演劇とお笑いの要素をあわせ持つグループ「ダウ90000」は、「今をときめく」という陳腐なフレーズを思わず使わずにはいられないほど、圧倒的に今をときめき散らかしている逸材である。

2020年結成の彼らは、ライブ活動を中心に着実にファンを増やしていき、『M-1グランプリ2021』準々決勝進出、『ABCお笑いグランプリ2022』決勝進出などをきっかけにして、お笑い界にその名を轟かせる存在となった。

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彼らは自分たちのことをあえて劇団とも芸人とも呼ばず、独自のスタンスを貫いている。そのことでお笑い畑の人からは「演劇っぽい」と言われることもあるのだが、個人的にはそこまで演劇っぽさを感じることはない。

なんというか、割と真正面からちゃんとした「お笑い」をやっていると思う。どのネタを見ても、どの公演を見ても、笑わせるためにこれをやっている、というはっきりした意志を感じる。人を笑わせることを仕事にしている人を芸人と呼ぶのなら、彼らは間違いなく芸人である。

そんなダウ90000の恐ろしいところは、(変な言葉だが)圧倒的なそつのなさである。自分たちのネタや公演だけでなく、ほかの芸人とのユニットコント、インタビューでの発言、バラエティでの立ちふるまいなど、何を見てもとにかくそつなくこなしている。

ここで言う「そつなく」とは、単に技術的に達者であるということではなく、メンバー全員が一定のコンセプトのもとにダウ90000として正しく有機的に動いているように見える、ということだ。

とにかくダウ90000は外さない。その場その場で正解を出し続けている。それができているのは、脚本・演出を担当する主宰の蓮見翔のプロデューサー的な手腕によるものだろう。彼にはここまでの道のりがはっきり見えていたからこそ、順調に歩みを進めることができた。今後のこともよく見えているに違いない。

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そんな彼らにとって新しい試みとなるのが、全5話のParaviオリジナルバラエティ『ダウってポン』である。ダウ90000の大ファンであるという女優の松岡茉優をゲストに迎えて「9MC1ゲスト」の往年のバラエティ番組に挑むのだという。

彼らがカラフルな衣装に身を包んで収録スタジオにいる様子の宣材写真もある。この時点で面白そうな雰囲気はあるが、いざフタを開けてみると、一筋縄ではいかない内容だった。

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第1話の冒頭で、松岡が撮影中に怪我をして、予定していた収録が中止になってしまう。ダウ90000のメンバーとスタッフが急きょ代わりとなる企画を検討することになり、話し合いが行われる。

その中で、栃木の大衆演劇の座長からの誘いを受けて、ダウ90000が彼らの劇場に出向いて公演を行うまでの過程を撮影するという企画が持ち上がり、それをやることに決まる。ところどころにフェイクの要素を交えつつ、ロードムービー風の企画が行われることになる。

フェイクの要素が入ったドキュメンタリー、いわゆるフェイクドキュメンタリーというのは古くからある演出手法の1つであり、バラエティ番組でもときどき見られるものだ。

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ただ、『ダウってポン』がフェイクドキュメンタリーとして特殊なのは、フェイクドキュメンタリーであることを作中で明言しながらも、仕掛けの入れ具合が絶妙で、どこまでがフェイクでどこまでがリアルなのかを、最後まで視聴者にはっきり悟らせないところにある。

これは本気なのか、仕込みなのか。仮に仕込みだとして、それを仕掛けているのはメンバーなのか、スタッフなのか。何もわからないまま淡々と出来事は進んでいく。お笑い界・演劇界に突如現れた謎のグループ・ダウ90000の得体の知れなさそのものが、得体の知れないフェイクドキュメンタリー空間と重なり、不思議な世界観を生み出している。

ここまで読まれた方は何となくお気付きかもしれないが、この『ダウってポン』は細かいネタバレができない構造になっているため、具体的な内容に触れるレビュー記事が実に書きづらい。もっと言うと、ネタバレも何も、そもそも何がどこまで真実なのかというのもよくわからない。

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でも、これはこれで彼らの素顔の一面を捉えた作品になっているような気もする。純粋なドキュメンタリーではないからこその真実味がそこにはある。ウソから出たまこと、フェイクの中のリアル。そんな瞬間がたしかにある。

ところどころで彼らの人間臭さも見えるが、最終的にはやっぱりそつなく締めるよね、という感じがするところもいい。ダウ90000という何もかも新しい気鋭のユニットである彼らにとっても、間違いなく新境地となる意欲作である。

(文=ラリー遠田)

◆配信情報
『ダウってポン』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。
(C)Paravi