人は、人と出会うことによって救われたり、人生を変えられたりする。味わい深いのが、人との関わりとは決して一方通行ではないということ。一方的に救われたと感じている側もまた相手に対して何かしら影響を与えているところに、人生の滋味がつまっている。
『ラストマン』第4話は、いかにして"ラストマン"が生まれたのか。その背景が明かされた回だった。
法の限界と、心太朗が見せた警察の執念
第4話の柱は大きく分けて2つ。1つが、謎の毒針による連続殺人事件だ。被害者の共通点は、痴漢撃退スタンプによる狼の紋章が手の甲に残されていたこと。そして、全員が痴漢グループのメンバーであることだ。
性被害は「魂の殺人」と言われる。痴漢や盗撮といった性犯罪は、被害者の尊厳を踏みにじる卑劣な行為だ。しかし、その加害の重大性や悪質性に刑罰が伴っているかと言われると肯首しがたい。
事件の犯人である真鍋美雪(伊藤歩)の自白後の一言こそ、その不均衡さを物語っているだろう。
「(警察に)届けても、迷惑防止条例違反で終わり。10万円程度の示談金で解決しておしまいです」
被害者側が癒えない傷を受けても、それに値するだけの罰を与えることはできない。だから、私刑が必要だった。
どんな事情があろうと犯罪を許せない護道心太朗(大泉洋)は、痴漢冤罪で自殺した元婚約者が実は痴漢グループの一員だったと明かした上で、「あなたがやったことは復讐でも世直しでも何でもない。痴漢と同じ、人を不幸にする行為でしかなかったんです」と裁いたけれど、実際にはそんなに明快に善悪で分けられないのが難しいところだ。
事実、痴漢に対し不愉快な思いをしていた女性たちは美雪の犯行に喝采をあげていたし、痴漢件数は減少した。重い罰を与えることは、一定の抑止力となるのだ。前回も、不倫と殺人のどちらが重罪かを問うていたけれど、『ラストマン』は殺人はいけないと断罪した上で、勧善懲悪では割り切れない人間の私怨や社会の矛盾を突きつけてくる。
だからこそ、最後に性懲りもなく盗撮を繰り返す松宮聡(前野朋哉)を心太朗と泉(永瀬廉)が捕え、今後、撮影罪として裁かれる未来を予告した上で、「何回でも、何十回でも逮捕してやるからな」と迫るラストはとても良かった。
時に法が無力であることなど、警察だってよくわかっている。それでも法の番人である以上、警察はあくまでも法にのっとり、正当な手続きのもとで犯人と対峙しなければならない。法が現状に追いついていないなら、その法の中でとことん犯罪と戦い続ける。警察の執念のようなものが今回の心太朗には感じられて、その泥臭さも含め、"ヒーロー"と呼ぶにふさわしいものだった。
明かされる秘密。皆実がメディアに露出する理由とは?
そんな性犯罪を題材にしながら描かれたもう一つの柱が、吾妻ゆうき(今田美桜)の過去だった。
近年、女性アスリートに対する性的画像問題は、大きな社会問題となっている。真剣に競技に取り組んでいるだけなのに、その姿を意図せず性的な目で切り取られることは、本人の尊厳を汚す冒涜行為だ。ゆうきもまた盗撮の被害に遭い、それをインターネット上に拡散されることによって傷を負い、やがて競技そのものから離れることとなってしまった。
そんなゆうきの心を救ったのが、皆実広見(福山雅治)だった。目が見えないというハンディキャップを抱えながら、FBIのトップ捜査官として活躍する皆実の存在が、どん底にいたゆうきの光となった。競技者としての道を閉ざされたゆうきに、警察官という新たな人生を与えたのが、皆実だったのだ。だから、ゆうきは皆実の役に立てることがうれしかった。
皆実は、ゆうきの恩人だった。だが、決して救われたのはゆうきだけではない。皆実もまたゆうきによって勇気づけられた。10年前、まだ女子高生だったゆうきが慣れない点字で一生懸命書いた手紙。そのまっすぐな想いが皆実の心を突き動かし、自分の存在が誰かの勇気や元気になるのであればと、積極的にメディアに出るようになった。
