キャッチーな設定。時代に即したキャラクター性。巧みな構成。三拍子揃ったドラマがスタートした。

福山雅治×大泉洋の最強バディで送る日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』。注目の第1話から見えたのは、つくり手たちの真摯なメッセージだった。

自分の声は届かない。全盲の捜査官と連続爆弾犯に共通する"孤独"

「どうせ捜査本部のみなさんは私の声に耳を貸しませんよ」

鷹揚とした皆実広見(福山雅治)の口調が、いつになく棘を帯びる。そして、その自嘲と少しばかり非難めいた言葉に、皆実の歩んできた道のりが見えた気がした。

FBIからやってきた特別捜査官・皆実広見。彼は控えめに言って、食えない男だった。警察から容疑者扱いで尋問されても、出前のそばを頼むマイペースっぷり。注目の記念式典に遅れそうになっても意に介さず。それどころかコネを使ってヘリコプターをチャーター。マスコミのフラッシュを浴びながらレッドカーペットを歩く姿は、まるでハリウッドスターのようだった。

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捜査手法も大胆不敵。時には、全盲であることを利用して犯人に接近する計算高ささえ持ち合わせている。おおよそ無力な"障碍者"とはかけ離れたキャラクターだ。

だけど、「要は、このホシを上げて、日本の警察に一発かましてやりたいってことですよね」と指摘する護道心太朗(大泉洋)に、「そうしないと誰も認めてくれませんからね」と言う皆実を見て、彼の泰然自若とした言動は、自分を認めさせるための"パフォーマンス"だったのかもしれないと思った。

10歳のときに火事で視力と両親を失った皆実は、その後、アメリカの祖父母のもとに身を寄せ、大学院時代に発表した論文が認められ、FBIに。このキャリアだけでも相当なものだ。中途失明者ならば、これまでの勉強のやり方とも勝手が違っただろう。院にまで進み、FBIからスカウトを受けるほどの功績を挙げるのに、どれほど努力を重ねたか、想像に難くない。

「やっぱり人に必要とされるのはうれしいじゃないですか」

日頃から人に助けを求める立場の皆実だから、人の役に立てることが余計にうれしかった。障碍の有無にかかわらず、人から必要とされたいという気持ちは、ごく普遍的なものだ。誰かに必要とされるから人は頑張れる。

と同時に、"障碍者"であるからこそ、人から必要されるようになるためには何倍もの努力をしなければいけないことを皆実はわかっていた。事実、"障碍者"というだけで人は相手の力量を簡単に見誤る。FBIのトップ捜査官という実績を引っさげた皆実でさえ、佐久良円花(吉田羊)から「多様性の時代にマッチした宣伝要員」と根拠なく侮られていた。

「どうせ捜査本部のみなさんは私の声に耳を貸しませんよ」という皆実の言葉は、決して自分たち以外のやり方をシャットアウトする日本の警察の閉鎖的な態度を嘆いただけじゃない。目の見えない自分の声はそう簡単には聞いてもらえない、という彼なりの人生訓から得た残酷な事実だった。

そして、その声が届かないという孤独こそが、今回の連続爆破事件の首謀者・渋谷英輔(宮沢氷魚)の叫びと付合する。中学生時代にいじめを受け、引きこもりに。その後は、病気で倒れた母の世話によってさまざまな機会を奪われたヤングケアラーとなった。

社会から断絶され、誰にも自分の声は届かない。マイノリティのSOSは、より大きな声によってあっけなくかき消されてしまう。そんな中、唯一自分を認めてもらえたのが、爆弾をつくることだった。爆弾を配ることでしか、彼は社会とつながることができなかった。

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心太朗の「てめえの都合だけ押し付けて、被害者面してんじゃねえ」は正論だけど、本当に絶望している人にはまるで刺さらない空疎なお説教だと思った。それでは"無敵の人"を止めることはできない。だからこそ、そのあとの皆実の言葉が余計に響く。

