好きだからこそ、気持ちがすれ違ってしまう。自らの死が決定的となった以上、このままずっと悠依(井上真央)のそばにいてはいけないと思いはじめる直木(佐藤健)。一方、悠依は幽霊となった直木と一緒に生きていく道を願ってやまない。
真逆の方向へ歩みはじめた2人の想い。重なることのない2人の未来はどんな結末を迎えるのだろう。
想いが通じ合っているからこそ、すれ違いはじめる2人の願い
この伏線回収はズルすぎる・・・!
遊園地のクイズゲームで悠依は今プレゼントされたいものを「ネックレス」と答えた。その回答を盗み見たとき、不意を突かれたような表情を浮かべる直木。どうして直木があんな顔をしていたのか謎だった。
それまでのお題だって直木はことごとく外していた。思い出の場所を悠依は「ハチドリ」と答えたのに、直木の最初の回答は「公園」だった。なんで考えていることがわかるのと生前は言い合っていたはずなのに、案外こういうところはダメだなんだと微笑ましい気持ちで見ていたから、最後の答えを外したのだって、この流れで言えば自然なはずだった。
でも、直木は何か引っかかったような表情だった。その意味は、今回のラストで明かされた。「ハチドリ」の冷蔵庫から見つけた紙袋。その中には、ネックレスが入っていた。ネックレスのモチーフはイニシャルのY。悠依の誕生日のために直木が用意したものだった。
やっぱり2人はちゃんと通じ合っていた。言葉にしなくても、いつも相手の気持ちがわかる。そんな相手、他にいない。
だから、それを見つけた悠依がこれからも直木と生きていきたいと思う気持ちはよくわかるし、自分の遺体が葬儀場で焼かれている光景を目の当たりにした直木が、実体のない自分がこれ以上悠依の未来を縛り続けていてはいけないと思うのも理解できる。
いくら気持ちが通じ合っていても、もう2人でツーショットを撮ることだってできないのだ。そんな自分が、悠依に何をしてあげられるだろう。どんな未来を与えてあげられるというのだろう。
2人を見ていると、冷静さを欠いているのは悠依の方で。だから直木の言ってることの方がまっとうだとは思うのだけど、自分の死を受け入れることと、いちばん大好きな人の死を受け入れることのどちらが苦しいかと言えば、後者のような気もするから、悠依が意固地になってしまうのも無理はない。
だって、直木の死を受け入れてしまったら、もうケンカもできなくなるのだから。たとえ姿は見えなくても、今ならまだいつもみたいにケンカできる。そばにいると感じられる。その特権を自分から手放すなんて、とてもじゃないけどできない。悠依はたくましい人に見えるけど、悠依を気丈にさせているのは直木なのだ。
歯がゆくて、もどかしくて。でもこんなに想い合える相手に出会えた2人を、ほんのちょっと羨ましくも思う。悠依と直木に与えられたアディショナルタイムはどんな意味があるのか。けれど、間違いなく終わりは近づいている。
売春の手引きをしていたのは英介なのか
そして、物語の鍵を握る重要人物の存在が明らかになった。それが、直木が涼香(近藤千尋)のマンションを訪ねたとき、すれ違った配達員の田中希也(永島敬三)だ。配達員の格好は扮装であったことが捜査で明らかになっている。しかも、希也は莉桜(香里奈)の部屋にいた。「勝手なことされると困るんで」とまるで莉桜を監視するような台詞を口にする希也。彼は何者なのか。
また、悠依は、少女時代に莉桜と涼香と遊園地を訪れ、そこで莉桜らとケンカ別れしたのち、2人が商用車に乗ってどこかへ行くのを目撃していたことを思い出す。おそらく莉桜と涼香は大人たちにそそのかされ、売春行為に手を染めていたのだろう。莉桜が放った「あんたはこっち来んな」という言葉もそれだと頷ける。莉桜にとって、悠依は無垢な存在で、だから悠依を汚したくはなかったのだ。
気になるのは、商用車を運転していた人物。口元を見る限り、英介(荒川良々)に見える。売春の手引きをしていたのは英介なのだろうか。となると、勝(春風亭昇太)がまったく知らなかったとは思えず、やはり勝と英介はただの気の良い善人ではない、という展開が濃厚になってきた。
英介が「こども食堂」を開いているのは当時の贖罪意識からか。さすがに今もまったく改心していないとしたら、人間不信になりそうです。
また、もし売春説が現実としたら、現在の希也が武藤千代(神野三鈴)のお菓子教室で少女たちと接点を持っていることも不気味に見える。希也は昔から売春に関わっており、そこで莉桜や涼香と知り合ったのか。もしも親元からの避難場所であるはずの里親が、売春の温床になっていたとしたら、あまりにも胸が悪くなる展開だけに、どうかこの予想が的外れであることを願いたい。
いずれにせよ、次に「ぶどうグミ」が出てきたら、そのときこそが正体が明らかになる瞬間になりそうだ。
今まで松ケンの魅力に気づけなかった自分を殴りたい
悠依と直木の辛すぎるラブストーリーに切なくなり、残酷な気配が濃くなるミステリーに心が重くなりそうな『100万回 言えばよかった』。その中で文字通り癒しの存在になっているのが、譲(松山ケンイチ)だ。
なんというか、もう譲が愛らしすぎる。クイズゲームで正解を当てるたびに本気で喜んでいるところが可愛いし、騙し討ちで観覧車に2人きりにして上げるところも、ケンカした悠依と直木を取り持つところも優しすぎる。ただ直木の姿が見えるというだけで、何のゆかりもない2人に巻き込まれているわけだけど、文句ひとつこぼさない。人間ができすぎている。もはや地蔵かなんかに見えてきた。悠依、毎日お賽銭とか入れた方が良くない?
また、演じる松山ケンイチの軽妙さが本当にいい。それでいて、ちょっと無精髭なところが色っぽい。松ケンってこんなに良かったんだ!って、今まで松ケンの魅力に気づけなかった自分の節穴すぎる目を殴りたい。
直木が憑依したときも、声色というより、台詞回しが完全に佐藤健と同じで、おそらく耳がいいのだろうなと恐れ入る。
紅茶は牛乳多めなところも解釈一致。譲さん、モテない設定だけど、どう考えても超優良物件でしょう。恋愛は尽くしたい派だそうですが、譲さんに尽くされたい人、めちゃくちゃいると思いますけど!?
(文:横川良明/イラスト:月野くみ)
【第6話(2月17日[金]放送)あらすじ】
莉桜(香里奈)が悠依(井上真央)からの手紙を受け取ったのと同じ頃、直木(佐藤健)は樋口(板倉俊之)と共に、成仏する方法を知る自分たち以外の幽霊を探していた。直木と樋口のことが見えない人々が通り過ぎる中、2人を見つめる姿が・・・。
そんな中、悠依の引っ越しを知った直木は急いで止めようと譲(松山ケンイチ)の元へ。悠依はハヨン(シム・ウンギョン)に引っ越しを手伝ってもらっていた。
その後、直木は譲の姉・叶恵(平岩紙)に会いに行き、自分が成仏するためのヒントをもらう。それを悠依にも話したことがキッカケとなり、直木は譲が抱える"ある思い"に気づく。
◆放送情報
『100万回 言えばよかった』
毎週金曜深22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。
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