悠依(井上真央)、逃げて~!!

ついに明らかになった真犯人の正体。『100万回 言えばよかった』第8話はあまりに怖すぎるあの人の演技力のせいで、サスペンスを超えて完全にホラーでした。

荒川良々が怖すぎてもはやぶどうグミに対する風評被害

グミ男はやはり英介(荒川良々)だった。

莉桜(香里奈)の入院先で英介と遭遇した悠依は、英介の提案で勝(春風亭昇太)の家へ。ここを子どもたちのための施設にすると夢を語る英介。その言葉だけを切り取れば、子ども想いの善人そのもの。だけど、顔に影の射した英介からは不穏な気配が立ち込める。

そんな不気味さを加速させるように、悠依の電話が鳴る。電話の相手は、魚住(松山ケンイチ)だ。魚住は悠依に告げる、英介が直木(佐藤健)を殺した可能性があると。英介は、かつて少年鑑別所を出所した希也(永島敬三)の身元引受人となっていた。生前、そのつながりを掴んだ直木が、英介によって殺されたかもしれないと魚住は推理したのだ。

その事実を知らされた悠依の背後に響く、くちゃくちゃとしたグミの咀嚼音。この咀嚼音があまりにも気持ち悪くて、音声さんのマイクがいい仕事をしすぎている。ちょっと挙動不審なまばたきとか、顔の筋肉の引きつらせ方とか、荒川良々の持つ独特の個性が怖い方向に全振りしていて、夜中に1人で観るものじゃない。ぶどうグミが軽くトラウマになりそうで、完全にぶどうグミに対する風評被害です。

でもここで、悠依がただのか弱いヒロインにならないところがカッコよかった。悠依はこの場に直木の幽霊がいると機転を効かせる。その絶妙なアイデアに、口笛だけが聞こえるという設定がここで活きてくるのかと思わず唸り声を上げてしまった。前回のラストで姿が見えないことにより悠依を守れなかった直木が、今度は姿が見えないことによって悠依を守れたという対比にもなっていて、身の縮むような恐怖と、胃の底から湧いてくるような爽快感がない混ぜとなる、怒濤のクライマックスだった。

カッコ悪い静電気さえ、直木を感じられる存在証明だった

さらに、今回はラブシーンでもキュンとする場面が。ハヨン(シム・ウンギョン)の一件を経て、悠依は直木を幽霊のまま現世にとどめておくことに対し、疑問を抱くようになる。

夜の屋上で聴こえる『大きな古時計』の口笛。あんなに下手くそだった口笛が、少し上手になった。幽霊になってから、たくさん口笛を吹くようになって、ちょっと上達したのだろう。でも滑らかになった口笛が、悠依にとっては直木をこの世に縛り続けている時間の長さにそのまま重なる。

「直木、消えてもいいよ」

独り言みたいにつぶやいた悠依の言葉。悠依から初めて口にした、別れの言葉だ。直木はその言葉にイエスともノーとも答えない。ただ、『大きな古時計』の続きを吹く。そして、いつもの平井堅アレンジのフレーズで、直木の唇に悠依の唇が重なる。

見えないはずの2人のキス。ただ唇が重なっただけの偶然かもしれない。でも、偶然だけじゃないと信じたい。

2人の心が通じ合っているから、起きた奇跡。あのイタズラな静電気さえもなんだか可愛くて。普通の恋人同士のキスならカッコ悪いハプニングかもしれないけど、直木の姿が見えない悠依にとっては、頬に走る痛みですら直木を感じられる数少ない存在証明なのだ。

でもなぜだろう。2人がふれ合うことのできた幸福感よりも、せつなさの方が大きかった。きっとそれはあのキスシーンそのものに別れの予感が漂っていたから。もう2人で一緒に過ごせる時間はそんなに長くない。いつか離れる覚悟を決める瞬間がやってくる。それがわかるから、息が苦しくなるみたいに胸がギュッと締めつけられる。

