やっぱりドラマはハッピーエンドがいい。そう望む視聴者は多い。このドラマも、実は直木(佐藤健)は生きていたという結末をひそかに願っていた人も多かったはず。
だが、その願いは容赦なく打ち砕かれた。
ブルーシートをめくると、そこに横たわっていたのは直木の遺体。僕たちは、思った以上に過酷な物語を見せられているのかもしれない。
視聴者を打ちのめした、直木の死
「こども食堂」によく遊びに来ていた木内兄弟の弟・海翔(三浦綺羅)がいなくなった。兄・大翔(石毛宏樹)のために姿を消した海翔が家出先として頼ったのは、英介(荒川良々)に連れて行かれたキャンプ場の山小屋。そして、そのキャンプ場の近くの山林で直木の遺体が発見された。
直木はやはり死んでいた。状況から見て他殺。その犯人は涼香(近藤千尋)を殺したのと同一人物なのか。いよいよサスペンスとしての緊迫感が高まってきた『100万回 言えばよかった』。改めて状況を整理すると・・・。
(1)直木が殺害された場所はどこか
キャンプ場で殺害された可能性もあるが、左手に握っていた花は、その周辺では生息していない植物だった。となると、どこかで殺害されたのちに、あの山林に遺棄されたと考えた方が自然かもしれない。
悠依(井上真央)が里親である勝(春風亭昇太)家を訪ねると、あったはずのカーペットが撤去されていた。そして、植木鉢には直木が最期に握りしめていた花が。直木がここで殺され、証拠を隠滅するためにカーペットを処分したと考えると、カーペットがなくなったことも辻褄が合う。直木は勝の家で誰かと落ち合い、そこで殺されたあとに、あのキャンプ場まで運ばれた、というのが現時点で最も妥当な筋書きだ。
しかし、本当に犯行を隠蔽したいなら、ブルーシートで隠すのではなく、山中に埋めた方が確実なはず。なぜ犯人は直木の遺体を放置したのだろうか。
(2)直木が最期に会ったのは誰か
現状、生前の直木の足取りで明らかになっているのは、1月13日の金曜日。お昼は恒例の「こども食堂」で食事を振る舞い、14時頃まで店にいたと直木は証言している。
スマホに残された履歴は、13日の15時16分。「待っています。何かありましたか?」というメッセージだ。発信主は、莉桜(香里奈)。だが、このあたりの記憶は直木は曖昧らしい。今のところここから読み取れるのは、15時16分の時点で待ち合わせ場所に直木は行けなかったということだけだ。
勝の家が殺害場所だと仮定すると、莉桜に会う前に何かしらの理由で勝の家に寄り、そこで何者かに襲われたということになる。果たして勝の家にいたのは誰なのか。
(3)英介の「何であんなところに・・・」はどういう意味か
ここで浮上するのが、英介だ。勝の家と、キャンプ場。両方に関連する人物は限られており、その数少ない人物が英介である。そもそも直木が英介と知り合ったのは、勝からの紹介だった。詳細は明かされていないが、勝と英介は交友関係があったらしい。
そして、遺体が遺棄されたキャンプ場には、悠依と直木も勝の家で世話になっていたときに行ったことがあることが判明している。
海翔を探しに車に乗り込んだとき、英介は「何であんなところに・・・」と独り言を呟いていた。これは単純に、幼い海翔がなぜ1人であんな人里離れた場所へ行ったのかという意味にもとれるが、深読みすると直木の遺体がそこにあるのがわかっていて、それゆえに発覚を恐れて思わず出てしまった言葉にも聞こえる。
13日の16時22分、直木は英介に電話している。英介は食材の相談だったと証言しているが、莉桜との約束をすっぽかすほどの事態にあった直木がそんな悠長に仕事の電話をしているとは思えず、英介の偽証の線が濃い。
直木は、勝の家である重大な事実を知り、それを確かめるために英介に電話をした。しかし、英介はそれが明るみに出ては困るため、警察には教えなかった。そうなると、莉桜の写真を見せられても知らないと言ったことすら疑わしくなってきた。
英介は何を隠しているのか。そもそも勝と英介はどういう知り合いなのか。もう少し英介のバックボーンを知りたいところだ。
(4)なぜ悠依の記憶はこんなにも曖昧なのか
勝の家で、かつて莉桜と撮った写真を見つけた悠依。そこに映っていたもう1人の女性の名は、スズカ。おそらく殺された高原涼香のことだろう。つまり、悠依はずっと前に涼香と会っていたということだ。
だが、前回、譲(松山ケンイチ)に涼香について聞かれても、悠依はまるで知らない様子だった。現時点で涼香とどれくらい接点があったかわからないので強くは言い切れないが、仮にも遊園地らしき場所に一緒に遊びに行って、仲良く写真を撮り、わざわざ名前を添え書きして残しておく程度には交流のあった人物をこんなにもあっさり忘れてしまうものだろうか。
そもそも悠依は直木に言われるまで莉桜のことなどみじんも思い出したことがなさそうだった。何となくだけど、妙に悠依が薄情なことが気になる。あんなに仲の良かった直木とすぐに縁が切れたこともそう。まるで自ら記憶に蓋をしていたようにさえ見える。
悠依には悠依で、何か思い出したくない出来事や、記憶を書き換えたくなるようなことがあったのだろうか。
(5)勝は本当に聖人君子なのだろうか
なぜ勝が直木にだけ莉桜の行方を探してほしいと頼んだのかも謎だ。当時からよく悠依と2人で勝の家を訪ねていたのだから、2人に頼んだ方が自然だろう。
穿った見方をするなら、勝には悠依には頼めない、あるいは悠依には知られなくないことがあったんじゃないだろうか。
善良そうな勝だが、本当にただ気のいい里親だったかどうかは、まだ断定できない。
彼自身が何か秘密を抱えたまま亡くなったような気がする。そしてそれは2004年の1月、突然莉桜が姿を消したことと関わりがあるように思うし、1ヶ月前に涼香に振り込まれた100万円も勝が関連しているんじゃないかと睨んでいる。
勝の家で鳴る古時計。悠依と直木にとっては温かな記憶が結びついているが、個人的には不吉な事件の予兆にしか聞こえない。あの古時計が鳴る午前0時。あの家で、莉桜が姿を消したくなるようなことが行われていたとしたら。そして、それに勝が(あるいは英介も)関わっているとしたら・・・?
この深読みが、ただの思い違いであるようにと願いながら、まるで口笛に吸い寄せられるヘビのような、やまない胸騒ぎがとぐろを巻いている。
(文:横川良明/イラスト:月野くみ)
【第5話(2月10日[金]放送)あらすじ】
悠依(井上真央)が自分と莉桜(香里奈)、涼香(近藤千尋)が写る写真を手にする中、直木(佐藤健)は突然の胸の苦しみに襲われていた。
直木が殺害された事件の真相が徐々に明らかとなる反面、身体がなくなったら直木は消えてしまうのではと不安に思う悠依。そんな中、悠依が襲われる事件が発生。幸い無事だったが、悠依はその時襲ってきた人物に言われた言葉が気になっていた。
直木の葬儀が終わり落ち込んでいる悠依を励まそうと、直木は譲(松山ケンイチ)を通じてデートに誘う。譲も一緒にと、3人で広田家にあった写真の遊園地に行くが、悠依と直木はお互いの未来への考えの違いからケンカに。それがキッカケで悠依はあることを思い出し・・・。
◆放送情報
『100万回 言えばよかった』
毎週金曜深22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。
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