人生は辛いことがいっぱいある。自分で自分を好きになれないときもたくさんある。じゃあ、そんな局面を僕たちはどうやって乗り越えていけばいいのか。
『君の花になる』第7話は、そんな傷つき疲れた人生を生きる現代人の心の特効薬を描いた回でした。
今こんなにも人が推しを求める理由
頼まれたら断れない頑張り屋のあす花(本田翼)。しかしその真面目な性格はハンドリングを誤ると自分を追いつめてしまうことも。主業務である授業運営に加え、生徒のケアに保護者対応、部活の顧問、さらに大量のペーパーワーク。教職がいかにハードワークかは近年社会問題化しており、そのほとんどが個人の努力と犠牲によって成り立っているのが現状です。
あす花もまたそんなやりがい搾取によって心身に傷を負った1人。面倒な事務作業はあす花に押しつけ、そのくせ問題が起きたら当人の努力不足に責を負わせ、自分が追いつめた自覚すらない豊高先生(塚本高史)みたいな人は、職員室に限らず、いろんな職場にいて。あす花は全部放り出して逃げ出したことにずっと罪の意識を抱えていたけど、逃げるしかないときは逃げていいのです。
もちろん自分が逃げることによって迷惑を被る人はいる。だから、過剰に逃げを肯定するつもりはありません。けれど一方で、人はそんな全方位に気を遣って生きてはいけないのです。それぞれ人には「我儘になっていい権利」みたいなものがあって。Excelが苦手な豊高先生が事務作業で「我儘になっていい権利」を振りかざしたように、真面目な人は踏ん張りが効かなくなりそうになったときこそ、堂々と「我儘になっていい権利」を行使すればいい。要は、タイミングの問題です。だから、あす花があの学校から逃げ出せたことは良かったと思うし、逃げ出した先に守ってくれるお姉ちゃん(木南晴夏)がいたことは救いだったと思っています。
その上で、学校に足を向けられなかったあす花が、8LOOMの映像を見て、もう一度走り出せたという描写はとても良かった。
結局、「推し」と呼ばれるすべての人や物は、そうなんですよね。直接的なつながりなんてない。こちらはただ見ているだけ。応援することしかできない。いくらガチ恋したって、99.999%叶いっこないこともわかっている。
それでも推しが言ったほんの何気ない言葉に救われることがある。推しの笑顔が、推しの歌声が、推しのすべてが癒しになる。もう来なければいいのにと思っていた明日を、あと少し、もう少しだけ頑張ろうと思える。光になる。だから私たちはこんなにも推しを求めるわけで。
立ち止まったあす花がまた走り出せたのは、8LOOMのパフォーマンスをその目で見たいと思ったから。それは、ハードモードな人生の中で現場に行くことを拠り所にしている僕たちオタクに似ていて。再び走り出したあす花を通して、推しとオタクの関係の尊さを描いたこの瞬間は、ボーイズグループを題材としたドラマとして、一つの最高地点だったと思います。
遠くにいる推しと、近くにいる大切な人
一方で、推しの力だけではどうしようもないことが現実にはあって。あす花もまた学校の前まで来ることはできても、中に入ることはできなかった。
そんなあす花を支えてあげられるのは誰かというと、遠くにいる推しではなくて、近くにいる大切な人たちでした。それが、8LOOMとしてではない、個人としての弾(高橋文哉)であり、なる(宮世琉弥)であり、有起兄(綱啓永)や栄治(八村倫太郎)や竜星(森愁斗)や巧(NOA)や宝(山下幸輝)だった。
あの寮母感謝デーであす花を囲んでいる7人は、アイドルとしての8LOOMではないんですよね。1人の人間としてそれぞれあす花と関わり、あす花に支えられ、あす花を好きになった。そんな彼らがくれる「最高」という言葉が、あす花を自罰感情から解き放ってくれた。
推しと個人、それぞれの立場から傷ついたあす花を救うという構造は、このドラマらしいし、胸に沁みわたるものがありました。
弾にしても、あす花に曲を褒められて褒められるところとかとても可愛くて、あのちょっとむず痒そうな照れ臭い表情を見られただけで、こちらもくすぐったい気持ちになるし、寮母感謝デーでプレゼントを弾以外の6人で用意したと言われ、「イヤフォンは俺がこいつから聞いたやつだろ」とムキになったり、ケーキをみんなでつくったと言われ、「つくったのほとんど俺だから」といちいち訂正を入れるところも、あす花のことに関しては一番になりたい弾らしくて微笑ましい。
