動画配信サービス「Paravi」にて独占配信中のドラマ『ギルガメッシュFIGHT』。"カメラは低く、志は高く"という精神の元、裸エプロン姿で料理する「夜食ばんざい」、どうでもいいニュースをTバック姿で語る「GNNヒップライン」、下着姿の女性たちが下着の紹介と共に歌声を披露する「ランジェリー歌謡祭」など、現代のバラエティー番組にも大きな影響を及ぼすことになるコーナーを連発し、「深夜お色気番組」の代名詞ともいえる番組となった『ギルガメッシュないと』(1991~98年・テレビ東京)のスタッフたちの実話から着想を得た、番組制作陣視点のフィクションドラマだ。

そんな本作で主演を務めるのは藤原季節。深夜番組『ギルガメッシュFIGHT』の演出を手掛けることになったディレクター・加藤竜也を演じる。今回、藤原にインタビューを行い、撮影にかける思いや共演者の印象について話を聞いた。

――出演のお話を聞いて、台本を読まれた時の感想は?

出演のお話を頂いたときに、全話の台本も同時にいただいたんです。それを読んでみて、まず作品として面白かったですし、大東駿介さんと共演できるかもというお話もあって、是非やらせていただきたいと思いました。『ギルガメッシュないと』を見ていた人の熱量がものすごくて、「これはすごいプロジェクトになりそうだな」と思って、ドキドキしましたね。

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――1993年生まれの藤原さんが、90年代の世界観に浸ってみていかがでしたか?

90年代の良い側面を見ると、みんなが自由で、それを謳歌していたような雰囲気を感じました。例えば、僕が演じた加藤のモデルになった方の写真を見ても、服装がとんでもなくオシャレなんですよ。毛皮のコートを着てサングラスをかけたような人がテレビ番組を作っていたと聞いて。今では考えられないじゃないですか。そんな格好をしたら「あいつ、何だ?!」って白い目で見られるかもしれないけど、そういう他者に対する寛容さがあったというか、そういう意味で非常に楽しい時代だったのかなと感じます。

今、多様性やハラスメントにスポットライトが当たる時代になってきたことはいいことだと思うので、一概に「昔の方が良かった」と言えない自分もいます。ただ、他者に対する寛容さというのはなくなっていって、どんどんミスを追及する目が厳しくなっていると思うんですよ。人間って誰でもミスを犯すのに、そのミスをとことん許さない姿勢は、ちょっと怖いなと思います。人と人との距離感も、どんどん離れている気がします。マスクがあったり、匿名のネットの世界だったりすると、なおさらですよね。だからこそ、距離が今よりも近かった時代の空気感に触れられたのは良かったし、楽しかったですね。

――そんな90年代のテレビ業界人を演じるにあたって意識したことは?

美術や衣装をはじめ、制作の各チームの皆さんと力を合わせて、あの時代の活気をどうやったら表現できるかを意識していました。例えば会議室のシーンだったら、タバコの吸い殻がてんこ盛りの灰皿があって、ちょっと煙たさが感じられるだけでその時代の空気感が出たり、テーブルに山盛りのパンティーが置いてあったり・・・。自分もアイデアを出したり、共演者の方々と相談したりして、スタッフさんに提案しながら作り上げていきました。

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――プロデューサー・栗田役の大東さんと共演してみていかがでしたか?

以前、映画『明日の食卓』で大東さんとご一緒したときに、型にはまらない人物像を作り上げていて、個人的に舞台を観に行ったりもしていて大好きな俳優さんなので、今回がっつりと共演できて嬉しかったですね。

やっぱり今回もすごかったです。普通だったら抑えめで言うようなセリフをガッ!とテンションを上げて言ってくるとか、そうした予想もつかない熱量とエンジンのかかり方に驚きました。待ち時間もずっと大東さんの楽屋に押しかけてお話させて頂きながらその力の根源を取材していました(笑)。

そのときに印象的だったのが、大東さんが「破滅的な演技がしたいんだ」っておっしゃっていたこと。例えば舞台だと30公演、多ければ60公演あったりもするのですが、大東さんのあの演技の仕方で何公演ももつのかなって、毎回思うんですよ。その感想を素直に本人に伝えたら、「そう思わせたいねん。こいつ、30公演もつのかなと思わせる演技をしたい」とおっしゃっていて。その熱量はいつでも変わらずで、尊敬しますね。

――ちなみに、藤原さんはご自身で熱量を上げる時、どうされていますか?

