希望の光が差し込んだかと思いきや、また絶望の淵に叩きのめされる感情のジェットコースターが描かれた『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系)第2話。
"水を飲まないと3日しかもたない。食べ物なしだと3週間"と言われる水分がついに枯渇してしまう。頼りの飲み物が入ったカートは姿を消し、車内は犯人探しと理不尽な怒り、諦めモードで充満し、乗客の本性が露呈し始める。実際にはドリンクを箱ごと隠し私物化したのは、家でも会社でも居場所のなかった田中(杉本哲太)だ。この非常事態に陥った後も田中だけが"家に帰れない=自由"だと興奮気味に叫び、場所も時間もお構いなしに「およげ!たいやきくん」を歌っては、自分の歯痛にしか意識は向かず、水がなくなれば高校生相手にお金で買い取ろうとしていた。あの車内でも年齢的には上から数えた方が早そうな田中だが、常にベクトルは自分にだけ向けられており、申し訳ないが家庭でも会社でも威厳を示せないことにも頷ける。
この田中に罰を与え追い出そうとする直哉(山田裕貴)と、それを制する優斗(赤楚衛二)。「一線を超える人にはこうなると示す必要がある」という直哉は「疑わなきゃ助からない」と言い、「そういう見せしめは作りたくない」とする優斗は「協力しないと助からない」と口にし、意見を対立させる。
2人は地獄を前にした時の乗り越え方が違うのだ。凄惨な事故現場に酷い遺体を目の当たりにしてきた優斗は、それでも希望を捨てず生きようとする人が道を開くことを身を持って信じている。そう信じられる環境に身を置いてきたとも言える。またそう信じていないとやっていられないし、自分のせいで消火活動中に事故に遭ってしまった先輩・高倉(前田公輝)のためにも自身がそれを放棄してしまうわけにはいかないのだろう。「そういう約束を沢山しよう、いつか戻れた時のために」とは彼が紗枝(上白石萌歌)に何気なく口にした言葉だが、死ぬ直前まで希望を捨てずにいられるのが優斗なのだろう。
それに対して直哉は、父親の異なる12歳も歳の離れた弟の面倒を当たり前のように見て、2人で何とか生活するのに、生きていくのに必死で、その道以外自分にはなかった。誰かを救うとかそれ以前に、本来もっと周囲に甘え守られるべき年代に頼れる大人が側にいなかった。誰にも目をかけてもらえず、自分たちは"見えないもの"として扱われてきたのだろう。"希望"なんて最初からなかったし、ただただ弟と生きるために、弟を食べさせるために。やれるだけ精一杯やってきたのに、自分の生きる理由と言っても過言ではなかった弟・達哉(池田優斗)が呆気なく捕まってしまい、音信不通になってしまう。ある意味、直哉はこの電車に乗るずっと以前からただただ純粋な"自分のための人生"をペンディングされてきていたとも言える。訪れるかわからない未来に相手を巻き込んでまで無責任な約束などしないし、夢は見ない、見られないのだ。
そんな直哉にとって、何の利害関係もないのに何かと自分のことを気にかけてくれる"お節介ポヤポヤ馬鹿"な紗枝の存在は最初こそ意味がわからず目障りにさえ感じたかもしれないが、実は彼がずっとずっと喉から手が出るほど欲しかったものー誰かからの"関心"―を無償で惜しげもなく与えてくれる人だ。自分が摘んだ野花を、直哉が口から出任せで言った"元恋人の命日"に差し出す。それが嘘だとわかっても尚、いよいよ自身のスマホの充電がなくなるという時に直哉に達哉へのメッセージを撮影するように促すのだ。
当たり前に自分のことよりも相手を優先できる紗枝は、素直でない直哉に臆せず真っ直ぐに「優しい人」だと言った。拒みようのない容赦ない愛情に、慣れない直哉は最初こそ戸惑い居心地の悪さを感じただろうが、紗枝のこの言葉を通して彼は初めて誰かに"本当の自分"を見つけてもらうという経験をしたのではないだろうか。自分の最大の弱点を初めて誰かに打ち明けられた直哉は、また一つ強がらなければならない理由を、周囲を遠ざけようとする理由を手放せた。少なくとも直哉にとっても彼女はもうとっくに"見ず知らずの人"なんかじゃない。
さて、水場を見つけるも、その先に逃げ場のない現実を突きつけられる彼らが次に直面するのは食料危機のようだ。田中が目にした空の割れ目、そして彼に近づく人影も気になるところだ。
(文:佳香(かこ)/写真:(C)TBS)
【第3話(5月5日[金]放送)あらすじ】
直哉(山田裕貴)たちが水源を見つけて飲み水が確保できたことで、乗客たちに少しの希望が見えたかに思われた矢先、直哉が大切にしてきた美容師道具のハサミが入ったバッグが田中(杉本哲太)によって持ち去られる事態が発生する。問い詰めると田中は、帽子を被った怪しい人物を目撃し、護身用としてハサミを持ち出したのだと言う。そんな田中の言い分を信じられず、バッグを紛失されたことにいら立つ直哉。一方、優斗(赤楚衛二)たちは食料を調達しに向かうが突如、紗枝(上白石萌歌)の身にある異変が生じて・・・。さらに、佳代子(松雪泰子)はここで生きていく希望を失いかけていて・・・。乗客たちに更なる試練が襲い掛かる・・・!
◆放送情報
金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』
毎週金曜22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」でも配信。
また、Paraviオリジナル「ペンディングトレイン~終電後トーク~」も独占配信中。
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