大切なことはちゃんと言葉にしなくちゃ伝わらない。そんなこと言われなくたって、とっくにわかっている。だけど、多くの人たちがなかなか気持ちを伝えきれなくて、あとになって後悔する。あのとき、ちゃんと言えばよかったと。

金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』は死んだはずの恋人が幽霊となって現れるファンタジーラブストーリー。

お互いのことがよくわかりすぎる2人は、いつも相手が言おうとすることを先取りしてばかりだった。だからこそ、ちゃんと言葉にできなかった「好き」という気持ち。幽霊になったところで、いくら彼女の名を呼んでも、その声は届かない。取り返すことのできない後悔と、その先にある奇跡に涙する、そんなドラマがいよいよ始まった。

思い出の味が、生者と死者の壁を越え、2人をつないだ

中学時代に同じ里親のもとで過ごした相馬悠依(井上真央)と鳥野直木(佐藤健)。高校進学と共に離れ離れになった2人は、そのまま疎遠となり、20年間、別々の道を歩んできた。

そんな2人の赤い糸が再びたぐり寄せられるきっかけになったのが、直木のつくったハンバーグ。偶然立ち寄った洋食屋「ハチドリ」で、20年前に里親の家で食べたものとまったく同じ味のハンバーグを口にした悠依は、その味だけでつくったのが直木だと気づく。

20年という空白を飛び越えて2人を結びつけた、思い出の味。それが、今度は生者と死者という壁を乗り越え、2人をつないだ。霊となった直木の姿は悠依には見えない。だから、唯一直木を認識できる刑事の魚住譲(松山ケンイチ)がいくらここに直木がいると言っても、悠依は信じることができなかった。

でも、譲がつくったハンバーグを食べたときに、悠依はわかった。譲の言ってることは嘘ではないと。思い出のしょっぱいプリンを食べたときに、すベてを悟った。もう直木は死んでしまったのだと。

悠依と直木の出会いと絆、そして直木が幽霊となったことを悠依が知り、その死を受け入れるまでを「味」という日常に密着した感覚を軸に描いた構成は実に見やすく、グッとくるものがあった。脚本・安達奈緒子の確かな腕が光る、上々の立ち上がりと言っていいだろう。

13日の金曜日、直木に何が起きたのか

本作はファンタジックラブストーリーと銘打ってはいるが、ミステリーの要素もかなり強い印象を受けた。

いちばんのポイントは、なぜ直木は死んだのかだ。

1月13日、悠依の誕生日に、悠依と直木は会う約束をしていた。しかし、約束の時間になっても直木は現れない。おそらくこの日に直木は何かしらの事件に巻き込まれて、命を落としたのだろう。

その死に大きく関わってくると予想されるのは、譲が追っている西山町女性絞殺事件だ。殺されたのは高原涼香(近藤千尋)という女性。死亡推定時刻は2023年1月12日の午後3時〜午後5時。そして、防犯カメラの映像から、同日の午後3時30分、涼香の住んでいたマンションを直木が訪れていたことがわかった。

なぜ直木は涼香のマンションを訪ねたのか。生前の涼香と何かしらの接点があったのか。直木の死の真相を辿る最初のチェックポイントが、涼香との関係になりそうだ。

また、悠依と直木がそれぞれ複雑な家庭の事情を抱えていることも気になる。2002年12月、悠依(中学時代:新井美羽)は広田勝(春風亭昇太)・美貴子(桜一花)夫妻のもとで暮らしはじめる。そこで先に暮らしていたのが、直木(中学時代:坂元愛登)だった。なぜ悠依も直木も親元を離れて生活しなければいけなかったのか。直木の抱える家庭の事情が、何かしら涼香に関連していて、それが涼香のマンションを訪ねたきっかけになっていたとしたら・・・? このあたりの謎がどう展開していくかが、今後の見どころの一つと言えるだろう。

さらに、車に轢かれそうになった悠依を助けた宋夏英(シム・ウンギョン)もキーパーソンになりそう。夏英は、近くの病院に勤める脳神経内科医。この設定だけを見ると、実はそもそも直木は死んでいなくて、何かしらの理由で肉体と精神が分離し、直木自身は夏英の勤める病院で意識不明のまま眠っているのでは、なんて想像も膨らむ。この夏英と、なぜか直木のことが見える謎の男・樋口昌通(板倉俊之)が今後の展開を占う人物といったところだろうか。

