魚住さん(松山ケンイチ)、死なないで~!
低反発枕よりも柔らかくすベてを受け入れてくる優しさで、金曜夜の癒しになっていた魚住さん。ところが、可愛さが秋田犬レベルの魚住さんにまさかの命の危機が。
『100万回 言えばよかった』第6話は、悠依(井上真央)、直木(佐藤健)、魚住のトライアングルに思いもよらぬ展開が待ち受けていた――。
直木も魚住も願いは同じだった
「魚住さんさ、悠依のこと好きなんだろ」
曖昧なまま濁すこともできた関係に、直木は自ら決着をつけた。うやむやにしておけば、このままでいられた。でも、幽霊である直木にはどうにもできない。これ以上、悠依と魚住が親しくなるのを妨げることもできないし、悠依は俺のものだと抱きしめることもできない。
だからちゃんと言葉にすることで、はっきりさせたかった。魚住に、悠依を託したいなんて綺麗事を考えているわけではない。でも、いつまでも自分が悠依を縛りつけていたいなんて思っているわけでもない。
願いは、ひとつ。悠依には笑っていてほしい。そのために何ができるかを探すために、まず直木は魚住の気持ちを確認した。それが、ヤキモチ焼きで、でも誰よりも悠依の幸せを考えている直木らしくて、切なさと微笑ましさが紅茶に落としたミルクのように胸の中で溶け合う。
魚住もまた同じだ。直木のいない部屋で悠依と2人きりになるのはルール違反。そう慌てて部屋を飛び出す生真面目さが、「鳥野直木のことだけをただひたすらに愛している彼女のことがすごい素敵だって思っちゃったんだよ」と頬を赤く染めるところが、不器用すぎて、純情すぎて、まるで小学生の初恋を見ているみたいに心がむずがゆくなる。
自分のことを想っている彼女じゃなくて、別の誰かのことを想っている彼女が好きだなんて、一生報われることのない片想いだ。奪いたいなんて気持ちは1ミリもない。自分のものになったらなんて考えたこともない。
願いは、ひとつ。悠依さんには笑っていてほしい。
結局、直木も魚住も願いは同じなのだ。だから、1人の女性をめぐり対立し合う関係なのに、ちっともドロドロにならない。魚住の本心を聞いて、「だから、好きなんじゃん」と声を湿らせる佐藤健も、もう目をそらすことのできない気持ちに気づいて視線を落とす松山ケンイチも、すごく良くて、この2人の関係性にいとしさが溢れてくる。
友達なんかじゃもちろんない。それどころか知り合いですらなかった。ただこの2人にしか見えないボートに乗り合わせただけの関係だ。操縦士もいなければ、他に乗客もいないから、2人でオールを漕ぐしかない。そんなふうにしてこの奇妙な1ヶ月を共に過ごしてきた。
それが今宵、同じ女性を好きになった者同士として、不思議な連帯感で結ばれた。顔をくしゃくしゃにさせながら、直接悠依と話したいことがあればいつでも自分の体を使ってくださいと泣きじゃくる魚住が最高にいい人で、もちろん悠依にも直木にも幸せになってほしいけど、誰より魚住に幸せになってほしいと願ってしまった。
なのに、神様は運命のすごろくをいつも残酷なルートにばかり進ませていく。
莉桜(香里奈)を乗せて走るワゴン車。そのナンバーを確認している最中、突然強い痛みに襲われたように魚住が倒れ込む。その頃、魚住の姉・叶恵(平岩紙)は古い文献から「霊と交流する能力を持つ者の中には、幽霊に乗り移られる者もいる。その場合、すみやかに霊から離れなければ、命を削られ、やがて命を落とす」という記述を発見する。
魚住を襲った激しい痛みは、その予兆なのだろうか。つまり、悠依や直木の力になってあげようとすればするほど、魚住は自らの寿命を削ることになる。誰かの恋のために、自分の命を犠牲にできるか。優しすぎる三角関係に、今、あまりにもむごい命題がかけられようとしている。
「100万回 言えばよかった」は誰の心を表しているのか
一方、涼香(近藤千尋)殺しについて様々な新事実が判明した。涼香が"ちーちゃん"から300万円もの大金をたかっていたこと。 "ちーちゃん"と関係を断ち切る代わりに、莉桜に500万円を要求していたこと。そして、1月12日、莉桜が涼香のもとを訪ねると、もうすでに涼香は死んでいたこと。
涼香が口にした"ちーちゃん"とは、莉桜をワゴン車に乗せて連れ去った武藤千代(神野三鈴)のことであり、涼香の爪に残っていた皮膚片が、千代と行動を共にする田中希也(永島敬三)のDNAと一致。やはりこの千代と希也が仲介人となって少女たちに売春を斡旋していたのだろうか。
となると、直木が殺されたのも、この売春の真相に近づいたからと考えるのが自然だが、直木と千代らをつなぐピースがどこか足りないようなもどかしさもある。そこで浮上するのが、やはり英介(荒川良々)だ。直木の幽霊がいると知ったとき、英介は不自然に動揺していた。直木に語られては困る何かが英介にはあるのだろう。現在の希也のような役割を、かつて英介もしていたとしたら。さらに、そこに勝(春風亭昇太)も絡んでいるとしたら。いよいよ疑惑の相関図がはっきりと見えてきた。
また、今回から登場した謎の幽霊・原田弥生(菊地凛子)がどう事件と関わってくるのかも謎だ。そういえば、前回、夏英(シム・ウンギョン)の目の前で不自然にプリントが舞い飛んでいたけれど、あれは弥生の仕業なのか。それともただの偶然か。夏英の亡くなった夫が魚住と瓜二つであるという事実も今のところ本筋に絡んでくるようで絡んでこない。もしかしたらこの2人が真実に近づく最後の切り札になるのかもしれない。
そして、思い残しがなくなるとこの世から消えてしまうであろう直木の思い残しとは何か。タイトル通り、悠依に「好きだ」と伝えることなのかもしれないけれど、それだとあまりにもストレートすぎる。もう一捻りあると見ていいだろう。
なんならこの『100万回 言えばよかった』は、悠依でも直木でもなく、魚住にかかっている気さえする。仮に直木が成仏しても、魚住がすんなり悠依と結ばれるとは限らない。むしろ優しすぎる魚住なら、そっと恋心を胸にしまっておく選択だって考えられる。
そして、新しい人生を歩み出す悠依の背中を見送りながら、こう思うんじゃないだろうか。100万回、好きだと言えばよかったと。
(文:横川良明/イラスト:月野くみ)
【第7話(2月24日[金]放送)あらすじ】
莉桜(香里奈)を車に乗せた人物が直木(佐藤健)を殺した犯人なのではと、悠依(井上真央)は憤りをあらわにしていた。
一方、突然倒れた譲(松山ケンイチ)は病院で受けた検査の結果、偽性脳腫瘍の可能性があると告げられていた。ただの頭痛だと楽観視していた譲だが、叶恵(平岩紙)から、幽霊である直木とこれ以上一緒にいるなと忠告される。
そんな中、莉桜の行方を追っていた直木は、莉桜が連れ去られた場所やそこで見聞きしたことを譲に伝える。譲は直木の証言をもとに単独で捜査に乗りだし・・・。さらに、幽霊の原田弥生(菊地凛子)があらわれ、譲にある頼み事をするのだった。
◆放送情報
『100万回 言えばよかった』
毎週金曜深22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。
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