「あす花って名前は、つらいことがあっても心が折れても前を向いて次の日にはその折れた心に花を咲かせられる人になってほしいって、亡くなった両親がつけてくれて」
初めてあす花(本田翼)と弾(高橋文哉)が出会った日、あす花は教壇でそう自己紹介をしていた。思えば、あのときからずっと弾の心にあす花の言葉があった。
確かあのときは『Come Again』の歌詞を考えている最中。「誰でも良い時ばかりじゃない」の後の歌詞が思いつかなくて、弾は苦戦していた。
あす花の自己紹介は、次が浮かばなくてそのままにしたフレーズの続きみたいで。あのとき、あす花によって植えられた種が芽を出し茎を伸ばし葉をつけ、やがて花になった。そして、その花がたくさんの人を笑顔にした。
『君の花になる』は、誰かの夢が、また別の誰かの夢になる。そんな物語でした。
8LOOMが、日常をちょっとだけ変えてくれた
『君の花になる』が最終回を迎えた。
振り返ってみて、改めて思うことは、このドラマのいちばんの成功は、やっぱり8LOOMという存在そのものだということ。1年前、オーディションの末に選ばれた7人。中には歌やダンスが未経験の者もいた。逆に、演技は未経験という者もいた。
そんな中、一歩ずつ彼らは進んでいった。今日のこの日を迎えるために、できないことに一生懸命取り組んだ。初めてのことに恐れず挑んだ。多忙な仕事の合間に振りの練習をしたり、インスタライブをしたり。アイドルとして、たくさんの人を楽しませようとしてくれたこと。応援してくれる人に愛を返そうとしたこと。そんな8LOOMの姿が、僕たちの胸を打った。いつもと変わらない日常を、ちょっとだけ今までと違う日常に変えてくれた。それが、8LOOMと過ごした日々のすべてだった。
楽曲のクオリティも本当に高かったと思う。代表曲である『Come Again』『君の花になる』にとどまらず、エピソードが進むにつれて、いろんな曲が生まれてくるもの楽しかったし、どれも捨て曲なしで聴きごたえがあった。個人的には『Melody』と『HIKARI』が耳馴染みが良くて、生活のいろんな場面にそっとしみこんでいくような軽やかさがあって、よく仕事中とか家事をしているときにかけさせてもらいました。ありがとうございます。
YouTubeの展開も楽しかった! 放送が終わるたびに次々といろんな動画が公開されて。ミュージックビデオやパフォーマンスビデオも趣向に富んでいて、何回観ても飽きなかったし、観てると気分がウキウキした。
ドラマとしては、やっぱり5話が個人的にはハイライト。コンプレックスと向き合ったり、その中でメンバー同士の絆が深まったり。アイドルを描く上で必要なものがあの1話につまっていて、今でも見返すだけで条件反射のように涙が出るパブロフの犬になりました。そこからの6話で、夢を追うことのほろ苦さまで描き、それを乗り越えステージの上で輝くアイドルの眩しさに夢をもらうという展開は、アイドルものとして美しかった。
最終回のキーパーソンは、あす花が働くフリースクールの生徒・柴咲(渡邉蒼)だったと思う。人のプライベートを晒して承認欲求を満たすことくらいしか楽しみがなかった少年が、8LOOMのライブに行き、ほんの少し前向きになる。そして、3年後、柴咲はスクールの先生として働いていた。8LOOMが直接何か関与したかはわからない。でもきっと何かしらの影響があった気がする。
アイドルって、いやアイドルに限らず、推しと呼ばれるすべての人や物って、そういうものだと思うから。知らぬ間に、誰かの夢になっている。変わるきっかけになっている。そして、先生になった柴咲が今度はまた誰かのきっかけになっていく。そうやって世界がちょっとずつ良くなっていく。本編の中ではサブエピソードだけど、アイドルものの終着点として考えたときに、柴咲はすごく大きな役割を果たしていた。
『君の花になる』を支えた7人のボーイズたち
そして何よりキャストが良かった。
弾はどうしてもヘイトが集まりやすい役柄で、正直に言うと脚本や演出でもう少し恋愛描写を受け入れやすくする工夫はできたと思う。それでも弾が不動のセンターとして成立したのは、高橋文哉の力技があってのこと。ビジュアルの良さといったら身も蓋もないけど、人が応援したくなる清潔感と凛々しさの備わったルックスに加え、自分の気持ちには嘘がつけない正直すぎるほど切実な表情と、ドラマ以外のライブMCや「8LOOM ROOM~君花アフターパーティー!」などの場で周りを見ながら進行したり、メンバーをまとめる高橋自身の真面目さが、暴走気味の弾のキャラクターを補正していた。
宮世琉弥は、持ち前のマンネ感がなるというキャラクターにぴったりだった。その上で、宮世の持つ少し醒めた目が役に活きていた。最終的に8LOOMの憎まれ役を引き受けるという展開も(たぶんファンは誰もなるのことを憎んでいないけど)、1話からいろんな場面でさりげなく人をフォローしている洞察力に優れたなるだから説得力があった。宮世は、出すぎず下がりすぎずという立ち位置を、絶妙なバランス感覚で演じていたと思う。一方、ボーイズグループ出身ということもあってアイドル性は抜群。ライブでも積極的に8LOOMYとコミュニケーションをとる姿に天性の小悪魔感があってたまらなかった。