今はまだどの謎も点として散らばっているだけで、それらをつなぐ糸さえ見当たらない。果たしてここからどんな物語が編み上げられていくのか。ラブストーリーだけでなく、謎解きを楽しむミステリーとしての期待も高まる初回だった。

なぜ井上真央が演じるヒロインを応援したくなるのか

そんな本作の中心に立つのは、TBS連続ドラマで主演を務めるのは実に16年ぶりという井上真央だ。もともとどちらかと言えば寡作の女優だが、近年は特にヒューマンドラマや時代劇への出演が多かった。

だが、代表作の『花より男子』で証明されている通り、恋愛ドラマとの相性は抜群。親しみやすい雰囲気を持つ井上が演じると、ヒロインが一気に身近に感じられる。

特に愛らしかったのが、再会したばかりの直木を「ハチドリ」の表で待つシーンだ。直木が「ハチドリ」から出てくるタイミングを見計らい、悠依は自販機の陰に隠れる。そして、悠依が帰ったと思い込み落胆する直木を悪戯っぽく覗き見する。その一連の様子がチャーミングで、さじ加減を間違えるとウザくなりがちな恋愛ドラマのヒロインを、応援したくなる女性像として視聴者に植えつけたのは、井上真央の媚びない雰囲気とくるくる変わる表情ゆえだろう。

譲とのファミレスのシーンでも、直木が死んだことを認められず、だったらフラれたと思う方が納得できると強がるその表情に、井上真央特有の芯の強さがにじみ出ていた。井上真央の大きな瞳は笑うとまるで花のように綻ぶが、相手をまっすぐ見据えると、凛々しく気丈だ。『花より男子』の頃から、そんな逆境に負けない井上真央に、多くの人が勇気をもらい、共感してきた。きっと本作でも、恋人を失うという悲しみに直面しながらも、ただ涙に暮れるだけではないヒロインを、井上真央なら見せてくれるだろう。

そんな井上真央を取り囲むのが、佐藤健と松山ケンイチという2人の実力派俳優だ。

直木という役は、決して甘いキャラクターではない。だけど、佐藤健の手にかかると、そっけない中に自然と愛情が伝わってくる。悠依に熱があると気づくなり強引に連れ帰る男らしさや、悠依にキスをして「合ってた?」と問うぶっきらぼうな目線は、"恋愛ドラマのプロ"佐藤健の真髄。タートルネックの衣装は『恋はつづくよどこまでも』の天堂先生を彷彿とさせるが、ちょっととぼけたリアクションは『義母と娘のブルース』の麦田に通じるところもあり、鮮やかな料理の手つきは『天皇の料理番』仕込み。なんだかこれまでのTBSドラマで見せてきた佐藤健像の集大成のようなキャラクターだ。

一方、松山ケンイチはさすがの演技力で視聴者をうならせた。譲は、告白してきた女性に1ヶ月で見切りをつけられるくらい恋愛下手。そんな垢抜けなさを、松山ケンイチは朴訥な台詞回しで表現する。一方、直木が憑依するや声色と顔つきを切り替え、まったくの別人であることをわからせる。その説得力ある演技に大いに驚かされた。

また、恋人が亡くなるという設定上、もっとシリアスなドラマなのかなと想像していたけれど、初回を見る限り思った以上にポップだ。それは、プロデュースの磯山晶、演出の金子文紀によるところもあると思うけど、何よりも松山ケンイチの存在が大きい。

初めて直木と出会ったときのコミカルな表情など、湿っぽくなりがちなストーリーにほっこりと笑えるポイントをつくっていて、松山ケンイチの演技が作品のトーンを握っているようにさえ感じられた。

井上真央、佐藤健、松山ケンイチと実力・実績共に十分ながら、連ドラでは初共演。既視感のないトライアングルがどんなケミストリーを起こすのか。これからが楽しみになる第1話だった。

(文:横川良明/イラスト:月野くみ)

【第2話(1月20「日[金]放送)あらすじ】

直木(佐藤健)の姿が目に見えなくても、そばにいてくれていることを感じ取れるだけでいいと悠依(井上真央)は少し前向きな気持ちになることができた。

ある日、殺人事件現場の防犯カメラ映像を見ていた譲(松山ケンイチ)はそこに映る直木の姿を発見する。死んでいる直木が事件に無関係ではないと考えるが、直木はまだ行方不明者扱いのまま。

そんな中、悠依に呼び出された譲は、直木に何があったのかを捜査して欲しいという依頼を受ける。話をするうち、直木には失踪前後の記憶がないことが分かり・・・。

◆放送情報
『100万回 言えばよかった』
毎週金曜深22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。