「自分を見失うな!自分を取り戻せー!」
日曜劇場『オールドルーキー』(TBS系)最終話は、新町(綾野剛)だからこそ出来る"スポーツマネジメント"が最高の形で結実し、「ビクトリー」社長の高柳(反町隆史)も認める"ハッピーエンド"で幕を閉じた。
高柳に解雇を言い渡され「ビクトリー」を去ることになった新町。元々彼に海外チームへの移籍交渉を依頼していたJリーガー・伊垣(神尾楓珠)、そして塔子(芳根京子)と城(中川大志)も「ビクトリー」から離れ、新町の元に合流する。
そんな中、彼らに千載一遇のチャンスが巡ってくる。伊垣が出場する日本代表戦に海外チームの選手獲得権を持つキーパーソンが観戦に来るというのだ。そこで、新町がコートに立ち緊張で思うようにプレーができない伊垣に向かって叫んだのが冒頭の言葉だ。この言葉は「ビクトリー」のみならず"スポーツマネジメント"の仕事自体からも離れようとしている新町自身にも、そして最終的には創業当初の情熱を失ってしまっていた高柳に対しても正に今響くものだっただろう。
そして、この新町のエールが冷静さを欠いていた伊垣にダイレクトに響いたのは、プロサッカー選手引退後その言葉通りをこれまで七転八倒しながらも体現し続けてきた彼の口から発されたものだったからに他ならない。「代表選は自分をアピールするための試合じゃない」―「フォア・ザ・チーム」こそが結果自分をアピールすることになる、この言葉にこれほどの説得力を宿らせることができるのは、現役時代、そして引退後セカンドキャリアで裏方に回ってからの新町が変わらず貫いてきたスタンスだからこそだ。
最終的にプレイをするのはコートの中の伊垣本人で、その役割を誰も代わることもできず、プレイ中に手を差し伸べることもできない。重圧やプレッシャーと戦うのは物理的には伊垣1人に違いないが、ただそんな孤独の中にあっても"自分は一人じゃないんだ"と思わせてくれる存在が近くにいてくれる、ゴールを決めた時に自分のことのように全力で喜んでくれる人がいる、それがどれほど心強いことか。平然と「伊垣尚人クラスの選手は世界にゴロゴロいる」と言ってしまうような交渉代理人との間では到底結び得ない関係値だ。
これまでも毎話アスリートの個別の悩みや要望に寄り添い、見事折衷案を実現してきた新町。コーチや親との関係を見直したり、コンディションを整えるために出場する大会を見送ったり・・・もちろん全てがアスリートの当初からの願い通りではないこともあった。なんだかんだ言ってもタイミングや運の要素も確実に存在する世界だ。しかし、"アスリートファースト"で向き合い続けてくれ、最後の最後まで自分が今切れるカードの中で最善策を考え抜いてくれる("考える"のではなく"考え抜いてくれる")新町の伴走があってこそ、アスリートも納得感を持って新たな1歩を踏み出せたのだろう。
ここでふと疑問に思えるのが、高柳は本当に最初から新町のことを"サッカー以外に取り柄のないオールドルーキー"として「ワンポイントリリーフ」のためだけにこの業界に招き入れたのだろうか。高柳もどこかで本来持ち合わせていた仕事への熱量をどんどん失っている自分自身に潜在的に危機感を抱き、そんな自分に歯止めをかけてくれそうな気配を新町から感じ取っていたのではないだろうか。だからこそ、オフィスで人目を憚らず自分に土下座をする新町を見捨てず「こんなことをしていてはいけない」と彼に"セカンドキャリア"を提示したのではないだろうか。
新町が持つ「夢の力」が伝播し高柳のことも原点回帰させた見事なラスト。毎週疾走感たっぷりの日曜夜を飾ってくれた本作。人はいくつになっても情熱を取り戻せるし、たとえ表舞台から引きずり下ろされたように見えても、不本意な形で幕引きを迫られたって、その夢への携わり方はいくらでもあって、途絶えてしまったかに見える夢への道は形は違えど終わらない――そんなことを教えてくれた、
(文:佳香(かこ)/イラスト・まつもとりえこ)
◆放送情報
日曜劇場『オールドルーキー』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。
- 1