英介(荒川良々)めええええ。

「殺さなくてもいいじゃないですか」という悠依(井上真央)の台詞に、「ほんまそれやぞ」と武力行使も辞さない気持ちになった『100万回 言えばよかった』。第9話で語られた真実は、想像以上に理不尽なものだった。

直木もまた"体を奪われてきた"子どもだった

もうちょっと英介のことをいいやつだと思っていた僕は、人を見る目がないのかもしれません。直木(佐藤健)殺害の犯人は、英介で確定。しかもその理由は、自分の過去の悪行が明るみに出るのを防ぐため、というなんとも利己的なものでした。

千代(神野三鈴)のもとで売春斡旋の片棒を担いでいた英介。今は足を洗い、当時のことを悔やむ一方、「僕の罪は時効だ」とどこまでも責任逃れ。「今の僕のままでいさせてくれよ」と、真相を突き止めた直木に懇願します。だけど、そんな英介に直木は言う。

「それ、言えますか、今、体奪われている子に」

たとえ目の前の人がどんなに関わりの深い相手でも、決して必要以上に庇いはしない。たとえ100人の子どもを救うことができても、そのために1人の子どもを犠牲にするのなら、それは違う。あれは、自分もまた弟のために"体を奪われてきた"子どもだった直木だから言えた言葉だと思う。弟の幸せのために尊厳を傷つけられてきた直木だからこそ、踏みつけられて声も出せずにいる人のことを捨ておけなかった。

直木は、優しくて、強くて、正しい人間だった。

でも、その優しさが、強さが、正しさが、直木の命を奪うことになった。一旦は罪を認めた英介だったけど、それは直木を油断させるためのフェイク。隙をついて背後から直木を刺し、最後は馬乗りになって、直木の腹部に鋏を突き立てた――。

もうね、あまりにもひどい。必死に抵抗しようとして、だけど最初に受けた背中の傷のせいでどんどん力が抜けていく直木を見ているのが辛くて辛くて仕方なかった。

直木には、未来があった。直木には、約束があった。直木には、これからも一緒に生きていきたい大切な人がいた。

そのすべてを、英介の保身のためだけに壊された。今際の際まで、英介を信じようとした直木。そんな愛すべき友人の声を振り払うように、英介は最後の一撃を振り下ろした。

もう動けない体で直木が手を伸ばしたのは、床に転がったセントポーリア。かつて教えてもらった、「幸せなお家に咲く花」だ。温かい家庭に恵まれなかった直木にとって、それは憧れであり、悠依との思い出の花だった。鉢植えの割れたセントポーリアは、壊されてしまった直木の幸せそのもので。もう二度と戻らない温かい日々を見ているようで、悔しさに身がよじれそうだった。

もっと寛容な社会なら、英介は罪を重ねずにすんだのか

正直、英介に同情したい気持ちはない。結局、更生したように見えて、英介の根っこは、ずるくて、卑怯で、我が身を守るためなら他人がどんな辛い目に遭っても厭わない、自分本位な男なんだと思ってしまった。それを、彼もまた温かい家庭に恵まれなかったからだとか、そんなふうに擁護してあげたいとは思わない。だって、彼はのちにちゃんと勝(春風亭昇太)という惜しみない愛を与えてくれる人に出会っているのだから。彼が罪を重ねたのは、彼自身の責任だ。

ただ一方で、もしも社会が他者の過ちに対してもう少し寛容であれば、英介は自分の犯した罪をちゃんと償うことができたのかなとも思う。

「キャンセルカルチャー」という言葉が広まって久しい。社会的地位を得た人物が、過去の犯罪や不祥事、不適切な言動を理由に批判を浴び、そのキャリアを剥奪される光景を、僕たちは何度も見てきた。そのたびに思う、人は過去の失敗をいつまで背負わなければいけないのだろうと。

もちろん罪は償うべきだ。けれど、この世に清廉潔白な人はいない。犯した罪と、支払われた代償の重さがあまりにもアンバランスに感じることも非常に多い。そんな社会を見渡していると、罪に対し相応の罰を受け、しかるべき贖罪を経てもなお批判の矢が止まないからこそ、罪を認められない人、必死に隠蔽を図ろうとする人が絶えないのではないのか、とも思う。

英介は言っていた。「甘いよ」と。「世間は許してくれないよ」と。一度、罪人の烙印を押された人は、たとえ悔い改めても、たとえそこからどんなに善行を重ねても、社会から冷たい目で見られ続ける。そう英介は感じていた。だから、最終的に自爆した。

このループを断ち切ることこそが、英介のような人を一人でも減らす最善策なんじゃないだろうか。そして、それにはふさわしい償いと赦しが重要なのだと、罪の連鎖に絡め取られた英介を見ながら思った。

悠依と直木のトップオタは魚住さんで決まりです!

まるで最終回のようだった第9話。千代も逮捕され、事件の全容はおおむね明らかに。直木の遺体を山まで運んだのは、英介と見ていいのだろう。ブルーシートに包んだとはいえ、なぜ遺体をまるで隠そうともせず野ざらしにしたのかはわからない。もしかしたら逮捕の直前のように勝の幻影を見て、慌ててその場を立ち去ったのかもしれない。本当の意味での償いを終えるまで、英介は勝の幻影に怯え続けるのだろう。

これまで悠依のバックボーンがほとんど語られることがなかったことは、主人公に感情移入するという視点で考えるとちょっと物足りない気もするけど、その分、最終回では記憶の中で語られるだけだった直木の弟が登場するようで、この弟の存在が悠依と直木にどんな影響を与えるかは大きな見どころになるはず。

何より第9話ラストで登場した、実体化した直木の謎が最終回における最大のポイント。おそらく成仏する前に弥生(菊地凛子)がハヨン(シム・ウンギョン)に見えたように、幽霊になった人にだけ残されたトラディショナルタイムのようなものがあるのだろう。

そこで、悠依と直木と魚住(松山ケンイチ)はどんな時間を過ごすのか。

魚住の体を借りた状態では、直木は自分の想いを悠依に伝えることはしなかった。他人の体で、他人の声で、本当の気持ちは言えない。では、自分の体なら...? ついに『100万回 言えばよかった』のタイトルを回収する日がやってきそうだ。

とりあえず悠依と直木のやりとりを見ている魚住の目が完全に推しカプを見るオタクのそれだったので、悠依と直木のTO(トップオタ)は魚住さんで決まりです!

【最終話(3月17日[金]放送)あらすじ】

直木(佐藤健)が巻き込まれた一連の事件の全貌が明らかとなり、直木を殺害した英介(荒川良々)と多くの犯罪に関与した武藤千代(神野三鈴)が逮捕された。

譲(松山ケンイチ)の計らいもあり、悠依(井上真央)と直木は最後の時間を過ごすことができた。だが本当に伝えたいことは伝えられず、別れの時間がきてしまう・・・。そしてついに直木は悠依と譲の前から姿を消してしまったのだった。

直木のいない世界を生きる覚悟を決めた悠依の元に、夢か幻か...姿を消した直木が現れる。一体どういうことかと混乱する悠依に、直木が告げたのは・・・。

◆放送情報
『100万回 言えばよかった』
毎週金曜深22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。