ふとした瞬間、強気な眼差しの奥に隠された"脆さ"が顔をのぞかせる。『階段下のゴッホ』(TBS系)第3話も、"ダビデ"こと真太郎(神尾楓珠)の掴めない魅力に、惹きつけられてしまった。
ミステリアスな真太郎に、惹きつけられる・・・!
都(SUMIRE)が通う美術予備校で、課外授業が行われた第3話。場所は、西東京の科学館というなんとも微妙な選択。ほかのみんなはテンションが下がっているのに、真太郎だけはなぜか前のめり。柄にもなく、場を仕切ってみたりする。
一体、彼は何を考えているのだろう。いつまで経っても、見えない真太郎の本性。
大抵のドラマは、第3話あたりになると、ミステリアスな人物の"過去"が明かされてくるものだが、本作はいつまで経っても見せてくれない。だからこそ、リアリティを感じるのだろうか。
人間の本性なんてものは、そう簡単には分からない。とくに、真太郎のようにガードを張っているタイプの人なら、なおのこと。自分の過去を、ベラベラと話したりはしないだろう。
だから、私たちは相手を知る努力をしなければならないのだ。行動や表情から思いを読み取り、理解しようと努める。真太郎のことを、一生懸命に"分かろう"とする都のように。
ガードが固い真太郎も、都になら心を開けるような気がしてきた!
筆者は、真太郎は都になら心を開けるのではないか? と思っている。
その理由は、彼が抱える"闇"に土足で踏み込もうとしないから。一緒に入ったプラネタリウムで、急に横で涙を流されたら、誰だって「なんで、泣いてたの?」と聞いてしまうはず。
でも、都は深掘りしない。泣いていたことには触れずに、「星すごかったよね」と声をかける。おそらく彼女も、聞きたい気持ちをグッと堪えたのではないだろうか。
真太郎が、西東京の科学館にある"プラネタリウム"に特別な感情を抱いているのは、間違いない。「子どもの頃、家族でよく来た」と言っていたし、「ここさ、いつもおじさんが読み上げてくれるんだ」と目を輝かせていた。
それに、都に「(プラネタリウム鑑賞が)クセになった。気に入った」と言われた時は、これまで見たことがないほど頬を緩ませていたし。制服を着た真太郎が、うれしそうにプラネタリウムの星を眺める回想シーンがあったということは、ある程度大きくなってからも通い詰めていたのだろう。
しかし、"あの頃"のプラネタリウムはもう存在しない。プラネタリウムの説明を読み上げるのは、おじさんではなく若い女性に。来年には、全面リニューアルすることも決定している。「変えないと、守れないものもあると思う」という都の言い分も分かるが、大切な場所を失ってしまったようで、寂しくなった真太郎の気持ちも理解できる。
正反対な2人がタッグを組めば、最強になるんじゃない?
おそらく、都と真太郎は根本的に考え方がちがう。
"他人"に軸を置いている都は、貧しいまま認められず、37歳で生涯を終えたゴッホのことを「絶望的」だと思っている。だから、「君の好きな場所のことも、もっと色んな人に知ってもらえるかもしれないよ」という励まし方をしたのだろう。
でも、真太郎はそんなことは求めていない。"自分"に軸がある彼は、他人の評価など気にしない。自分が分かっていれば、それでいいと思っている。だから、「そんなの、望んでねぇよ」と突っぱねてしまうのだ。
正反対な2人だからこそ、お互いの価値観を認め合えれば最高なタッグになるのではないだろうか。圧倒的な画力を持つ真太郎が、東京藝大に落ち続けているのは、"自分"だけが分かればいいというスタンスが、相手に伝わってしまっているという可能性も考えられる。
都と出会ったことで、彼の才能を開花してくれる道がひらければいい。そして、つい人の目を気にしてしまう都も、真太郎のようなラフな生き方ができますように。
(文・菜本かな/イラスト・まつもとりえこ)
【第4話(10月11日[火]放送)あらすじ】
授業終わりの美術予備校。都 (SUMIRE) は突然、真太郎 (神尾楓珠) から「明日空いてる?」と声をかけられる。しぶしぶ約束の場所に行くと、そこには見知らぬ女性・橘小夜子 (杏花) の姿が。「紹介します、この人元カノ、この人今カノ」と真太郎。驚愕する都とショックで固まる小夜子をよそに、真太郎はマイペースに飲み食い。都が怒って真太郎を問いただしてみるものの、「今カノのフリをしてくれるだけで良いから」と適当にあしらわれ、ついには真太郎は会計も払わずにとんずらしてしまう。小夜子と二人残されてしまった都は気まずいあまり、タイミングよく連絡をくれた先輩の洋二 (朝井大智) に助けを求めるが・・・。
◆放送情報
『階段下のゴッホ』
毎週火曜深夜24:58よりTBSほかで放送。
動画配信サービス「Paravi」では、毎週1週間先行配信中。
- 1