どうして直木は幽霊になってこの世にとどまっているのか。直木の思い残しとは何なのか。このドラマの一番の謎ももう間もなく明かされるだろう。それが、2人の別れのときだ。魚住に憑依できる機会も、あと1回残されている。そのラスト1回で直木は悠依に何を伝えるのか。きっと涙なしには見られない別れが僕たちを待っている。

あの生き返りに関する情報は一体何のフラグなのか

一連の殺人事件についても全貌がおおむね見えてきた。涼香(近藤千尋)を殺したのは、希也で確定でいいだろう。だが、希也が自殺かどうかは断定できない。むしろ、自殺に見せかけて殺されたという線の方が有力だと見ている。

だとすると、希也を殺したのは、直前に希也と会っていた英介か。しかし、英介が希也を手にかける理由もわからない。動機という点では、千代(神野三鈴)の方がよほど筋が通っている。顧客リストの流出を防ぐため、千代が希也を始末した。きっとこのあたりの真実は、目を覚ました莉桜が明らかにしてくれそうだ。

直木殺しの真相はと言うと、このままの英介が真犯人で決まりか。まだ残り2話あるだけに、最後にもう一度ひっくり返る展開があってもおかしくはないけど、このドラマはあくまでミステリーではなくラブストーリーなので、最後はどんでん返しよりも悠依と直木の別れに時間をかけそうな気がする。

仮に英介がこのまま犯人だとして、現状を見る限り、英介が明確な殺意を持って直木を殺したとは考えにくい。そこで気になるのは、英介の過去だ。英介は子どもたちの救済に人生を懸けている。おそらく自分が千代のもとでやってきたことに対する罪滅ぼしであり、勝にしてもらったことを今度は自分が子どもたちにしてあげたいという想いがあるのだろう。ただ、普段は温厚だが、子どものための施設をつくるという夢を語る中で突如激昂したように、何かの拍子で不安定になるところがある。きっとここに英介のトラウマがある。

おそらく事件発生時、勝の家に直木と英介ともう一人誰かがいたんじゃないだろうか。今回のように何かのきっかけで英介は暴走してしまい、衝動的にもう一人の誰かを刺そうとした。直木はそれを庇って命を落としてしまったのでは、というのが個人的な見立てだ。そして、そのもう一人の誰かというと、もはや千代しか考えられない。

直木は、親から愛されたいと願いながら、十分な愛を受けずに育ってきた。おそらく英介も同様だろう。そんな愛情に対する飢えが事件の引き金となっていそうだが、脚本の安達奈緒子は残り2話をかけて何を描くだろうか。

また、弥生(菊地凛子)が話していた生き返りの情報も気になるところだ。かつて誰かの体をもらって生き返った人がいるらしい。だが、だとすると別の誰かの人生を乗っ取る形になるわけでちょっと後味が悪い。もし魚住の体に直木が宿ったとしても、それでハッピーエンドというのは、さすがに気が引ける。

終盤になって突然ぶち込まれた生き返りに関する情報は、一体何のフラグなのか。

とりあえず今回は、ウジンに似せようと魚住にメガネをかけさせるところで、「イケ散らかしたらどうするんだよ」とツッコんでいる佐藤健がとっても可愛かったです!

(文:横川良明/イラスト:月野くみ)

【第9話(3月10日[金]放送)あらすじ】

悠依(井上真央)は尋常じゃない英介(荒川良々)の様子に慄然としながらも、平静を装い会話を続けていた。そのとき、直木(佐藤健)が近くにいることに気づいた悠依は、緊張状態は変わらないながらも心強く思う。さらに、譲(松山ケンイチ)も近くで悠依を助ける機会を伺っているが、悠依に危険が及ぶ可能性があり動けずにいた。

そんな中、英介は20年前のこと、そして直木との間に何があったのかを語り始め・・・。

◆放送情報
『100万回 言えばよかった』
毎週金曜深22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。