"2人らしい"ほっこりするラストが見られた『来世ではちゃんとします3』(テレビ東京系)最終話。
松田健(小関裕太)は恐れていた姉・黒木百合(長井短)が逮捕されたと知って安堵する。(百合は結婚しており、夫婦で保険金詐欺をしていたというのも衝撃だ。)
松田が逃げも隠れもしなくて良くなったということは、元セフレの桜木亜子(小島藤子)にとっては自身と松田を繋げるシェルターの役割の終了を意味する。頭ではわかっていたことで、何度も何度も勘違いをしてしまわぬよう、かないっこない淡い期待を抱いてしまわぬようにと自分の気持ちにセーブをかけてきたが、避けられない別れがついにやって来てしまったのだ。
思っていたよりも早く訪れた別れに亜子ちゃんは、相手の出方や一言や気持ちに今この時を委ねてしまわず、自分の大切な気持ちはあくまで自分だけのものとして抱えて生きていくと決めたようだ。
「私、松田くんのこと世界で一番大好きだし、一生大好き。ずっと味方なのは変わらない。けど前に進むね、一歩ずつ」
そう言えた彼女は強い。駆け引きしたりすがりついたり、恩着せがましいことを言うのではなく、相手からの同意やリアクションを引き出そうとするのでもなく、素直な気持ちを伝えられた亜子ちゃんは、ちゃんと決定権を自分の手にできている。
なんだか「自分が求める相手に出会えなかったとしても、それはそれでいいかなって。一人でたくましく生き抜いていけばいいだけじゃん」と夕焼けに言った高杉梅(太田莉菜)の言葉が重なる。
もっと格好良くなった自分で心ちゃん(中川知香)と再び会いたいと慣れない筋トレに励み、それもようやく板に着き始めた頃に彼女が風俗店を辞め唯一の接点さえも途絶えてしまった檜山トヲル(飛永翼/ラバーガール)も、百合にすっかり取り憑かれてしまっていた林勝(後藤剛範)も、隠し事をしていることに互いに罪悪感を持っている大森桃江(内田理央)と松田のわだかまりも、すべてを相殺するかのように突然降って湧いた緊急修正案件。なかなか直視するには酷すぎる現実を突きつけられた際に、"目の前にやらなければならないことがある"状況がありがたかったりもする。
CG制作会社「スタジオデルタ」らしいてんやわんやで充満した空間では、さながら文化祭前日のような慌ただしさと興奮が彼らを覆い、前へ前へと否応なしに押し進める。言い知れない虚無感や割り切れない感情に襲われた際に、ある意味タスクと締切が明確な仕事というものは手近に"達成感"を味あわせてくれる特効薬になり得る。なんだか元気がなかったり、何かあっただろうことまではうっすら勘付いても、全ての悩みや痛みをシェアし合っているわけではない職場の人間関係が心地よく、その瞬間だけでも余計なことを考えなくてすむ。
本作では相手を滑稽なまでに一生懸命大切に想ういろんな人間の嘘のない姿が描かれる。誰も美化されることなく、ズルさもあれば弱さもあって、心底自分を嫌いになってしまいそうな夜もあれば後悔に身をよじることもある。でもそんな出し惜しみのない日常全てひっくるめて、なんて情けなくもあり愛おしいのだろう。
仕事も一山を超えた後、桃江と松田は互いの罪悪感を"せーの"の掛け声の後、分かち合う。あれだけモヤモヤしていた自分の心境こそが、相手も嘘をついていない何よりの証明になる。そんな合わせ鏡のような2人の姿が微笑ましい。
"ずっとセフレとしかしてこなかった"桃江が"いよいよ本命彼氏と結ばれるんだ"とその幸福を全身に吸い込もうとした瞬間、それを遮るような呼び出し音がけたたましく鳴る。これもまた一興。この間の悪さこそ、桃江と松田くんらしい。
そんな"2人らしさ"を一緒に象っていく彼らをずっと見つめ続けられて幸せなシーズンだったなと改めて思う。
文:佳香(かこ)
◆放送情報
ドラマParavi『来世ではちゃんとします3』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中
(C)「来世ではちゃんとします3」製作委員会
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