あの乾杯は、契約成立の挨拶だ。アテンド役が必要な皆実(福山雅治)と、「ラストマン」の金看板を使って自由に捜査がしたい心太朗(大泉洋)。『ラストマン』第2話は、利害の一致した2人が、いよいよ真の意味で相棒としてのスタートを切った回だった。
「ありふれた」は、この2人だから分かち合える褒め言葉
エリート一家・護道家の"異端児"だった心太朗。護道家と一線引いたような付き合いをしている理由は、心太朗が養子だからだった。しかも、ただの養子ではない。実の父親は、殺人の罪で無期懲役の判決を受けた服役囚。心太朗が悪を憎むのは、自らに流れる殺人犯の血を恐れ、忌み嫌っていたからだった。
このドラマを見ていると、人はうわべの情報に簡単に流されてしまうことがよくわかる。今回の犯人である青柳直哉(浜田信也)の手口はその典型だ。医師という社会的地位と人当たりの良さを利用して、ターゲットに近づき、周囲の目をくらませる。アリバイづくりのトリックも、部屋と同じ壁が映っているというだけで、誰もがそこを共犯の新城司(アキラ100%)の部屋だと思い込んでしまった。
だが、目の見えない皆実は表面的な情報に流されない。何気ない声の揺れから、相手の感情を読み取るように、動画から伝わる声の反響でそこが別の場所であと見破り、真実に迫っていった。皆実はさまざまなスペックを持っているが、いちばんの武器は本質を見抜く"目"なのかもしれない。
そして、それは心太朗にかけられた疑いの目と重なる。父親が殺人犯だと知っただけで、捜査一課の面々の心太朗に対する反応はがらりと変わった。新城がアップした動画だけで、警察に苦情が殺到した。人は、ほんの一部の切り取られたものだけを見て、簡単に見方を変えてしまう。その人の中にあるものなんて目を向けようともせずに。
だが、本質を見る皆実は、決して心太朗のことを見誤らなかった。
「護道心太朗室長は変態クソ野郎ではありません。まっとうな正義感を持った、ごくありふれた人間です」
「ありふれた」なんて、あまり褒め言葉としては用いられないかもしれない。だが、自分の中に眠る異常性に怯えていた心太朗にとっては、ありふれていると言ってもらえることほど安心することはないのかもしれない。それがわかっているから、皆実もあえて「ありふれた」という言葉を使った。
きっと皆実自身も、「人と違う」ことで不自由な思いもしたし、いわれのない偏見や差別を受けたこともあったのだろう。ありふれていることがどれだけ尊いかを皆実はよくわかっている。まるで似ていないように見える皆実と心太朗だが、そう思うと意外に共通点は多いのかもしれない。
「障碍者」「殺人犯の息子」というだけで、いろんなレッテルを貼られることも多かっただろうし、だからこそ"本質"を見落とさないところもよく似ている。心太朗が青柳を怪しいと睨んだのも、根拠はなかったかもしれないが、この男は信用してはならないという直感が反応したのだろうし、悪の匂いを嗅ぎ取る嗅覚こそが、心太朗の刑事としての武器。皆実の能力の高さを評価しているのも、心太朗もまた人の"本質"を見抜く目を持っているからだ。
そして、犯人を捕まえるためなら違法捜査もいとわないところも2人の共通点。日本のルールが通用しない皆実は犯人を前にしたら発砲も辞さないし、盗聴だって朝飯前。すました顔をしているが、やってることはかなりエグい。でも、そんな危ない2人が組んだら何が起きるんだろうと、よりワクワクが膨らんでくる。
「ありふれた」は、この2人だから分かち合える褒め言葉
福山雅治は、こういう食えない男を演じると、より魅力的になる。これは、スターだから出せる魅力と言っていい。福山雅治には親しみやすさはあるが、生活感がない。「地元の長崎に帰ったら信号が全部青になる」なんてスター伝説がネタになるほど、その暮らしぶりはどこか謎めいている。
だから、極秘にチャーターしたヘリコプターで式典に乗り込んでも、さもありなんという納得感があるし、ホテルのスイートルームに滞在していても、妙な説得力がある。信じられないほどハイスペックな皆実は、非日常的なキャラクターではあるけれど、エンタメとしてきちんと成立しているのは、演じているのが福山雅治だからというのも大いにあると思う。
それこそ、全盲の演技に関しても気負ったところがまるでない。いい意味で努力の跡が見えないのだ。こうした「障碍者」の役を演じると、人はしばしば「体当たりの熱演」といった美辞麗句を使いたくなるけれど、福山雅治の皆実にそんな汗臭い言葉は似合わない。あくまで自然体。むしろ「難役」だなんて思わせない。
なぜなら、俳優の努力だとか熱量だとか、そういうものは演じ手の自己満足であり、大衆には関係のないことだから。そんなエンターテイナーとしての流儀のようなものを、福山雅治のさらりとした演技から感じる。
聞けば、福山雅治は頑張る姿を人には見せたくないタイプらしい。もちろんここまでの地位に辿り着くのに、努力をしていないわけがない。凡人の想像に及ばないような努力を積んできただろう。だが、あくまでそれを見せない。夢を与えるのがエンターテイナーの使命なら、ステージ上で見せるもの以外はすべてノイズ。そのプロ意識が、福山雅治というスターをつくり、飄々とした皆実広見という役をつくっている。
この『ラストマン』は、そんなスターの矜持を堪能できる作品とも言えそうだ。
(文・横川良明/イラスト・月野くみ)
【第3話(5月7日[日]放送)あらすじ】
心太朗(大泉洋)とのバディで事件を立て続けに解決に導いた皆実(福山雅治)が、捜査一課に正式配属となった。
これで事件に心置きなく関われると喜ぶ皆実を尻目に佐久良(吉田羊)は、今まで以上に捜査に邁進する。
そんな折、お騒がせ俳優の本条海斗が殺害される事件が起こる。第一発見者は大物俳優の羽鳥潤(石黒賢)。
実は、皆実は羽鳥が出演する刑事ドラマの大ファン。早速、心太朗と共に彼の仕事場へ。
そこで室内をくまなくチェックする皆実の様子に気づいた心太朗だが、皆実は何を見つけたか心太朗に教えない。
バディは、言わずとも伝わるものだとして、皆実は心太朗の捜査能力を試していた。
そんな皆実の態度に発奮した心太朗は捜査に本腰を乗り出す。
一方、捜査一課の泉(永瀬廉)は、佐久良とともに捜査していく中で、羽鳥とドラマで共演中の女優・篠塚真菜(山下リオ)と本条にある関係があったことを突き止める。
そして事件は予想外の展開を迎えていく。
はたして、犯人は誰なのか。そして、その目的とは!?
◆放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
毎週日曜21:00からTBS系で放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信。
(C)TBS
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