北川悦吏子のオリジナル脚本×広瀬すず・永瀬廉出演のドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)の第6話が2月21日に放送された。九州の片田舎で育った"野生児"のような女の子・浅葱空豆(広瀬)が音楽家を目指す青年・海野音(永瀬)と運命的で衝撃的な出会いをすることから始まる青春ラブストーリーが描かれる本作。
響子(夏木マリ)の紹介により、響子の美大時代の同級生で高級ブランド「アンダーソニア」のデザイナー・久遠徹(遠藤憲一)のもとでデザイナー見習いとして働き始めた空豆。トイレ掃除も庭の草とりも熱心にやる空豆の姿を見守るパタンナー・葉月心(黒羽麻璃央)は、久遠にとある記事を見せ、「宝の持ち腐れ」と指摘する。
それは、世界のトップデザイナー、浅葱塔子(松雪泰子)の記事。実は塔子は空豆の母で、塔子の夫、つまり空豆の父は、早逝した天才画家だったことが、久遠と響子の会話からわかる。空豆は天才画家と天才デザイナーから生まれたサラブレッドだったのだ。「遠くの人を楽しませる人は、近くにいる人を悲しませる」とつぶやいた空豆の言葉の意図を、そこで初めて知る響子。
そして、塔子にパリ行きの話が出た際、服か空豆を選べとたまえ(茅島成美)に言われ、服を選んだ塔子は空豆と縁を切らされたことも明らかに。婚約破棄された後、脚の悪いたまえのためのエレベーター代300万円を得るためだけに婚活を必死でしていたことも、そもそも母親を空豆から奪ったのも、祖母のたまえだったとは。実は諸悪の根源で、「毒親」ならぬ「毒祖母」なのか。
しかし、そんな祖母の呪縛から離れ、自分の好きな「服」作りに打ち込む空豆は、みるみる才能を開花させていく。
夜中に久遠から電話がくると、久遠が惹かれた生地を言い当て、それを渡すためにすぐさま駆けつける。おまけに、帰れと言われても、アンダーソニアの服が生まれる瞬間を見るまで帰らないと粘る空豆。
また、脚のケガにより、車いすでやってきた大御所俳優・犀賀涼平(大友康平)が、服のしわを苦にして「アンダーソニアの服に負けてる」とこぼすと、そんなことはないと力強く否定し、服のしわをなくすため、アンダーソニアのパンツに大胆に鋏を入れ、白いウールをあててスカートに仕立てる。こうした車いすファッションは、『プロジェクト・ランウェイ』(WOWOW)にも登場するし、「『福祉×ファッション』で世の中を変える」というスローガンを掲げる平林景氏のオマージュだろうか。ともあれ、車いすを「ファッションアイテムとしてカッコいい」と失言にもとられかねない発言を堂々とし、「新しい犀賀涼平の誕生」と評する空豆の才能の開花ぶりは眩しい。
そんな空豆の才能は久遠を圧倒し、「こわい」とすら言われる一方、「スタンドプレイ」として仲間たちに嫌われる。北川悦吏子脚本ならではのヒロインの圧倒的魅力と「異物感」が際立つ展開だ。
一方、そんな空豆の情熱に刺激を受けつつ、コンポーザーとしてメジャーデビューを控える音のユニットを組むボーカル候補が決まる。「ズビダバ」のアリエル改め、ソイ(内田理央)だ。しかし、ソイはレコーディングに現われず、ようやく連絡がとれたところ、マンボウ(増田貴久)と結婚すると言う。またしても振り出しに戻ってしまった音。
奇しくも空豆も制作に行き詰まっており、音にLINEをする。音が新たな歌姫を探していることを知った空豆が見つけた「逸材」は、公園でハープを弾きながら『千と千尋の神隠し』の「いつも何度でも」を歌うセイラ(田辺桃子)だった。セイラは、音に「いのちの電話」をかけてくる相手。そして、空豆にとっては、音のスマホへの着信に誤って出てしまったことから、会話し、心が少し通じ合った女性でもある。
メジャーデビューを目前にした音に「手の届かん人になると? 遠くへ行ってしまうとかね?」と呟く空豆は、知らず知らずのうちに、自らの手によって音が遠くへ旅立つ手引きをしてしまったことになる。それは母に捨てられた空豆の「遠くの人を楽しませる人は、近くにいる人を悲しませる」状況とも重なって来るのだろうか。
才能を一気に開花させていく空豆と、チャンスを一歩ずつ手繰り寄せていく音の対比は、2人の距離が変化していく残酷な未来を予感させた。
(文:田幸和歌子/イラスト:まつもとりえこ)
【第7話(2月28日[火]放送)あらすじ】
「別れに、手をつなぐ」
浅葱空豆(広瀬すず)と海野 音(永瀬廉)が出会った歌姫菅野セイラ(田辺桃子)。ひとつ屋根の下で一緒に暮らし夢を追うが故に、なかなか自分の気持ちに素直になれないでいる空豆と音の関係に、突然、セイラが加わることに。空豆は、音とセイラが一緒にいる姿を見るたびに、夢を追う音を応援しながらも自分の気持ちに戸惑い始めて・・・
◆放送情報
『夕暮れに、手をつなぐ』
毎週火曜22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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