個人的には、こういうささやかなところに弾の魅力を感じます。
円陣に入る寮母をオタクはどういう気持ちで見ればいいのか
その反面、やはり難しいのが、不意に出てくるアイドルと寮母の距離の近さを、どう脳内処理するかです。今回いちばんスンッとなったのは、円陣の場面でした。
この際、もはや弾とくっついてくれる分には何も申すまい。チューでもなんでもしてくれ。開き直ってキャッキャッしてやるくらいのふてぶてしさは持てるようになりました。
ただ、寮母が円陣に入るのはちょっと・・・というのが、これまた難しいオタクの気持ち。円陣ってやっぱり特別なもので。そこに入ることができるのは、共に戦う人間だけ。その誰も立ち入れない絆に美しさを見出すのです。しかも、つい最近、香坂さん(内田有紀)に「きちんと線引きを」と注意されたばかり。
だから、せめて円陣に入る以上はやっぱり恋愛感情は捨ててほしいなと思ってしまった。でないと、8LOOMからの愛を一身に受けるあす花という立場に、粗大ゴミに出したはずのモヤッとボールをまた拾いに行くことになってしまう。
変な話ですが、放送が終わった後、綱くんが「"8LOOMY俺らのファンになってくれてマジ感謝しかないからマジありがとサンキューです"」と8LOOMYに向けてメッセージを送ってくれたことに、正直、泣きそうになった。8LOOM愛も8LOOMY愛も強い綱くんガチで推せる...。
8LOOMのことを応援したい気持ちと、応援しているからこそ「ウッ・・・!」となる場面が交互に出てくる『君の花になる』、マジでオタク泣かせ。ワイ、このドラマが終わったら、井上尚弥のパンチを喰らってもリングに立っていられるくらい打たれ強い男になっている気がするぜ・・・。
そんなあす花と弾ですが、いよいよ次回はその関係が週刊誌のターゲットになる模様。果たしてこの一大スキャンダルをあす花と8LOOMはどう乗り越えるのか。くれぐれもバッシングをするオタク側が悪に見える構図だけは避けてほしい。
そして、あす花の今後はというと、気になるのがあす花に留学の相談をしていた新田(片岡凜)という生徒の存在。なんとなく悪者っぽい描かれ方で終わっていましたが、彼女は本当にあれだけの役割なのでしょうか。
あす花にとって、寮母はあくまで空っぽになったエネルギーを給油するためのトランジットであり、いずれは別の場所――おそらくもう一度教職へ戻ることになる気がするのですが、新田がそのきっかけとなるのか。はたまた池谷先生(前田公輝)のフリースクールで再出発を図るのか。
とりあえず「仲町先生の大丈夫はもう信じませんよ」と言う前田公輝がめちゃくちゃ良かったので、そこはかとなく池谷先生ルートも応援しておきます(絶対ないだろうけど)。
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
【第8話(12月6日[火]放送)あらすじ】
「俺、アンタが好きだ」という弾(高橋文哉)の真っ直ぐな告白を受け、戸惑うあす花(本田翼)。
しかし弾は、今は8LOOMの活動を頑張るため、あす花とは恋愛関係ではなく、お互いの頑張りを励まし合う関係になりたいと言う。
そこで、あす花から"花丸"をつけ合う関係になろうと提案する。
互いに支え合い、前向きに仕事に打ち込むあす花と弾。
そんな中、あす花の元同僚教師の池谷(前田公輝)が、退職のあいさつにと、あす花のもとを訪れる。
現在フリースクールで働いているという池谷の話に、あす花は心を動かされ・・・。
一方ファンの後押しもあり、8LOOMの初の全国ライブツアーが決定する。
個人での仕事も充実しますます勢いに乗る8LOOMだったが、なる(宮世琉弥)だけは、グループのために自分だけ役に立っていない、自分が出来ることが何なのかと思い悩んでいて・・・。
そんな時、あす花と8LOOMたちに最大の危機が訪れる・・・!?
◆放送情報
『君の花になる』
毎週火曜22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」で配信。
『8LOOM ROOM~君花アフターパーティー!』も配信中。
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