日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』が4月23日(日)21:00(※初回15分拡大)よりスタートする。
主演は、4年ぶりの連ドラ出演となる福山雅治。演じるのは、日本の警察庁とFBIの連携強化を目的に、期間限定で日本にやってきた全盲のFBI(米連邦捜査局)捜査官・皆実広見だ。皆実のアテンドを命じられた、警察庁人材交流企画室室長・護道心太朗を大泉洋が演じる。
福山雅治と大泉洋。2大国民的スターの共演が話題を呼んでいる本作だが、はたしてどんなドラマに仕上がっているのか。どこよりも早い先取りレビューをPlus Paraviが特別にお届けする。
主人公・皆実の令和らしいオリジナリティとポピュラリティ
こうした事件モノはこれまでも数多く制作されてきたが、やはり鍵となるのは主人公のキャラクター設定。主人公にどれだけオリジナリティとポピュラリティがあるかで人気が決まる。その最初のハードルを『ラストマン-全盲の捜査官-』は軽やかに飛び越えている。
皆実は、ある事故により10歳で視力を失った。だが、目が見えない分、聴覚や嗅覚といった他の感覚が常人より遥かに鋭い。靴音やシャンプーの匂いで、近づいてきた人物を特定。他にも4倍速以上のスピードで音声を聞き取れたり、音の反響で周囲にどんな建物があるか、ある程度把握できたり、その能力はもはや"チート"。さらに、FBI捜査官だけあって格闘術にも長け、捜査能力も天才級。ある意味、漫画的とも言えるほど高いスペックを持っている。
だが、皆実のオリジナリティはそれらの能力ではない。真髄にあるのは、人柄だ。
こうした天才キャラは型破りで集団行動を好まないのがドラマの定石。常識にとらわれない行動に周囲が振り回されながら感化していくのが、定番の流れだ。皆実もそういった部分がなくもないが、決して一匹狼ではない。むしろ「誰かの助けがなければ何もできない」ことを自覚しており、それゆえ「手を貸してくれる人たちへ感謝を惜しまない」人物として描かれている。ここが、とても新しいし面白い。
現実もそうだろう。強い個の力が求められることもあるが、それ以上に大事なのはチームの力だ。チームが協力し合い連携を図ることで相乗効果が生まれる。何より破天荒キャラは遠くで見ている分には楽しいが、近くで一緒に働く人間からすれば迷惑極まりない。しかも、結局振り回されるだけ振り回されて、手柄は破天荒キャラが全部持っていく。ドラマだからギリギリ許されるだけで、凡人からすると報われない話だ。
その点、皆実は持ち前の能力で捜査の先頭に立ちながらも、事件が解決したら、自分を敵視している人間にまで「あなたのおかげです」と感謝を述べる。だから、皆実を快く思っていなかった人間さえ思わず面食らってしまう。この他者を尊重する皆実のキャラクターが令和的で、新時代のヒーロー像を印象づける。
また、皆実は社会的には"障碍者"とされる。こうしたハンディキャップを持ったキャラクターがフィクションに登場する際、しばしば悲劇性が強調されたり、聖人君子として描かれることがある。だが、ハンディキャップを抱えているからと言って、その人が不幸とは限らない。私たちと同じように笑うし、怒るし、僻むし、恋もするし、煩悩も抱く。
皆実も同じだ。脚本の黒岩勉やプロデューサーの東仲恵吾が実際に当事者に取材し、そこで見聞きしたエピソードをベースに肉付けしただけあって、劇中でも「思春期には、ヌード雑誌を見ておけばよかったとひどく後悔したものですよ」とぶっちゃけるなど、なんとも人間らしいキャラクターになっている。目が見えないがゆえに人の助けを借りないといけない点は多々があるが、決してただ守られるだけの可哀想な人間ではないという塩梅が、これもまた令和的で、現代の視聴者の感覚に馴染みやすいものになっているのではないかなと思う。
そんな皆実を、福山雅治が飄々と演じる。プライベートでも白杖をついて行動するなど、徹底した役づくりで築き上げた新たなヒーロー像をぜひその目で確かめてほしい。
福山雅治×大泉洋が魅せる、新たなバディ像
バディ役の大泉洋も、パブリックイメージとはちょっと違うキャラクターを演じている。心太朗は時に行きすぎた捜査で周囲の反感を買う鼻つまみ者。実際、佐久良円花(吉田羊)ら警視庁捜査一課の面々にも嫌われており、愛されキャラの大泉洋とは正反対。冒頭のシーンからグラサンをかけ、ビシッとスーツを決めて登場する。いつものコミカルな洋ちゃんとは違う、ニヒルなキャラクターだ。