八村倫太郎はとにかく愉快だった。演じた栄治のちょっとネガティブという個性をここまで膨らませることができたのは、八村だからこそ。八村もまた本人の素の魅力が翻って役そのものに反映されていくタイプの俳優だった。だから、つくり手たちもつい栄治にいろいろとオモシロ要素を振りたくなる。個人的には『Melody』のMVでホラー映画を観ながら白目になってる栄治が好き。あそこは、栄治と八村の幸福なマリアージュでした。それでいて、歌声はとってもパワフル。全体的に透明度の高い8LOOMの歌に強烈なパンチをプラスしたのは八村の存在だったと、声を大にして讃えたい。
森愁斗は泣きの演技が素晴らしかった。それが最初に開眼したのが、5話だった。病院の待合室で自分のせいだと言い合う弾と宝の間に入るシーンで見せた、潤んだ目と、声を発する前にちょっと息が震えるところがすごくリアリティがあって惹き込まれた。9話の話し合いのシーンでも、最終話のライブシーンでも、森の涙は泣こうと思って流しているものではなく、感情が昂って自然とそれが溢れ出たように見える。まるで雨に濡れた子犬みたいで、もらい泣き確率は8LOOMの中でもナンバーワン。アーティストとしてだけでなく、俳優としての未来を期待したくなるポテンシャルを森は見せてくれた。
本人のキャラクターと、つくり手たちが考えた設定が、いちばん化学反応を示したのは、NOA演じる巧だったんじゃないかと思う。NOA自身の持つ浮世離れした空気感と、巧のぽわぽわとしたキャラクターが見事にマッチ。しかも回を重ねるごとに、ただの不思議ちゃんではなく、愛情いっぱいの素直で優しい人間に昇華していったところが良かった。そこに、パフォーマンス時はNOAのセクシーな魅力が加わり、振り幅は無限大。『Melody』の「そっばにいるだけで〜」の「そっ」の声の出し方が好きすぎる。この「そっ」だけを無限ループしたCDとかあったらグッズで出してほしい。それを聴いて眠ります。
最終的な推しは、綱と山下でした
そして、みんな本当に大好きという前提で、最終的な推しを挙げるなら2人。綱啓永と山下幸輝。この2人は、役の魅力と本人の魅力の総合点が僕の中ではトップでした。
綱はとにかくずっとイキイキしていた。これまでもいくつかの作品で演技は見てきたけど、こんなに伸び伸びと自由に演じている姿を見たのは初めてでした。よく考えると、有起兄は有起兄で8LOOMに100とか言いながら奈緒(志田彩良)に熱を上げているわけで、弾と同じ。でも、それほどハレーションが起きなかったのは、メインエピソードではなかったこともあるけど、それ以上に有起兄ならいいかと思わせる、天然ものの憎めなさがあったからだと思う。そこは綱が演じたから生まれたもので。チャラくて軽いんだけど、8LOOMへの愛がいっぱいで、一生懸命な人情家。そうしたキャラクターの強さが、ノイズを吹き飛ばした感がある。
あの顔いっぱいに広がるくしゃっとした笑顔は、落ち込んでいる人を元気にさせる問答無用の力があった。事実、この3ヶ月間、綱の笑顔に何度も明るくしてもらった。お芝居にも弾力性があって、コメディに染まりやすいだろうし、ビジュアルはクールで不良っぽさがあるので、エリートもいければクズみのある男もハマるだろう。俳優としての使い勝手の良さは、7人の中でもダントツだと思う。ぜひ綱啓永にはこの作品を機に大きく飛躍してほしい。
そして、山下は魅力の塊みたいな男の子だった。正直、この作品に出会うまでは、雑誌でチラッと名前を見かけたことがあるくらい。だけど、オーディション動画を観たときから、圧倒的な可愛さがあって、光り輝く素質のようなものを感じさせてくれた。実際、ドラマが始まってからも、宝という真面目で不器用で人間味のあるキャラクターをまっすぐ演じて、魅力を膨らませてくれた。ライブなどを見る限り、山下本人はもうちょっと控えめというか、シャイな男の子に見えるんだけど、宝を演じているときはあざといくらいに可愛さを振りまいて、笑顔がキラキラしていた。物語の中でも宝の成長が印象的に描かれていたけど、そこに山下本人の成長が投影されているようだった。
9話のラストで、涙を手のひらで拭うカットが一瞬インサートされるのですが、あれは宝の可愛さとリーダーとしての芯の強さが出た名カットだと思っている。あれを抜いたカメラマンがエラいし、あれを編集で取りこぼさなかった監督がエラいし、でもまああれは絶対撮りたいし入れたくなる破壊力があったよなと頷いてしまう自分もいる。事務所の方は山下幸輝という逸材をなんとしてでもブレイクさせてほしい。それが心からの願いです。
8LOOMが、魅力の宝箱みたいだっただけに、本音を言うと、もっと8LOOMメインのお話が見たかったという心残りはあるけれど、それでも8LOOMに出会えただけで感謝と言うしかない。
ありがとう、8LOOM。あなたたちがくれた花は、8LOOMYの心の中でいつまでも枯れることなく咲き続けています。
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
◆放送情報
『君の花になる』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。
さらに、「『君の花になる』までの365日 未公開映像付きParavi版」『8LOOM ROOM~君花アフターパーティー!』も配信中。
また、8LOOMのメンバー7人全員での最後のイベントとなる「君の花になる "Thank You 8LOOMY" LAST FAN MEETING」の12月27日(火)17:00公演分が独占ライブ配信される。https://news.paravi.jp/thank-you-8loomyfan-meeting_01/
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