"仮面ドクターズ"結成秘話が明かされた日曜劇場『Get Ready!』(TBS系) 第5話。
今話、天才外科医・エース(妻夫木聡)がオペを持ち掛けたのはかつて死の淵を彷徨ったジョーカー(藤原竜也)と同じ病気を患っている急性壊死性膵炎の佐々木健二(高橋光臣)だ。妻・渚(小島藤子)が若年性アルツハイマーを発症し、自身も病人ながらその介護に追われる日々を過ごす。"仮面ドクターズ"と言えば法外な報酬がセットだが、これまでオペを執刀してきた患者らとは明らかに異なり、ごくごく一般的な夫婦の2人。エースの中でもう1つの最終判断軸である「生き延びる価値」を健二に見出したということなのだろう。
しかし、またとないこのエースからの申し出を健二は断ってしまう。いつか自分のことさえ忘れてしまう妻との行く末、終わらない介護に出口の見えない日々・・・不安は尽きず常に孤独と隣り合わせの自分にこれ以上生きる意味はないと健二は切々と訴える。そんな健二をエースとジョーカーは"こちら側"に引き戻した。
「あんたがいなくなったら奥さんを絶望の淵に置いていくことになる。それでも良いのか。たとえ生き永らえたとしてもあんたもきっと絶望の淵に立つことになる。だがそれで終わりじゃない」
「生きて下さい。奥さんと一緒に生き抜いてください」
生きることを選んだ健二は、もう自分のことを覚えていない渚をそっと優しく眼差す。一度はすれ違った2人だが、彼らの間には優しくこの上なく穏やかな時間が流れる。もう記憶にいないはずの健二に安心しきった笑顔を向ける渚。こんなに美しい景色が見られたのは、こんな心持ちで過ごせるのは、絶望の淵から這い上がり自力で乗り越えた健二だからこそだろう。
絶望の淵から這い上がったのはかつてのエースとジョーカーも同じだ。元々、医師としての自分を葬り去ろうとしていた生気をなくしたエースと、余命宣告を受け自暴自棄になったジョーカーがたまたま同じバーに居合わせたのが彼ら2人の出会いだ。「命があるだけマシですよ」と言うジョーカーに「生きていればそれで良いのか」と即答するエース。ジョーカーの病名をすぐさま見破ったエースだが、手術をしてくれと懇願する彼の願いは聞き入れない。
しかし、今まさにそんなジョーカーの命が途絶えようとしていくのを目の当たりにし、そしてこの期に及んでも「生きてぇなぁ。こんなんで終わるのか。悔しいなぁ」という彼の"生"への渇望に触れ、それでも「あんたは生きろよ」と医師であるエースにすがるでも命乞いをするでもなくただただその渇望を託したジョーカーに心突き動かされるエース。自らの医師生命を閉ざそうとしていたエースと、命を危うく落とす寸前だったジョーカーは互いのおかげで命の息吹を取り戻したのだ。
ジョーカーは命をエースに委ね、そのおかげでエースももう一度医師としての自分を生き直すことができた。2人は生かし、生かされたのだ。考えるより先に助けようと動いていたエースにジョーカーは「医者の性」を感じたと言い、「手当てしたその手が言ってんだよ」と、エース自身に否応なしにそれを認めさせた。
エースの「お前に生き延びる価値はあるのか?」という究極の問いかけに、どうしたって自分が選ぶ側だという彼の乱暴な意識を否定できなかったが、決してそうではなかったのだ。
「どう生きるかだな、あんたにもらった残りの時間を全うするよ」とエースの応急処置のおかげで一時的に命を取り留めた後ジョーカーが言った嘘偽りのない言葉がエース自身にさらに踏み込んだ困難な手術に踏み切る決意をさせた。「俺もあんたも今絶望の淵にいる。違うか。なら這い上がるしかない」―きっとエース自身も救われる想いがしたのだろう。本人がこう思える命を救うことこそがエースにとって医師としての自分の拠り所であり、自信を取り戻していくきっかけになったのかもしれない。
最新の術式を用いて行うオペはエース自身だってリスクを一手に引き受けた命がけの所業だろう。託された相手の命に自身も命がけで臨む。互いの命の手綱を握り合ったエースとジョーカーにしかわからぬ絆があるのだろう。そこからエースの腕を生かすことがジョーカーの生きる意味となった。
そして今や極論で横柄にも思われかねないエースの判断軸がその裏にある思想まで含めて"仮面ドクターズ"内にも普及している。片方の口角だけ上げてそっと笑ったエースがこの時"人生って悪くないな"と言ったようにも思えた。
さて、今話"仮面ドクターズ"はいつもの4人だけで構成されているわけではないこともわかった。工場の職人の石川/通称:クローバー(小林勝也)がエースに言った彼が「失った命」とは一体どういうことなのだろうか。これには千代田医科大学附属病院が関わっているのだろうか。そしてかねてから"仮面ドクターズ"への興味を隠し切れていない外科医の染谷慈恩(一ノ瀬颯)はその正体に近づいたのだろうか。
(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)
【第6話(2月12日[日]放送)あらすじ】
ジョーカー(藤原竜也)が挙げた次の患者候補は、パティシエの嶋崎(鶴見辰吾)。
人生の苦難を乗り越え世界的なパティシエとなるも、病に侵され余命宣告を受けた嶋崎。
彼は、エース(妻夫木聡)の店の常連客・水面(當真あみ)の父親でもあった。
水面の様子に異変を感じていたエースは、その原因を探るため、クイーン(松下奈緒)に調査を依頼する。
そして事情を知ったエースは、嶋崎に"生きる価値"があるのか、娘である水面に命の選別を迫るのだった・・・。
◆放送情報
日曜劇場『Get Ready!』
毎週日曜夜21:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。
また、火曜ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』とのコラボ企画Paraviオリジナルストーリー「ゲトレ夕暮れ大暴れ」も独占配信中。
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