「お前は生きて償え」

"クロサギ "こと黒崎(平野紫耀/King & Prince)がついにひまわり銀行の執行役員・宝条(佐々木蔵之介)に対して仇をとり、いくつもの希望が散りばめられた『クロサギ 』(TBS系)最終話。

政治家・蒲生(秋山菜津子)への新党立ち上げの資金調達に奔走する宝条を騙すためダミーの海外ファンドをでっち上げ接近した黒崎だが、このトラップは宝条に見破られてしまう。しかしその後交渉をまとめ上げた別の海外ファンドもまた黒崎が仕込んだものという二重仕掛けにはさすがの宝条も思い至らなかったようだ。黒崎も持てるお金も何もかも全てを今回の詐欺に費やしたと明かしていたが、もはやここまでくれば緻密さはもちろんのこと、何よりも黒崎の人生全てを懸けた生半可ではない徹底ぶり、執念勝ちだと言えるだろう。

そして黒崎のこれまでを「不毛なことで人生を浪費するのは勿体ない」と言い捨て、黒崎とその父親のことを「自分の思いのためなら人を殺しても良いと思ってる」とこの期に及んで挑発する宝条に対して「お前は生きて償え」と言えたことで、完全に黒崎は宝条にも自分自身にも社会の不条理にも打ち勝った。

宝条を喰った後、人々が行き交うクリスマスの街ですれ違う家族連れを眼差す黒崎の優しい視線にただただ街並みや季節を感じ心弾む当たり前の日常や心の動き、感覚の一端が彼にも戻ってきたことを感じ、安堵すると同時に胸が締め付けられそうになる。無邪気な子どもの笑い声を素直に受け止められる自分にようやく長年の復讐が片付いたことへの実感が身体中を駆け巡り始めた頃、招かれざるサンタがやって来る。忠誠心だけが取り柄と言われていた蒲生の秘書・浦川(細田善彦)が何かに取り憑かれたように黒崎を刺す様は恐怖だったが、ただこれをドラマ内でのフィクションだと言い切れない今を生きていることこそに言いようのない恐ろしさを感じた。

そして、無事一命を取り留めた黒崎の元にお見舞いに来た桂木(三浦友和)が眠っている(フリをしている)彼に言い放つ言葉に胸を打たれる。

「ここからはお前の人生だ。自由に生きろ」

手にしていたものを全て失い罪を償いながら生きていくことが決まっている宝条と、復讐から解き放たれてようやく自由に生きる道が拓けた黒崎。その対比が鮮やかに描かれた瞬間だった。そして、何より桂木が桂木なりの彼にしかできないやり方で黒崎の身を案じ、なんとか自分の目が届く範囲に黒崎を置き、誰よりも近い距離から見守り続けてきたという事実をその額面通りに受け取ることができる、そんなクリスマスプレゼントを受け取った気持ちになった。

何より、黒崎はずっとずっと一人なんかじゃなかった。"可愛そうな被害者"とわかりやすい憐みをかける周囲から距離をとり、安易な同情も正論も寄せ付けなかった黒崎だが、それは自分自身が最も"被害者ヅラなんてできない自分"を誰より許せていなかったからだろう。言葉少なな中にも流儀や愛情深さが光る黒崎には、刺された後自分の命が危険だと察知した際に咄嗟に電話をかける相手も、信頼と思いを託せる相手もいた。

復讐後日本を発つ前にフグを食べに行くのではなかったものの黒崎が行きたい場所として挙げたのが氷柱(黒島結菜)の実家だったのもまた素敵で感慨深い。思えば氷柱の実家と黒崎の家族は詐欺被害の状況も酷似しており、当時逃げ出してしまい救えなかった家族に対する無念を、父親に寄り添えなかった後悔を吉川家の人々との交流を通して、彼らの再生に立ち合うことでなぞり直せ、疑似的ではあるものの黒崎自身もやり直せたところがあったのかもしれない。少なくとも黒崎が"クロサギ"として守り抜けた家族の団欒がそこにはあった。

善悪は両義的で表裏一体だ。どこをどう切り取るか、また誰の視点に立つかで見える景色は全く異なる。そんなことを身を持って教えてくれた黒崎が、そのおかげで見事検事になった氷柱が、絶望し切ってしまわぬ社会を守るべく、表層的なことしか見ないで断罪してしまわぬ余白や優しさをなんとか持ち続ける努力をしたい、そう思わされた。

(文:佳香(かこ)/イラスト:月野くみ)

◆配信情報
『クロサギ』
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