"詐欺師のみを騙す詐欺師"クロサギが2022年の現代を舞台に帰ってきた。『クロサギ 』(TBS系)第1話から気持ちの良い欺き合い、駆け引きが炸裂した。
"クロサギ "こと黒崎(平野紫耀/King & Prince)の今回の標的は、起業セミナー講師の春日(高橋光臣)だ。実は黒崎が"クロサギ "になった原因も同じく起業セミナー詐欺にあった。彼が15歳の頃、父親が起業セミナー詐欺に遭い一家心中を図り家族を道連れにする凄惨な事件を起こしたが、黒崎はその生き残りだったのだ。彼は、父親を騙した御木本(坂東彌十郎)に復讐を果たすべく、表の顔は甘味処「かつら」店主、裏の顔は詐欺界のフィクサーとして暗躍する桂木(三浦友和)の元で詐欺師として飼われているというわけだ。
起業セミナー詐欺被害者として黒崎が接触を試みたのが、吉川(船越英一郎)だったが、最初は頑なに自分が"騙された被害者"であることを認めたがらないのがまあリアルだ。30年以上勤め上げた会社から派遣社員への切り替えを提案され、年齢的に再就職は難しいと、何より家族のために再起を懸けて選んだ"起業"の道。薄々どこかで"騙されているかもしれない"という疑念が湧いても、それを振り払って「自分にはもうこの道しかない」「そんなはずはない」と突き進むことで、より引き返せないところまで来てしまっていた。
特に男性の方が、肩書きのない場所でのコミュニティ形成を苦手とすると言われているが、きっとこの歳になって何の肩書も持たない宙ぶらりんな存在になってしまった吉川にとって、そんな自分と近しい立場の仲間に囲まれ、自分のことを受け入れてくれる起業セミナーという場が有り難く心の拠り所となっていたのだろう。
「あんたが騙し取った金は金じゃないんだよ。俺たちの人生なんだよ、人生そのものなんだよ」とは吉川が春日に対して放った一言だが、これこそが"詐欺被害"が簡単には表面化せず、そしていつの世も後を絶たない理由でもあるのだろう。
さて、主人公の黒崎役を演じる平野だが、これまで学園モノの作品に出演している印象が強かったが、本作では大人な、そして壮絶な過去を抱えた孤独な役どころを好演している。平野の圧倒的なビジュアルと声質は"変装"という面においてはむしろ仇になるのではないかと勝手に心配していたが杞憂だった。服装や髪型、前髪の少しの変化や、目の色、そして話し方、所作だけでなく眉の動かし方など非常に細かなアレンジで見事に鮮やかな七変化を見せてくれる。
また、桂木と御木本の関係性について迫るシーンでは鬼気迫る演技を見せ、彼の中に深く深く根ざしている強烈すぎる原体験、全てを漆黒にしてしまうかのようなあまりに過酷な地獄、絶望の底なしぶりを覗かせた。御木本への復讐のためとは言え、家族を亡くしてから自分の近くにいる数少ない大人で"親爺"と呼ぶ桂木が、御木本と繋がっているだけでなく、自身の家族を離散に導いた起業セミナーの設計図を描いた張本人だと知った時、黒崎はどうなってしまうのだろうか。
正義感の塊のような吉川の娘で大学生の氷柱(黒島結菜)、そして詐欺師を心底憎み"クロサギ"に異様な執着を見せる刑事の神志名(井之脇海)らとの掛け合いの中で、"復讐"のためだけに生きているような黒崎にも今後何か迷いや葛藤がもたらされることがあるのだろうか。
(文:佳香(かこ)/イラスト:月野くみ)
【第2話(11月1日[火]放送)あらすじ】
今回の黒崎(平野紫耀)の敵は、「心」を利用した詐欺。
探偵の川中幹夫(新納慎也)に「好きな人と出会わせる」と言われ契約を結んだ被害者・江本美知留(八木莉可子)から話を聞いた黒崎は、法の目をかいくぐり金銭を奪うシロサギを喰うと決める。
氷柱(黒島結菜)は自分の住むアパートの大家が、父(船越英一郎)の詐欺被害で知り合った黒崎だと知り、名前も偽名だったことに衝撃を受ける。偶然にも隣同士の部屋に住んでしまっている黒崎と氷柱だが、そんな中アパートの住人がとある契約トラブルに巻き込まれる。
そして、黒崎の存在を知った東京中央署の神志名(井之脇海)は、黒崎の周囲を調べ始めるが、それが思わぬ事態に・・・。
氷柱は黒崎が詐欺師として生きることになった理由が何かあるはずだと、過去の詐欺事件を調べる。黒崎もまた、氷柱の言葉から過去の出来事を思い出していた。自分の家族のこと、そして仇の正体を知り、自分が"クロサギ"という道を選ぶ決意をした時のことを――。
◆放送情報
『クロサギ』
毎週金曜深22:00よりTBS系で放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」で配信中。
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