諦めなければ、夢が叶うなんて嘘だ。そう気付いていながらも、『階段下のゴッホ』(TBS系)の登場人物たちは、夢を追い続けている。天才ではないかもしれない。それでも、努力を重ねれば、いつかは天才になれると信じて。

「みーんな、敵!」ハナの叫びが、胸に突き刺さる

第6話は、美大現役合格を目指す高校生・ハナ(石川瑠華)にスポットが当たった。都(SUMIRE)と同じ美術予備校に通う彼女は、いちばん人間味のあるキャラクターと言えるだろう。自分が成功することが最優先で、そのほかの仲間はみんながライバル。「自分の敵は自分ってよく言うけど、ハナはちがうと思う」と言ってのける。

たしかに、「自分の敵は自分です」と言っておけば、角が立たないし、聞こえもいい。筆者も、そう聞かれたら、「自分ですかね」と答えるような気がする。それに、「成功する人は、周囲を蹴落とそうとしない」なんて言葉も、よくビジネス書に書いてあるし、「みなさんは、ともに学ぶ仲間です」とは、教師の常套句だ。

しかし、その"仲間"のなかで、成功するのは一握り。同じように努力していても、成功者以外は、"天才の踏み台"で終わってしまうのだ。明るく見えるハナも、その裏では常に現実と戦い、もがいていたのかもしれない。

このまま続けていても、報われるのだろうか。芸術の世界は、学校のテストとちがい、勉強した分だけ成績が上がるわけでもない。"天才"が、たった数秒で描いたものが、「名作」だと持て囃されることだってある。"凡人"が、何年もかけて描いたものよりも。「絵の世界ってさ、10年に一度、1人の天才が出ればいいんだよ」とは、予備校でいろいろな浪人生を見てきた彼女だからこそ、出た言葉なのだと思う。

都には、何かと文句をぶつける真太郎(神尾楓珠)が、ハナに「みーんな、敵!」と罵られても、黙っていたのが印象的だった。彼も、きっと彼女の葛藤を理解することができるのだろう。表面上は、ともに夢を追いかける仲間だとしても、その裏ではメラメラとしたものが燃えたぎっている。たとえば、「このなかで誰かひとりだけ美大に進むことができる」と言われたら、彼らは迷わず手を挙げるはずだ。

それでも、やっぱり仲間の存在は尊い。ハナが、ようやく納得できる作品を作り上げることができた時の真太郎の笑顔。みんなで眺めた夕焼け。たとえ夢が叶わなくても、"天才"になれなかったとしても、仲間と過ごした日々は無駄にはならない。そして、夢が叶った時に支えてくれるのも、また仲間なのだ。

自分がいちばん大事でもいい。でも、自分を大事にするために、仲間の存在は必要だということに、いつかハナが気づいてくれたらいいなと思った。

真太郎が影を纏っている理由は、兄の存在にあり?

また、都に絵を始めるきっかけを与えた"赤い絵"が、真太郎と深く関わりのある人物が描いたものであることも判明した。筆者は、その人物は真太郎の兄なのでは? と考察をしている。

兄のスケッチブックを持ち歩いていて、絵が好きなわけじゃないのに、描き続けている真太郎。「俺だって、追いつけないよ」と意味ありげに語っていたし、家族との思い出を事あるごとに振り返るシーンもあった。

そのため、大好きだった兄の遺志を受け継ぐために頑張っているのか? と思ったが、「クソみたいな絵」と睨みつけたということは、その線は消えそうだ。兄と真太郎の関係性、そして"赤い絵"を描いた人物は誰なのだろうか。どちらにせよ、フラッシュで何度も登場している俳優・倉悠貴は、後半の鍵を握る存在になりそうだ。

(文・菜本かな/イラスト・まつもとりえこ)

【第7話(11月1日[火]放送)あらすじ】

忽然と姿を消してしまった真太郎 (神尾楓珠)。自分が何かとんでもないことをしてしまったのではないかと不安になる都 (SUMIRE) は、真太郎の手がかりを追って、残された青いスケッチブックと共に赤い絵のあるギャラリーへ。

「あなたにならその手紙を読むことができるかもしれませんよ」と画廊主の綿貫豊 (利重剛) に諭され、スケッチブックを開くと、そこには真太郎の兄である光也 (倉悠貴) の絵が描かれていた。拝啓ゴッホ様、と綴り続けたその先で、都は真太郎と光也、兄弟の間に隠された秘密を、ただ一人知ることになる。

◆放送情報
『階段下のゴッホ』
毎週火曜深夜24:58よりTBSほかで放送。
動画配信サービス「Paravi」では、毎週1週間先行配信中。