第1話から随分メディア対応に前向きだったけど、てっきりそれは皆実が目立ちたがり屋だからなんだと思っていた。けれど違った。その根底には、皆実の原動力である「誰かの役に立ちたい」という想いがあったのだ。"ラストマン"というキャッチーなネーミングを皆実が嬉々と受け入れているのも、そうやってわかりやすい称号を与えられることで人目にふれる機会が少しでも増えればという思惑があるのだろう。ゆうきが皆実によって人生を変えられたように、皆実もまたゆうきによって人生を変えられたのだ。
この第4話では、物語のオープニングとエンディングで皆実とゆうきがジョギングしている姿が描写されていた。目の見えない人が走るには、伴走者が不可欠。両者をつなぐガイドロープのことを"絆"と呼ぶ。
誰かに支えられ、誰かを勇気づけ、時に誰かを支え、誰かに勇気づけられる、そんな"絆"で僕たちの人生はできている。並んで走る皆実とゆうきは、このドラマの根幹にある共生社会への願いそのものだった。
永瀬廉&今田美桜もいよいよ本領発揮
いわば"主役回"を担った今田美桜だが、彼女の演技は実にきめ細かい。世に出た当初の頃は『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』の真矢愛莉のイメージも強く、ぶりっ子キャラや小悪魔的な印象が先行していたけれど、連続テレビ小説『おかえりモネ』の神野マリアンナ莉子ように、上昇志向を持ちながらも見た目で評価されることを望まず、地に足をつけてキャリアを積んでいく理知的な女性もしっかり演じて、一面的な演技にとどまらない幅の広さを証明してみせた。そして、今年公開された映画『わたしの幸せな結婚』ではその境遇から自己肯定感が非常に低いヒロインを繊細に演じあげ、新境地を切り開いた。
この第4話でも、ゆうきの抱える鬱屈を微妙な表情で仄めかせながら、過去に負けずに自分の足で立ち向かう女性の強さを体現した。次世代ヒロイン女優の筆頭格として厚い期待が寄せられるその力量が、今回だけでも十分に伝わってきたと思う。
また、泉にもようやくスポットが当たりはじめた。ゆうきに対して友情以上の感情を抱いている泉。そのことを心太朗にいじられ、いつもよりムキになったような泉の顔は、今までの若手刑事ではない、ちょっと生意気な甥っ子の顔だった。一方、ゆうきの胸中を慮り、捜査から外してもらうように皆実に進言する顔は、永瀬廉らしい、優しくて思慮深い青年の顔だった。
そして、犯人を前に怯むことなく直進する顔は、刑事としての正義感と、ゆうきが傷を負ったことへの怒りに湧いた男の顔だった。
一気にグラデーションが細かくなり、泉の厚みが増した第4話。父・京吾(上川隆也)から監視役を仰せつかりながらも、すでに皆実の人間性に惹かれはじめているところも見せていたが、今後は父と皆実の間で揺れ動く顔なんかも見られるかもしれない。
福山雅治&大泉洋の黄金コンビにがっぷり四つに組む永瀬廉&今田美桜の躍動もますます楽しみになってきた。
(文・横川良明/イラスト・月野くみ)
【第5話(5月21日[日]放送)あらすじ】
インフルエンサーを狙った空き巣や強盗被害が各地で相次ぎ、皆実(福山雅治)は京吾(上川隆也)に、警察庁からのトップダウンで管轄をまたいだ捜査の協力態勢をとるように依頼する。その矢先に人気料理系インフルエンサーのナオン(わたなべ麻衣)が自宅で殺害される事件が発生。皆実と心太朗(大泉洋)が現場に行くと遺体はすでに運び出され、テーブルには華やかな料理が並んでいた。その料理に皆実は小さな違和感を覚える。
皆実と心太朗はナオンが所属しているマネジメント事務所を訪れ、ほかの料理系インフルエンサーにも話を聞くことに。しかし、皆実は料理に舌鼓を打つだけで、なかなか捜査の進展が見えないことに心太朗は焦りを感じる。
そんな中、同じ事務所所属で人気料理系インフルエンサーの青嶌(高梨臨)が暴行を受けてしまう。
◆放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
毎週日曜21:00からTBS系で放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信。
(C)TBS
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