北川悦吏子のオリジナル脚本×広瀬すず・永瀬廉出演のドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)の最終話である第10話が3月21日に放送された。九州の片田舎で育った"野生児"のような女の子・浅葱空豆(広瀬)が音楽家を目指す青年・海野音(永瀬)と運命的で衝撃的な出会いをすることから始まる青春ラブストーリーが描かれる本作。
前回、雪平邸での束の間の再会で、互いの思いを確かめ合った空豆と音。しかし、それは2人の別れの確認でもあったかに見えた。
空豆は自身を捨てた母・塔子(松雪泰子)と再会を果たし、2人でパリに行くことを祖母・たまえ(茅島成美)に伝えに行く。かつて服かパリか選べと塔子に迫り、母子を引き裂いたたまえは、「良かったな、ママ、あんたんとこ迎えに来たなあ」と寂しくも嬉しそうな表情を見せる。愛情を上手に伝えられない意地っ張りで不器用な3世代は、どこか似ているのかもしれない。
パリ行きが目前に迫り、空豆と共に行くパタンナー・葉月心(黒羽麻璃央)は、セイラ(田辺桃子)から、とある誤解について聞かされる。それは、セイラと音が付き合っていないこと。空豆に思いを寄せるセイラは、空豆が音を好きだと知り、嫉妬心から2人を遠ざけるため、空豆が葉月と付き合っていると音に嘘をついていたのだ。セイラは空豆が旅立つ間際に、自身の嘘を音に打ち明ける。
しかし、空豆と音のすれ違いは続く。パリに出発する日、響子(夏木マリ)はサプライズの見送りにセイラと音も呼んでいたが、レコーディングが録り直しになったことから、空港に行けなくなり、音は空豆宛ての手紙を響子に託したのだった。
そんな旅立ちの3年後、なんと空豆は日本に戻っていた。"ソラマメ"というブランドのデザイナーとして活躍したが、パリのファッション業界で疲弊した空豆は、宮崎に帰って知り合いのウエディングドレスや作業着を作って過ごしていたのだった。生地探しに九州に来た「アンダーソニア」のデザイナー・久遠徹(遠藤憲一)と再会し、再び東京に来るように誘われるが、空豆はもう服を作るときめきを失ってしまっていた。
一方、アーティストとしてさらに人気を博していた音とセイラのユニット・BPMは紅白出場が決定。セイラは空豆に電話し、空豆を友達ではなく恋愛対象として好きだったこと、嫉妬心から音と遠ざけるために嘘をついたことを打ち明ける。空豆は「もうええよ、昔の話」と笑うが、その夜、音から手紙が届く。
そこにはBPMの福岡公演のチケットと「来て」というメモが。空豆は足を運ぶが、音が自分とはもう違う場所に立っていると感じ、そのまま去る。空豆が帰ってしまったと聞いた音は空豆にLINEをし、直接話したいことがあると伝えるが、待ち合わせの場所を記したLINEは既読にならない。空豆のスマホの充電が切れてしまったためだ。
誰もが「コンビニで充電器を買え」と思う展開だが、それを思いつきもしないのが「野生児」空豆だ。しかし、空豆は音の手紙に同封されていた2人の"運命の出会い"の証――落下した際に入れ替わったイヤホンを見て、2人が出会った交差点を目指す。一方、音はLINEの既読がつかないことを気にしつつ、交差点へ。そこには空豆の姿はなかったが、空豆のモノらしい(なぜわかったのかは謎)ストールが結んであった。それを手にし、歩道橋に駆け上がった音は、下に空豆の姿を見つける。
音は自分が紅白に出られたら空豆にまた会えると思い、頑張ってきたのだと言い、「あんな風に同じ曲、同じ日に聴いていたなんて」と空豆との出会いを"運命"と感じていたことを初めて明かす。それは空豆が抱いていた思いでもあった。
「好きだった、好きだ! 今も!」と思いが溢れ出す音。出会ったときから「運命」を感じつつも、それを口にせず、すれ違い、遠回りし、ようやく2人は同じ場所で思いを伝え合うのだった。
正直、何かと無理がある「偶然」とポエムのようなキラキラ場面のつなぎ合わせが気になる部分はあった。しかし、サラブレッドとしての出自、神様の「ギフト」とされる才能を持ちつつも、戦う人生ではなく「楽しむ人生」を選んだ空豆は、実に令和らしいヒロインだった。そして圧倒的輝きを持ちつつも、そこに価値を見出さず、常に臆病さや諦め、痛み、悲しみを抱きながら小さな幸せを求めてもがく空豆は、広瀬すずだから成しえたヒロインでもある。内容的には賛否両論あった中にも、時代のメッセージ性と、広瀬すずの存在感・芝居の巧みさが際立つ作品だった。
(文:田幸和歌子/イラスト:まつもとりえこ)
◆放送情報
『夕暮れに、手をつなぐ』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。
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