大切な人の身に危険が迫っても、守ることすらできない。盾にもなれない。それはどんなに苦しいことだろうか。どんなに情けなく感じることだろうか。
『100万回 言えばよかった』第7話は、直木(佐藤健)のやりきれなさ、そして魚住(松山ケンイチ)の虚しさに胸かきむしられるような回だった。
直木と魚住、辛いのはどっちだろう
武藤千代(神野三鈴)のもとから逃げ出した少女・山﨑莉果(佐藤ひなた)を匿うため、彼女の祖母のもとまで送り届けた悠依(井上真央)。しかし、その帰り道、今度は悠依が暴漢に襲われてしまう。
暴漢の存在にいち早く気づきながら、直木は何もできなかった。暴漢と戦うこともできない。助けを呼ぶこともできない。ただ、いちばん守りたい人が襲われようとしているのを見ているだけ。正義感の強い直木にとってこれほど自分が無力に思えることがあるだろうか。
どんなにそばにいても、自分は悠依を幸せにすることなんてできない。そう改めて痛感するのに十分すぎる出来事だった。
一方、悠依を救ったのは、魚住だった。その場に駆けつけた魚住は暴漢を撃退。直木は魚住に「ありがとう」と短く礼を言う。魚住も「いえ」と言葉少なに応えるだけ。魚住はわかっている、直木の複雑な胸の内を。そして直木もまたわかっている、魚住の届かない気持ちを。
これ以上、直木と一緒にいたら魚住は命を落とすかもしれない。姉の叶恵(平岩紙)からそう聞かされた悠依は、魚住と離れることを決意する。魚住はそんな迷信めいたこと、どうだって良かった。いや、仮にそれが真実であったとしても、悠依の役に立てるなら自分の体がどうなっても構わなかった。
だけど、悠依はそうじゃない。もちろん魚住には感謝している。だから、魚住のことを思って、もう会わないことを決めた。逆を言えば、それくらい簡単に整理できる程度の存在でしかなかったということだ。
だって、悠依はたとえ幽霊でも直木と一緒にいたいと思うような人だ。それくらい、直木には離れがたい気持ちを寄せている。分別なんて考えられないくらい、悠依の人生は直木でいっぱいなのだ。
でも、魚住に対してはそうじゃない。魚住と話すとき、悠依はよく「私たち」という主語を使う。決して「私」じゃない。魚住と何かを語るときは、いつも直木がセットなのだ。見えない直木の存在を介してでないと、魚住は悠依と関係を結ぶことさえできない。魚住は、決して恋愛ドラマの主人公じゃないのだ。あくまでメインの2人を盛り上げる虚しい引き立て役。
直木と魚住、辛いのはどっちだろう。たぶんどっちも辛い。そうお互いにわかっているから、2人は相手を責めたりしない。ただちょっとずつお互いの痛みを引き受け合うだけ。
悠依と直木、悠依と魚住の関係性も好きなんだけど、個人的にはこの直木と魚住の友情未満、でもお互いに通じるものを感じているという関係性が大好き。このままスピンオフで2人がバディを組んで『謎解きは憑依のあとで』とか『霊感刑事・魚住譲の幽霊事件簿』とかやりません??
グミを食べていたのは、やっぱり英介だった
悠依もまた、直木とも魚住とも違う罪の意識に苦しんでいた。同じ里親のもとで生活しながら、莉桜(香里奈)は性的搾取に遭っていたかもしれないのに、自分はそんなことも知らず、のうのうと暮らしていた。決して悠依本人が責任を感じる話ではないけれど、罪悪感を覚える気持ちはわかるし、その自責の念が莉桜を救うためなら危険を顧みない悠依の行動力の源になっている。
だが、千代の手におちた莉桜にはさらなる危険が迫っている。魚住が千代の家を訪ねたとき、莉桜たちの姿はなかった。あのとき、莉桜たちはどこにいたのか。意識を失った状態の莉桜が田中希也(永島敬三)に車に乗せられていたけれど、希也は一体どこに連れて行くつもりなのだろうか。
まだすべての素性が明かされたわけではないけれど、莉桜は暗い過去を背負いながら、なんとか陽のあたる道を模索して生きてきたように思う。何より悠依を守ろうとした優しい心の持ち主だ。せめて莉桜にはこれから明るく笑える人生を歩んでいってほしいのだけど、この願いははたして神様に届くだろうか。
今回のラストカットで、少女時代の莉桜たちを乗せた車を運転していたグミの男は、やはり英介(荒川良々)であることが判明。本人の言う通り、荒れていた時期に千代の片棒を担いでいたことがあったのだろう。今、24時間体制で子どもたちのケアに取り組んでいるのは、かつての罪滅ぼしであると同時に、自分たちのような子どもを増やしたくないという使命感があるのかもしれない。
となると、直木を殺したのが英介というのは考えにくい。直木が死んだ日、直木から電話をもらっていることまでは事実。だが、食材の相談だったという証言は偽証と見ていいだろう。英介が犯人ではないにせよ、何かを隠しているのは間違いない。直木は死の直前に、英介になんと電話したのか。
英介が言うには、勝(春風亭昇太)がいてくれたことで、最終的に道を踏み外すことはなかったようだ。つまり、勝は売春とは無関係ということか。ならば、直木は何の目的でわざわざ英介の家に出向いたのか。そこで誰と出会い、殺されることになったのか。いよいよその謎が明かされるときが近づいている。
春風亭昇太が演じる以上、勝はすっかり悪いやつだと思い込んでいた僕は、たぶん日曜劇場の見過ぎらしい。師匠に申し訳ないので、『アセス』で歯周病予防してきます!
(文:横川良明/イラスト:月野くみ)
【第8話(3月3日[金]放送)あらすじ】
悠依(井上真央)を襲った犯人が特定されたが、依然として莉桜(香里奈)の行方はわからないまま。直木(佐藤健)は、悠依のことを守ってあげられなかったことに落ち込んでいた。一方、譲(松山ケンイチ)は、直木の幽霊パワーを跳ね除けられる方法を見つけ、再び、悠依と直木と譲は3人で過ごせるようになったのだった。
そんな中、田中希也(永島敬三)と莉桜が発見されると同時に直木を殺した証拠も見つかり、事件は一気に解決するかと思われていたが・・・。
◆放送情報
『100万回 言えばよかった』
毎週金曜深22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。
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