北川悦吏子のオリジナル脚本×広瀬すず・永瀬廉出演のドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)の第9話が話が3月14日に放送された。九州の片田舎で育った"野生児"のような女の子・浅葱空豆(広瀬)が音楽家を目指す青年・海野音(永瀬)と運命的で衝撃的な出会いをすることから始まる青春ラブストーリーが描かれる本作。
前回、自身の小さなショーのデザインとコレクションテーマ「Don't remember days, remember moments」を「アンダーソニア」のデザイナー・久遠徹(遠藤憲一)にパクられた空豆。パニック状態で音に電話するが、音は出ず、空豆に思いを寄せるセイラ(田辺桃子)の"横恋慕"により、電話は取り次がれないまま。さらに、空豆への思いが溢れ出して泣くセイラと慰める音の姿を目撃し、抱擁と勘違いして泣き崩れてしまう。そこに傘をさしかけたのは、パタンナー・葉月心(黒羽麻璃央)だった。
「すれ違い」と「誤解」により、距離ができてしまった空豆と音だが、そこから音がセイラと、空豆が葉月と付き合うような展開にならないのが本作のポイントだろう。
アンダーソニアを辞めた空豆は、自力で新たな道を進もうとするが、決まっていたショーが中止に。アンダーソニアと付き合いの深いスポンサーが降りてしまったため、ショーをやるには自腹で資金を集めてやるしかないと言われてしまう。
さらに空豆と音を唯一つないでいた、音とセイラのユニット・BPMの衣装を作る仕事も、BPMの売り出しに力を注ぐ事務所が売れっ子のデザイナーに依頼したことにより、奪われてしまう。何もかも失って絶望する空豆に、響子(夏木マリ)が与えたアドバイスは、「最強のカード」、世界のトップデザイナーで空豆を捨てた母・塔子(松雪泰子)を利用すること。「それくらいでなきゃ一流にはなれない」と響子に背中を押され、覚悟を決めた空豆は、かつてBPMの衣装を見て連絡してきた塔子の連絡先を音に尋ねる。
かつてはお手玉をぶつけ合い、じゃれ合っていた2人にはすでに距離ができていた。互いに自分の思いをLINEで送るが、既読になる前に送信取り消しをし、なかったことにする2人。いつでも連絡がとれる便利なアイテムを得てもなお、いや、便利だからこそ自分の中で勝手に思いを閉じ込め、すれ違っていく2人が歯がゆい。
一方、空豆は塔子に連絡をとり、再会。しかし、思い描いていたような「感動の再会」はなく、目も合わせずに「何飲む?」と聞く塔子に、空豆は席を立つ。そこで初めて「ごめん、親らしいこと何一つできず」と空豆に声をかける塔子は、ずいぶん勝手だ。しかし、自身の夢のために子を捨てた自責の念のみ抱え続け、「親」になれない幼さ・無情さが、デザイナーとしての成功につながった部分もあるのだろう。
そんな塔子に空豆は金を貸して欲しいと言う。その目には親への愛情も甘えも、媚びもない。自分を捨てた負い目もあるだろうと正面から突きつける空豆の乾いた目が、切ない。
空豆のデザイン画に目を通した塔子は、パリでコレクションをやろうと提案する。実はBPMのおはじきのドレスを見たときから、スカウトしようと思っていたのだと言い、「あんたの母親にはなれなかったけど、夢叶えるお手伝いさせてよ」と言う。実際に塔子が空豆の「才能」に注目していたとしても、モヤモヤする言い方だ。そして、空豆の思いとは別に、停滞していた人生が目まぐるしく展開し始めたのだ。
一方、空豆の才能に嫉妬し、コレクションテーマとデザインをパクッた久遠は、空豆にそれらを返し、「経年劣化」というテーマで自身のコレクションを進めることを決める。また、BPMは歌番組に出るなど、活躍の場を広げていく。
そんな折、響子に招かれて久しぶりに音が雪平邸を訪ねて来て二人は再会する。それは、新曲のレコーディング前の束の間のひと時だった。空豆は自分の知らない音の楽曲がどんどん増えていくこと、音は空豆がパリに行くことも母親と会ったことも知らずに響子から聞いたこと、それぞれ自分の知らない相手の近況にショックを隠せない。
だが、空豆はふと「手つないだの、覚えてる?」と音に聞く。
「忘れた、空豆の事は何もかも」
――不意に二人の心の距離が近づく。
「手をのばしたら届く? 音に届くと?」そう空豆が聞くと「届くんじゃない? わりと簡単に」と音は答え、2人は空白の時間を埋めるように抱擁した。2人はようやく互いの思いを確かめ合ったのだった。
それにしても、「塔子」という最強カードを使ったことで、人生が一気に好転していくのと反比例するように、空豆の目から光が失われていく。ショーウインドウのドレスを眺め、見つけたばかりの夢に夢中になっていた輝きは、もうない。真っすぐな空豆らしからぬ手段を使ったことで、もはや空豆自身の夢、人生ではなくなってしまったのか。広瀬すずの多彩な表情が終始物語を牽引していた第9話だった。
(文:田幸和歌子/イラスト:まつもとりえこ)
【最終話(3月21日[火]放送)あらすじ】
「音の消えた世界」
デザイナーとしての夢のために、空豆(広瀬すず)は母親・塔子(松雪泰子)と一緒にパリへと旅立つ日が近づいていた。運命的な出会いから、忘れられない日々を一緒に過ごした空豆と音(永瀬廉)の、胸を締め付ける切ない恋の行方とは!?
◆放送情報
『夕暮れに、手をつなぐ』
毎週火曜22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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