山﨑賢人主演の日曜劇場『アトムの童(こ)』(TBS系)の第1話が10月16日に放送された。本作は、業界を舞台に、若き天才ゲーム開発者・安積那由他(山﨑)が大資本の企業に立ち向かい、周囲の人たちと関わりつつも成長していくストーリー。

冒頭では1978年、日本のゲーム・インベーダーゲームが世界に席巻したことを皮切りに、1983年に任天堂のファミリーコンピュータが、1994年にソニーのプレイステーションが登場した歴史から現在の群雄割拠のゲーム市場までが紹介される。ゲーム好きにとってはワクワクするつかみだ。

その一方で、本作で描かれるのは日本人のゲーム好きの大多数が親しんだゲームの世界ではない。

物語は2015年、那由他が菅生隼人(松下洸平)とゲームを完成させた瞬間から始まる。彼らは大手企業や販売元を介さず個人でゲームを制作する「インディー」という若き天才ゲーム開発者だった。「ジョン・ドゥ」という名で活躍し、誰も素顔を知らないことから"ゲーム業界のバンクシー"と呼ばれていたのだが、現在では那由他はゲーム業界を離れ、自動車整備工場で働いていた。

そんな中、彼を再びゲームの世界に導くのが"倒産危機の老舗玩具メーカー"「アトム玩具」社長の一人娘・富永海(岸井ゆきの)だ。アトム玩具の二代目社長・繁雄(風間杜夫)は、姿勢もしゃべり方も、精巧な立体造形物で「チョコエッグ」の爆発的ヒットを生んだ海洋堂の宮脇修氏にそっくり。と思ったら、その息子・宮脇修一氏が自身のTwitterで「落ちぶれたモノ造りにこだわる老舗玩具メーカーと言う設定とかに少し協力させていただいております」と呟いていた。

実は那由他はアトム玩具のマスコットキャラ「ネッキー(※ファミ通のキャラ)」をコレクションしており、その造形師だった繁雄のモノ作りへの情熱や愛情をリスペクトしていた。一方、繁雄の娘・海は銀行に勤務しており、カプセルトイの在庫を「ゴミの山」と一蹴する。なぜならアトム玩具の商品はコレクターたちに高く評価されてきたものの、経営は火の車で、繁雄が家計を顧みずに金を注ぎ込むことで富永家は困窮してきたのだ。

そんな中、繁雄が脳梗塞で倒れ、さらにアトム玩具が「漏電」で火事になる。ソフビ人形やフィギュア、塗料など、燃えやすいモノだらけの会社とはいえ、本来は玩具会社にとっての命は「金型」であり、金型は無事だろうと思うが、それはともかく。

災難だらけのアトム玩具を救うべく、海は特許を売り、会社を畳もうと提案。しかし、繁雄は諦めず、海もその情熱に巻き込まれるかたちで、銀行を退職。後継として焼け跡からの再出発でゲーム業界に参入することを決意するのだ。

ソフビやフィギュア作りの技術がゲームにどう生かされるのかは、正直よくわからない。PCがあれば何でも作れるという感覚もイージーだ。だが、海が着目したのは、"ゲーム業界のバンクシー" 「ジョン・ドゥ」を見つけ出すこと。そのきっかけとして、ゲームのバグを探そうと連日必死でネットカフェにこもり、その情熱に心打たれた「ジョン・ドゥ」の一人・那由他がひそかに手を貸し、バグを見つけることに成功。

一方、そんなアトム玩具の特許を狙っていたのが、ゲームでも成功を収めているインターネット検索サービス「SAGAS」の社長・興津晃彦(オダギリジョー)だ。実は興津は那由他たちのゲームを奪った人物でもあった。そこで、アトム玩具を救うべく、海のもとに那由他が登場、「ジョン・ドゥ」であることを明かし、ゲーム開発に協力すると言い、興津に戦線布告する。一方、那由他の愛するキャラ・ネッキーは海が幼少時に描いた絵がモチーフになっていたこともわかるという熱い展開に。

しかし、ラストでは那由他のかつての仲間で「ジョン・ドゥ」のもう一人、隼人が興津と握手を交わす不穏なシーンが描かれた。隼人は敵なのか味方なのか。

意外だったのは、フタを開けてみると、ゲーム業界のいまどきの話ではなく、「大資本VS町工場・個人商店」という『下町ロケット』的な、いつも通りの日曜劇場だったこと。リアルにゲーム好きの人は自身が子供の頃から親しんだファミコンもプレステもゲームボーイも全て「敵」の大資本側になるわけだが、そのあたりどうなのか。

とはいえ、こうしたわかりやすい「ザ・日曜劇場」が大好きな層は非常に多い上に、山﨑賢人、松下洸平、オダギリジョー見たさでハマる女性も大量発生している。ビジネス的狙いがズバリハマった第1話だった。

(文:田幸和歌子/イラスト:まつもとりえこ)

【第2話(10月23日[日]放送)あらすじ】

新生「アトム玩具」がついに動き出した。ところが、那由他(山﨑賢人)から一向にゲームのアイデアが出てこない。社長の海(岸井ゆきの)は「ジョン・ドゥ」再結成を促すが、那由他は頑なに拒否する。

新たなパートナーを探すことになった那由他は、海に連れられゲームジャムのイベントに参加。その会場で隼人(松下洸平)とばったり会い・・・。

二人の態度に深い溝を感じた海は、ネットゲームカフェの森田(岡部大)を訪ねる。森田の口から語られたのは、那由他と隼人と公哉(栁俊太郎)の関係、そして興津(オダギリジョー)との因縁だった。

◆放送情報
日曜劇場『アトムの童(こ)』
毎週日曜21:00よりTBS系で放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。