"正しさ"だけが世界を救うわけではない。もしそうならば、そんなに簡単で単純明快なことはないのだから。時に"正しさ"を超えた"優しさ"や"賭け"が誰かの傷にそっと寄り添い、止血してくれることだってある。そして、むしろ"正しさ"が人を傷つけ、その傷口を抉ってしまう刃になることだってある。

「いろんな夫婦関係があるもの」「愛にもね、いろんな形があるの」ということが何度も何度も繰り返された『夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~』(テレビ東京系)第2話。

"セックスレス"の問題が解消したかに思われた仁科夫婦だったが、主人公の仁科志保(佐津川愛美)の元に一本の電話が入る。スワッピングの会「ナイトアクアリウム」の主催者・窪塚洋一郎(平岡祐太)曰く、"妻だけED"を克服したはずの夫・浩介(千賀健永/Kis-My-Ft2)が引き続き窪塚祥子(板谷由夏)と隠れて会っているというのだ。

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どうしてもここのところまた機能しなくなってしまった浩介は自信を取り戻すべく祥子に連絡をとったようで、「俺にとってはスワッピングは治療なの」と言い張る。さらに何とか娘・梢(紙崎瑛茉)の"赤ちゃんが欲しい"という要望に応えるべく、それまで「夫婦交換」を継続したいのだと言う。ここでまずかったのは最後の「何だったら志保もやっていいよ、窪塚さんと」という浩介の無神経かに思える一言で、彼女の感情は逆撫でされ思わず「そんなのただのW不倫じゃん」と言い返す。

"性"にまつわる問題は非常にデリケートで人の尊厳に大きく関わる。志保の言い分は至極真っ当で誰が聞いても"間違いはなく正しい"が、何とか藁をもすがる思いで見出した「治療法」に耳を傾けてもらえず、その"正しさ"だけで一刀両断される浩介もまた苦しいことだろう。周囲に公言するのは憚られる内容であることを浩介自身も重々承知しており、だからこそ最も近くにいる志保にだけは勇気を持って打ち明け何とかわかって欲しいと理解を仰ぐも、はなからそれに取り合ってもらえないとなれば、静かに傷つき理解し合うことを諦めてしまうだろう。

「そんな馬鹿みたいなことしたくない」と言い放つ志保の言葉には、どこか自分への軽蔑や超えられない壁、拒絶を感じてしまいかねない。実際、浩介は営業ノルマも増えて仕事も大変だったようだが、それを志保には話せなかったようだ。"正しさ"だけが全てを解決してくれるわけでも、誰かを救ってくれるわけでもないのだ。

そして、排卵日であることを食卓にハンバーグを並べることで暗に伝えようとするなど、志保だけでなく日本人の特徴でもあるだろうが、はっきりと自身の想いを言葉にして伝えるのではなく相手に"察する"ことを求める関係性がまた浩介を追い詰めているようにも思える。

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「馬鹿で愚かな自分を受け入れて欲しかった。夫婦交換をしてあなたへの欲情を取り戻す。ちょっと歪んではいるもののあなたを本当に愛しているからこそできること」と洋一郎が浩介の気持ちを代弁した一節には、"受け入れられる、受け入れ難い"という次元を超えて、彼自身のどうしようもない切羽詰まった気持ちや焦り、切実な思いが滲んでいた。

"セックスレス"の問題で、特に男性側が機能しない場合、自分の自信を揺るがされる事態であることから、現実を直視せずに気づかない振りや見て見ぬ振りをしてしまい、そのプライドを守るためにカウンセリングなどに行けない男性が少なくないと聞く。そう思うと、浩介は自身の問題に真正面から向き合い、その打開策の是非はさておき、解決に向き合おうとしているその姿勢に志保がもう少し理解や感謝を示せると良いのかもしれない。(言うは易しで、実際には様々な感情や嫌悪感のようなものが湧いてくることだってあるのだろうが...)

"セックス"とは祥子の言葉を借りれば「我を忘れる行動」であり、日常生活で纏っている社会的な役割や肩書なども一緒に一枚ずつ脱ぎ捨てて、生まれたままの姿で互いを求め合う、極めて動物的な行為とも言える。その決して綺麗でも映えることもない野性的な姿を心置きなく曝け出し合うには、やはり「そもそも人って馬鹿で愚かなもの」だけれど"それでもあなたが好き"という信頼関係がなければ成立し得ないように思える。

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夫のことよりもある意味世間体を気にしたり、自身の常識内でしか物事を捉えようとしない頑なな志保を"理性"の先に行かせるために、浩介と窪塚夫婦は小芝居を打つ。マジックミラーの向こう側は実際には浩介にも見えていたのだ。自分に何かしらの原因があって、妻のことも自身の事情に巻き込んでしまっていることにきっと彼は彼で思い悩み罪悪感を抱えているのだろう。彼を救ってくれたのは祥子だと言うが、"いつ何時だって一番の理解者は家族/夫婦"というのもまたどこかで刷り込まれた一つの"正しい"かに見える思い込みに過ぎず、決してこれもいつ何時も誰にとっても"正解"ということはないのだ。

大切に想っているからこそ、傷つけたくないからこそ、そして嫌われたくないからこそ自分の本当の姿を曝け出せない、真実を伝えられないなんてことはザラにあるだろう。

次週、浩介側が胸にしまっている秘密が明かされるようで、今度は"浩介サイド(視点)"からのストーリーが展開されそうだ。そうするときっとまた物語は全く異なる様相を呈するに違いない。

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文:佳香(かこ)

【第3話(10月19日[水]放送)あらすじ】

仁科志保(佐津川愛美)と結婚し、娘にも恵まれ幸せな結婚生活を送っていた仁科浩介(千賀健永)は、志保とのセックスレスに悩んでいた。
ある日、仕事の営業先であるメンタルクリニックの臨床心理士・窪塚祥子(板谷由夏)に相談すると、「奥様が他の男と寝ればいい」と言われ、夫・洋一郎(平岡祐太)と主催している「夫婦間交際クラブ」を紹介される・・・。しかし、志保も一緒に入会してもらう必要があり、浩介はある作戦を決行することに!?

◆放送情報
ドラマ Paravi『夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~』
毎週水曜深夜0:30よりテレビ東京系で放送
※来週は0:40より放送となります。
動画配信サービス「Paravi」で21:00より毎話独占先行配信

(C)「夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~」製作委員会