生きていると、後悔はたくさん生まれる。まだやれたと思うこと。気づいてあげられたら・・・と思うこと。それでも、私たちは歩いていかなければならない。その先にある"光"を見つけながら。

ついに迎えた『階段下のゴッホ』(TBS系)最終話。前回明らかになった真太郎(神尾楓珠)の"闇"が重すぎて、消化するのに時間がかかっている人も多いのではないだろうか。正直なところ筆者も、「もう最終話だけど大丈夫!?」と思ってしまった。ここまでの"闇"を抱えている真太郎を、都(SUMIRE)は救い出せるのか? と。

光也の"返事"がほしくて、真太郎は絵を描き続けているのかもしれない

真太郎と、兄の光也(倉悠貴)は、本当に本当に仲のいい兄弟だったのだろう。どちらかが"絵"を描いていなければ、きっと今も一緒に笑い合っていたはずだ。強がってブラックコーヒーを飲む真太郎のことを、光也が「まだまだお子ちゃまだな」なんて茶化しながら。

しかし、"才能"というものは、時に残酷で。時間をかけても、努力を重ねても、才能がある人には敵わない。光也は、真太郎の絵を見て、そう悟ってしまったのだろう。弟のことを憎みたくない。でも、どんどん嫉妬する自分が嫌になってくる。そんな葛藤を抱えながら、光也は海に飛び込んだのかもしれない。

ただ、光也は真太郎のことを憎んでいたわけではなかった。筆者は、「お前が美術を始めなければ・・・」と憎しみを抱いた日もあったのかな? と思っていたが、光也はむしろ真太郎の絵を愛していたのだ。

都が、絵を始めるきっかけになった"赤い絵"。この絵の作者が真太郎であることは明らかになっていたが、展示場に持ち込んだのが光也だったなんて・・・。「弟の絵が好きなんです。悔しい気持ちはあるけど、必ず元気をくれる。だから、たくさんの人に見てもらいたい」。そう微笑んだ光也の言葉に、嘘偽りは感じられない。

「じゃあ、なんで死んでしまったの?」と聞きたいところだが、その問いかけはもう彼には届かない。だから、真太郎は描き続けているのだろう。兄に向けた、言葉のない手紙を。いつか、その答えが分かる日が来ると信じて。

それにしても、都にとっては"希望"だった赤い絵が、光也にとっては"絶望"を確信させるものだったのが、なんとも皮肉である。「赤は再生の色」。同じ再生でも、まったく違う方向に"再生"してしまったなんて。死を選んでしまえば、もう二度と元の世界には戻れないというのに。

真太郎の心を軽くした都との何気ないやりとり

兄を自死に追い込んでしまった罪悪感を抱えてきた真太郎。だが、都の語りかけにより、少しずつ前進しているのが分かる。なかでも、筆者がいちばん印象に残っているのは、ラストシーンのやりとりだ。藝大に落ちた都が、真太郎の合格を大はしゃぎで喜ぶ。そして、こんな会話が繰り広げられた。

「なんで、おめでとうなの? 自分、落ちたのに」
「言ったじゃん。君の絵が好きだから。あ〜もっともっと評価されてほしい」

この都の返事を聞き、真太郎も少しはラクになったのではないだろうか。自分の才能が認められるたびに、兄に罪悪感を抱いてしまっていた過去。でも、兄も自分の絵を愛してくれていたと知った今なら、分かる。光也はきっと、真太郎の活躍を心から願ってくれていることを。

夢を追いかけるのは、苦しい。美術を始めたばかりの都が藝大に合格する・・・なんてミラクルは起きないし、みんなそれぞれが挫折を繰り返しながら生きている。それでも、必死にもがいていたら、ふと幸せな瞬間がやってくる。真剣に夢を追いかけた者しか味わえないその幸せを掴むために、彼らはがむしゃらに生きているのだろう。

夢を持つことの残酷さと素晴らしさを教えてくれた『童心塾』のメンバーに、心からの感謝を込めて。

(文・菜本かな/イラスト・まつもとりえこ)

◆放送情報
『階段下のゴッホ』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。