バラエティの印象が強くて、つい忘れがちになるが、そもそも大泉洋自身、178cmの長身でスマート。ドラマの設定上、目の見えない皆実の誘導係として、歩行時は心太朗が横に並んでいることが多いが、あの福山雅治と並んで画になるのは、さすが大泉洋だ。
ぐいぐいと捜査現場に出ていく皆実に対し、最も翻弄されるのが心太朗であり、時には皆実に皮肉を浴びせることもあるけれど、皆実の能力をいち早く見抜き、信頼を置くのもまた心太朗であることが第1話の段階から十分に伝わってくる。これはいいバディになりそうだ。
いつもより抑制を効かせたキャラクラーだけに大泉節も控えめではあるけれど、やはり福山&大泉の組み合わせとなったら丁々発止のやりとりが見たいのが視聴者の本音。そんなニーズも漏れなくフォローしている。特にニヤリとさせられるのが、第1話のラスト。2人の軽口の応酬についクスリとさせられてしまって、自然と第2話が早く観たいなという気持ちになる。
しかも、単なる相棒にはおさまらない"因縁"が2人にはあるようで・・・。これからの展開が気になる"引き"もたっぷり散りばめられているので、考察の余地もたっぷりだ。
ヒットメーカー・黒岩勉が描く、娯楽性と社会性を兼ね備えた爽快エンタメ
肝心のストーリーはというと、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』『マイファミリー』の黒岩勉脚本だけあって、テンポ感、緊張感共に申し分なし。第1話は都内で発生した連続爆破事件をめぐって、皆実と心太朗が躍動する。
通常の事件モノとの違いは、最新テクノロジーの活用だろうか。目の見えない皆実は、アイカメラを使って周囲を撮影。そのアイカメラを通じて、技術支援捜査官の吾妻ゆうき(今田美桜)が歩行支援をするなど、現代のテクノロジーはここまで進化しているのかと思わず驚くようなアプリケーションが次々と登場する。
さらに、超人的な聴覚や嗅覚だけでなく、時には"無力な障碍者"というイメージを逆手に取るしたたかさで、犯人に近づいていく。このスリリングな駆け引きが、物語にダイナミズムを生んでいる。
だが、そうした娯楽性はこの物語を覆う表層であり、本質にあるのは制作者たちの共生社会に対する願いだ。本作は1話完結のオリジナルドラマであり、各話の事件は黒岩が日々のニュースに接する中で気になるトピックを盛り込んでいる。
第1話でも"無敵の人"など近年よく見聞きするワードが登場する。なぜ"無敵の人"は生まれるのか。そこには、誰も自分を救ってくれない社会に対する絶望がある。
助けを呼ぶ声がどこにも届かぬまま、切り捨てられる弱者たち。彼らが"無敵の人"になる前に、社会は、私たちは何ができたのだろうか。
こうした時代の影に対し、現代の日本では"弱者"と位置づけられることが多い"障碍者"である皆実を主人公に置くことで、このドラマはひとつの答えを照らそうとしている。皆実は言う。
「私は社会のために自分の力を使いたい。昔と比べればテクノロジーの力によって、多少は自由に動けるようになりました。あとは、周りの人たちが一緒に働こうと思ってくれるかどうか、それだけなんです」
どんな人にもできることとできないことがある。できることで力を発揮し、できないことは助け合う。そうやって肩を組んでいけたら、格差と分断を乗り越え、もっと1人ひとりが生きやすい社会になるんじゃないだろうか。そのためには、相手のことを知り、尊重し、感謝する姿勢が重要だ。
皆実の"ラストマン"という異名は、事件を必ず終わらせる最後の切り札という意味があるらしい。ならば、皆実はそれぞれ違いを持った者同士が手を取り合う時代を築くための最後の希望でもあるのかもしれない。そんなメッセージを感じながら、伝統の日曜劇場が総力を挙げて贈る爽快エンタメに心ゆくまでワクワクしてみたいと思う。
(文=横川良明)
◆放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
2023年4月23日(日)スタート
毎週日曜21:00からTBS系で放送(※初回25分拡大)。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信される。
(C)TBS
- 1