Gino0808による同名漫画を原作に据え、ジャニーズWEST・重岡大毅が主演を務める『雪女と蟹を食う』(テレビ東京系)の最終話となる第12話が9月23日に放送された。
死ぬまでに蟹を食べると決め、強盗に押し入ったセレブ妻・彩女(入山法子)と共に北海道への旅をしてきた北(重岡)。彩女を救いたいという北の思いもむなしく、彩女は自ら海で入水する。北はなんとか彩女を引き上げるが、彩女の意識は戻らぬまま。しかし、彩女を病院に運んだ後、北にはやるべきことがあった。彩女の夫で小説家の雪枝一騎(勝村政信)に、彩女に託された日記を渡すことだ。
彩女の日記を読んでみる北。「雪女と蟹を食う」と題した日記により、北は彩女の意外な思いを知る。夫を日本一の小説家にするため、その題材を提供するために北との奇妙な旅をした彩女。しかし、部外者に思えた北のことを彩女は見ていた。旅を通して、北の瞳に光が宿り、生気に満ちてきたこと。北の変化に気づいた彩女は、北に生きてほしいと思い、1人で死ぬ覚悟を決めていたが、本心を知られると北は一緒にいてくれないだろうからと、本心を隠して「雪女」を必死に演じてきたのだった。北はずっと求めてきた彩女の心にようやく触れ、子どものように泣きじゃくる。
ホテルにやって来た一騎を浜辺に誘導すると、海を指差し、一騎のせいで彩女が海に入って亡くなったと告げる北。しかし一騎は、彩女の遺体は病院か警察か、荷物はホテルにあるかなどと冷静に尋ねる。北は怒りのあまり、彩女が一騎のために日記をつけていたこと、一騎の小説のために命をかけたことを打ち明ける。だが一騎は、自身の代表作「蝉時雨」のラストのように、自分が彩女に殺されるのだと思いこんでいたと語る。
彩女は入水の前日、一騎に電話し、日記を使って今度は大衆文学でなく純文学を書くよう伝えていたのだ。しかし、彩女の日記を使えば本物の純文学が書けると言う一騎に、彩女の死を知っても涙も流さない人間に日記は渡さないと北は突っぱねる。土下座し、何でもするから日記を・・・と懇願する一騎に、北が出した条件は「彩女と離婚すること」だった。彩女を一騎の呪縛から解き放ちたいというのが、北の願いだ。しかし、その条件を聞き、彩女が生きていると知って初めて涙を流す一騎。北は、一騎の目の前に包丁を突き立てる。それは、彩女が一騎に結婚生活で唯一プレゼントされた大切な思い出の品だった。
一騎の才能を信じ、日本一の小説家にすると盲信し続けた彩女と、そんな彩女の過剰な期待が重荷になっていった一騎。どちらも愛ゆえの呪縛が切ない。
日記を一騎に渡した北は、彩女の病院へ。そして、旅の途中の土産物屋で彩女が見ていた、渡せないままのガラスの指輪を彩女の指にそっとはめる。涙を流しながら彩女の手を握る北。すると、奇跡的に彩女の意識が戻る。
一方、彩女の日記を読んだ編集者・巡(淵上泰史)は、それをもとに小説を書けば「蝉時雨」を超える最高傑作になると讃えるが、一騎は日記を火の中に放り込む。自分で最高傑作となる新作を書かなければいけないと、彩女の日記が教えてくれたと一騎は言う。命をかけて一騎のために日記を綴った彩女と、それを捨て、自身で小説家として新たな一歩を踏み出す覚悟を決めた一騎。2人をどこか共依存とさせていた愛の呪縛も、愛憎も、ここでようやく終わりを告げる。
死の淵から生還した彩女は、一騎から届いた離婚届に判を押して提出。そして、意識がなかったとき、北の夢をずっと見ていたと語る。北の中に満ちていった生気は、彩女を孤独に追いやったように見え、知らず知らずのうちに彩女の傷を癒し、彩女の中にも命を吹き込んでいたようだ。
そして、北は彩女を「旅の締めくくり」に連れ出す。そこは、一面の花畑。毎年違う色彩の花が咲くから、一緒生きて、毎年見に来ようと北は言う。
「夏の花が好きひとは、夏に死ぬ」という太宰治の言葉に引き寄せられ、死に魅入られていた彩女を救った北。入山法子の「雪女」からの穏やかな表情への変化が良い。そして、人生に絶望した顔から徐々に生気を取り戻し、彩女にも注ぎ込んだ北を演じる重岡大毅のエネルギーの濃淡も見事だった。
(文:田幸和歌子)
◆番組情報
ドラマ24『雪女と蟹を食う』
動画配信サービス「Paravi」にて全話配信中
(C)「雪女と蟹を食う」製作委員会
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