「その傷を負わせたやつを生かすか、暴力の苦しみから解放されるか、お前が選択しろ」

日曜劇場『Get Ready!』(TBS系) 第6話では、患者を救うかどうかの判断をその娘に問うかなりハードな局面が描かれた。そして、満を持して天才外科医・エース(妻夫木聡)の表の顔であるパティシエの常連客で高校生の嶋崎水面(當真あみ)が抱える事情も明かされた。

水面の父親は世界的なパティシエである嶋崎(鶴見辰吾)で、水面が1歳にならないうちに妻を亡くし、以来男手一つで彼女を育ててきた苦労人でもある。しかし、事故がきっかけで右手が麻痺しやむなくパティシエを引退、そこから経営に専念することにし成功を掴んだ。その矢先、今度は糖尿病性ケトアシドーシスで余命3ヶ月から半年と診断を受ける。

パティシエとしての自分を諦め切れなかった嶋崎は、その苛立ちを娘の水面にぶつけるようになっていた。それでも尚、水面は優しかった父親の面影を追い求め、美味しいケーキを食べればまたあの頃の父親に戻ってくれるかもしれないと淡い期待を抱いてエースのパティスリー「カーサブランシェ」のケーキを買って帰る。

娘のそんな気持ちや歩み寄りには鈍感で、自分の痛みにばかり敏感な嶋崎の第一声が忘れられない。

「お父さんへの当て付けか。なんでこんなことするんだ?余計なことするな!」

なぜここで"当て付け"なんて思考回路になるのか被害妄想もいいところだろう。自分の不幸になぜ娘まで巻き込むのか。暴言だけでなく暴力も振るう嶋崎は、どんなにかつて良い父親だっただろうが、計り知れない苦労を経験していようが最低に違いなく、彼を庇うことなどできない。

余命宣告を受けた後、彼は「なんで俺ばっかり・・・」と呟くが正気だろうか。同じ気持ちを愛娘に他でもない自分自身が味わせていると思い至らないのだろうか。暴力だけではなく、そもそも全く水面に対して無関心だ。受験生の子を抱えていながら、その進路についても一切関知していない。嶋崎はお金にはもちろん困っていないだろうに、水面は奨学金で地方の大学に進学することを人知れず決心している。どこまで娘を追い詰めれば気が済むのか。

クイーン(松下奈緒)が言う通り「一番好きな人に殴られることがどれだけ怖くてどれだけ苦しいか」、水面の気持ちを思うと胸が抉られる思いがする。過去の優しかった父親の姿が、その思い出が、今の変わり果ててしまった父親を"最低"だと一蹴することを許さない。理不尽に受ける痛みや恐怖や屈辱にも、なぜか受ける側の水面が「きっとお父さんも苦しいんだ・・・」と想いを馳せなければならない。どちらが大人でどっちが子どもなんだか・・・。

娘への日常的なDVが発覚し、エースはその父親の命の選別を水面に委ねる。この期に及んでも、嶋崎は「あいつが私なしで生きていけるわけがない」とのたまうのだから救いようがない。仮面を外したジョーカー(藤原竜也)にもその考えを全否定され、娘の「ざまあ見ろって感じ・・・全部私にばっか八つ当たりしてきて(中略)私の父はもういません。このままでいい」という振り絞った生の声に触れ、少しは目が覚めたのだろうか。

ここまでしないと娘を自分が傷つけていることに向き合えず、そんな娘のために無様でもいいからケーキを作り上げたいとは思えなかったのだろうか。もちろんトップクラスの職人ゆえ「神は細部に宿る」というこだわりも人一倍強いだろうし、元々娘の笑顔の源泉だったケーキを作れなくなってしまった自分ではもう彼女を笑顔にはできないという絶望や喪失感もあったのかもしれない。

といくら嶋崎に寄り添おうとしてみたところで、やはりDVはどんな理由があれ決して許されることではない。どれだけ悔いたところで水面が負った心の傷はもう一生消えることはないのだから。手紙だって「少しでも笑顔が重なっていく人生を。父親失格ながら、空からずっと見守っています」なんて、自分がこれまでしてきたことへのはっきりとした謝罪もなければ、"父親失格"というたった4文字で済ませようとするのも、人というのはそう簡単には変われないのだな、最後までプライドは捨て切れないのだなと思わされた。

水面とエースのおかげで命拾いした後にようやく謝罪ができた嶋崎。「逆境のときこそ人の真価が問われる」とはよく言ったもので、パティシエとして自分の才能を発揮できている時だけでなく、今後また何か思い通りにいかないことがあっても、彼が少なくとも自分の弱さとしっかり向き合えますように。

(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)

【第7話(2月19日[日]放送)あらすじ】

スペード(日向亘)の初恋の人・望月遙(畑芽育)が、校舎から飛び降りて意識不明の重態となった。
遙の友人・岡田夏美(池間夏海)は、自殺の原因がクラスメイトからのいじめだったとスペードに伝える。
仮面ドクターズに救いを求める夏美だったが、「自ら死を選んだ人間を救う必要はない」とエース(妻夫木聡)は無慈悲にもオペを断る。
猛反発したスペードは、遙を救おうと単独行動を始めるが、そこで思いもよらない真実と向き合うこととなり・・・。

◆放送情報
日曜劇場『Get Ready!』
毎週日曜夜21:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。
また、火曜ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』とのコラボ企画Paraviオリジナルストーリー「ゲトレ夕暮れ大暴れ」も独占配信中。