の気持ちを尊重した。

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もはや私たちの日常からは切り離せないSNS。ナオンや麻帆ほどではないにせよ、嘘をついている人は大勢いるだろう。顔が小さく見えたり、足が長く見えるように補正をしたり、目の大きさをつくりものみたいに加工したり。出来上がった写真はもはや本人とは別人だ。中には、加工なしで撮った写真は自分の顔ではないと認識している人もいるらしい。連行される直前にスマホを見せてほしいと乞うた麻帆のことを、はたして笑えるだろうか。

一方で、SNSのすべてが悪ではない。ナオンや麻帆が求めた「いいね!」と、雲母が求めた「いいね!」はまったくの別物だ。何気ない投稿で、遠く離れた誰かとつながることができる。SNSは人と人を結ぶツールでもある。

問題なのはツールではなく、本質を見失ってしまうこと。現代人の視界を覆う分厚いフィルターを『ラストマン』は払いのけてくれた。

一方、皆実の来日の目的も今回でより明確になった。41年前の強盗殺人放火事件。殺されたのは、皆実の両親だった。41年前というと、護道心太朗(大泉洋)の父・鎌田國士(津田健次郎)の事件と時系列が一致する。つまり、皆実の両親を殺したのは、心太朗の実父だということだろうか。だとすると、皆実はこの因果をわかった上で心太朗を相棒に指名したこととなる。

しかも皆実の記憶によると、犯人はずっと犯行を否定していたにもかかわらず、あるとき一転して容疑を認めたと言う。その陰には、自供を強要した誰か別の存在があったのか。あるいは、犯人は他の大切な誰かをかばって罪を着たのかもしれない。

いずれにせよこの事件の真相が、ラストマン・皆実の日本での最後の事件となることだろう。もし2人が本当に41年前の事件でつながっているのだとしたら、今のようなクスクス笑えるやりとりはじきに見納めになるかもしれない。それはちょっと残念だけれど、複雑な愛憎が絡み合う福山雅治と大泉洋というのも大いに見てみたい。

(文・横川良明/イラスト・月野くみ)

【第6話(5月28日[日]放送)あらすじ】

護道家の別荘で清二(寺尾聰)の誕生日パーティーが開かれた。皆実(福山雅治)も心太朗(大泉洋)とともに招かれるが、心太朗は護道家の輪に入ろうとしない。
そのパーティーの最中、東京郊外の別荘で立てこもり事件が発生する。犯人は別荘の所有者で、警備会社社長の菊知(髙嶋政宏)。菊知は自分の妻と娘を人質にして、現金10億円を要求する。皆実は交渉役に名乗り出て、心太朗は菊知の指示で10億円を調達することになった秘書を追うことに。人質となった犯人の妻が怪我をしていることを知った皆実は周囲の制止を振り切り、単身で別荘に乗り込む。そこで、自分が妻の代わりに人質になることを提案する。
そんな中、清二と京吾(上川隆也)があることを画策していた・・・。

◆放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
毎週日曜21:00からTBS系で放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信。
(C)TBS