何も考えない時間を最低でも1時間ぐらい持つことで、自分の細胞が起きてくる感じがします。そうすると、その日はうまくいくような気がしますね。

――そうした、ご自身と向き合う時間が藤原さんにとってはとても大事なことなのですね。今回、加藤を演じるにあたって大事にしたことはありますか?

この作品が決まってから、『全裸監督』を全部見直したんです。そのときに、どうあがいても(主演の)山田孝之さんの真似はできないなって気づいて・・・。それで、どうしようかというところが演じる上での出発地点でした。

ただ闇雲に個性を足していくと、ぐちゃぐちゃになってくるんですよね。もっと人物の核みたいなものをつかまなきゃと思って、自分が演じるモデルになった方の写真を飾って、それを毎日見続けました。衣装を着たり、現場に立ったりして、周りが個性を作り出してくださったりもするので、そうしたものに順応していくことを大事にしましたね。今回は衣裳がすごく派手なので、「この服を着ている人物が違和感なくその場に立っているにはどういう佇まいが正解なんだろう?」と考えながら、当てはめる作業をやっていきました。

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――この作品では改めて女性たちの活気も感じられました。

そうですね。女優さんのなかには、お芝居が未経験という方も多かったんです。でも、未経験なりに役柄や時代を研究してチャレンジしてくださったんです。例えば、性やエロというものに対して積極的な女性を演じるために、僕に「こういうふうに演技してみていいですか?」って提案してくれたことも。それに対して、僕が瞬発的に答えていくことが大事だなと思ったので、そこは頑張りました。

会見で、(石川あゆみ役の)杉本愛莉鈴さんが「若いうちに裸エプロンを着てやれたことが幸せです」とおっしゃっていたのですが、エロに向き合ったのは男性だけでなく、女性もそうだったのだと思います。だから、男性スタッフたちの青春物語だけには見られたくなくて。番組の中で女性たちが自分の夢を叶えて、それをバラエティーにして、かつエロをテーマにしているのが『ギルガメ』。そんな女性たちも物語の主人公だというところも打ち出していきたいですね。

――『ギルガメッシュないと』を知らない世代の方もご覧になると思うのですが、改めて、本作の見どころを教えてください。

90年代は、例えば「エロは人間の本質である」ということを大きな声で言って番組を制作できた時代だったのだろうし、それに吸い寄せられた人たちが『ギルガメッシュないと』を見ていたと思うんです。でも今の時代、多様な考え方がある中で、「エロは本質だ」とか、「恋愛は青春だ」とか、そういうことって言えなくなってきている。いろいろな人の価値観を認めようという時代なので、一つの尖った「エロは本質だ」という意見はつぶされちゃうんですよね。でも、そうしたことに窮屈さを感じている人がいるはずだというのが、このドラマの出発点だと思うんです。

加藤が「番組はプロデューサーのものじゃない。ディレクターのものだ」という台詞があるのですが、プロデューサーがコンプライアンスや世間の声を気にして抑え目にしようとする所を、加藤は全部跳ねのけて、妥協しないバラエティー企画を考え続けるんです。それは現代のテレビには、少なくなってきた傾向なのかなと思います。多様な価値観に順応するために尖ったものを押さえつけて、全部が似た番組になって個性が埋没していくような矛盾した時代だと感じるので、現代の人がこのドラマを見て、尖った表現や周りに嫌われることを恐れないとか、そういう精神も感じてもらえると嬉しいですね。

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◆放送情報
Paraviオリジナルドラマ『ギルガメッシュFIGHT』(全5話)
動画配信サービス「Paravi」にて毎週土曜深夜1:15から新エピソードを配信中。
第1話は無料配信。