「排除された人たちにもやれることはあります。それを見つけ出すのは、とてつもなく大変なことですが、助けてくれる人は必ずいます」

視力を失い、一度は"足手まとい"として排除され、それでも仲間の助けを借りてここまでやってきた皆実だから言える言葉だった。そして、この言葉は社会から孤立したマイノリティだけでなく、他者の困窮を「てめえの都合だけ押し付けて」と自己責任化したがるマジョリティに向けられた問いでもある。

この世に不必要な人なんていない。どんな人にも、それぞれの役割がある。重要なのは、すべての人が自分の役割を見つけ、まっとうできるようになるための社会システムの構築だ。それこそが令和の共生社会なのだと『ラストマン-全盲の捜査官-』は私たちが進むべき道を照らしている。

皆実が日本にやってきた本当の目的とは何なのか?

福山雅治の全盲の演技に驚いた視聴者も多かったと思うが、その背景には全盲所作指導として本作に参加している「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の存在がある。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは、特別なトレーニングを積み重ねた視覚障害者がアテンド役を務め、参加者を暗闇の中へ案内するソーシャルエンターテインメント。そのスタッフが現場に立ち会い、日常所作を細かく指導している。こうした連携からも、このドラマが単に"障碍"をわかりやすいドラマのフックとして利用しているわけではないことがわかる。その真摯さが、ドラマの質を引き上げているのだ。

きっと今後は皆実を助けてくれる人がどんどん増えていくだろう。馬こそ合わないものの心太朗はすでに皆実の能力を十分に認めていたし、技術支援捜査官の吾妻ゆうき(今田美桜)もどうやら皆実に何かしらの恩義を感じているようだった。皆実の存在を面白く思っていない佐久良班だが、心太朗の甥・泉(永瀬廉)はなんとなく皆実の人間性に惹かれはじめているように見えた。まずはこの泉が新しくチーム入りしていきそうだ。

また、第1話終盤で心太朗の兄・京吾(上川隆也)の口から、皆実が鎌田國士という服役囚に面会請求を出したことが明かされた。41年前の事件とは、皆実が視力を失った火事のことだろうか。どうやら皆実は飄々とした態度の裏に、まだ何かを隠しているらしい。

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そもそも心太朗を相棒に指名したのも皆実だという。なぜ皆実は心太朗を選んだのか。このあたりの関係性も今後の気になるポイントだ。

いずれにせよ皆実と心太朗は期間限定のバディ。やがて皆実はアメリカへと帰っていく。2人を待つのは、別れだ。

「お別れする日が楽しみです」「泣かないでくださいね」

この軽口が最高の伏線となって、視聴者さえも泣かせてくれる、そんなラストが今から期待できるような第1話だった。

(文・横川良明/イラスト・月野くみ)

【第2話(4月30日[日]放送)あらすじ】

皆実(福山雅治)は着任早々、吾妻(今田美桜)を勝手に人材交流企画室の新メンバーとして迎え入れた。心太朗(大泉洋)はそんな皆実の勝手な行動が面白くない。
そんな中、東京郊外の河川敷で女性の絞殺体が発見された。先に駆けつけた佐久良(吉田羊)班にまじり、遺体を検死して死亡推定時刻や死因を見事に推測してみせる皆実。一方、心太朗は遺体の状況や匂いからかつて自分が担当した殺人事件と酷似していることに気づく。
その事件は12年前に起きた。医師の青柳(浜田信也)が患者の女性を絞殺死させたのだ。当時、心太朗は強引な手段を使いつつ、青柳を逮捕して自供させた。すでに青柳は出所し、ジャーナリストの新城(アキラ100%)の元に身を寄せているという。
皆実と心太朗が新城の家を訪ねると、青柳は12年前の事件が冤罪だったと主張。さらに、心太朗の衝撃の秘密を暴露する。 その秘密が明かされたことで、心太朗は12年前の事件が誤認逮捕で被疑者の可能性すら疑われるようになる。

◆放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
毎週日曜21:00からTBS系で放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信。
(C)TBS