「法」の対義語はなんだろう。国語的に正解かどうかはわからないけど、「情」なんじゃないかな。『石子と羽男』第6話は、そんな「法」と「情」の対比によって社会の今を照らした回だった。

綺麗事だけじゃ生きていけない高梨が、綺麗事を選んだ理由

「法律としてはそうでも、綺麗事だけじゃ生きていけませんから」

おいそれと育休をとるわけにはいかない現状について、依頼人の高梨拓真(ウエンツ瑛士)はそう言った。これが今の社会の限界だろう。近年、育児に関心のある男性は増えている。育休を取得したいと希望する声もよく聞く。

けれど、男性の育休取得率は12.65%(「令和2年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)より)。前年より5.17ポイントも伸びたことは、男性側の意識の変化を如実に反映していると見ていい。でも、まだまだ理想には追いつけていない。この理想と現実を隔てる壁は、「法」ではなかなか打ち壊せない。高梨の言う通り綺麗事だけじゃ生きていけないのだ。

だが、そんな高梨自身は、脅迫文じみた怪文書の差出人が判明しても、犯人を決して咎めなかった。ましてや慰謝料を請求することさえ選ばなかった。綺麗事だけじゃ生きていけないとわかっている高梨がなぜ綺麗事を選んだのか。ここに、第6話のポイントがある。

「途方に暮れていた妻に熊切さんが『大丈夫? 荷物持つよ』って声をかけてくれたって」

その言葉に妻がどれだけ救われたかを知っていたから、高梨は犯人が熊切恵(向里祐香)であると知っても責める気持ちにはなれなかった。高梨が優先したのは「法」ではなく、人の「情」だった。

思えば、熊切もどれだけ羽男(中村倫也)から脅迫罪の刑罰をまくし立てられても決して自分の罪を認めなかった。頑なだった口を割ったのは、ままならない保活によってどれだけ追いつめられているか、熊切の心に石子(有村架純)が寄り添ってあげたからだ。ここでもやはり「法」ではなく「情」。『石子と羽男』は常に「法」をうまく活用する重要性を描く一方、これまでもどこかで「法」の無力さをほのめかしてきた。

それが、この育休問題で最も顕著になったかたちだ。今年の秋から育児休業制度が改正され、「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設される。だが、どれだけ「法」の整備が進んでも、それを運用する人の「情」の部分が変わらない限り、張り子の虎だ。

キーワードは「大丈夫? 荷物持つよ」。しんどい想いをしている人がいたら、まずは「大丈夫?」と声をかけてあげられること。そして「荷物持つよ」と負担をシェアし合えること。そうでなければ、結局、育休を取得した側は罪悪感に怯え、子を持たない側はこちらばかりが尻拭いをさせられていると不公平感に憤る。

進みゆく「法」に、人の「情」はどれだけ追いつけるだろうか、と考えさせられるような回だった。

「法」というハードと、「情」というソフト

余談だけれど、今回、個人的に良いなと思ったのは、高梨の描き方だ。これまで育休をめぐる問題をドラマで取り扱うとき、どちらかと言うと父親側の「無関心」「無理解」がフィーチャーされることが多かった。「俺だって育児を手伝っている」という言葉の裏側にある、自分は育児の当事者ではないのだという男性の怠慢をついて、溜飲を下げるようなドラマが多かったように感じる。

けれど、高梨についてはそういう描き方はしなかった。あくまで妻・文香(西原亜希)に寄り添いながら、でもまだまだ自分には見えていなかったものがある、という描写に落ち着いていた。これはまたひとつ男性の育休の描き方が進んだ証だと思う。育休問題を、男女どちらかのせいにしても対立構造を生むだけで解決にはならない。このあたりの時代の流れを汲むセンスに、脚本の西田征史やプロデューサーの新井順子の嗅覚の鋭さを感じた。

一方、こうした「情」というソフトにクローズアップしながら、問題の本質は人ではなく、制度や環境というハード側にあるのだとしたところも面白かった。文香の体調不調は育児ノイローゼではなく、シックハウス症候群に起因するものであり、その原因は入居している部屋で厚労省の基準値を超えるホルムアルデヒドが発生していたため、という着地点は実に鮮やかだった。

そして、その元凶である不動産会社の社長・六車(佐藤仁美)に対しては徹底的に「法」で攻撃したのも爽快だ。「法」というハードと、「情」というソフト。両面に言及しつつ、だけど決して説教臭くはならない、『石子と羽男』らしいポップでライトな回だった。

中村倫也が「可愛い」と「面白い」の大渋滞

それにしても今回の中村倫也はめちゃくちゃ魅力的だった。ついつい人にいいところを見せたい羽男の人間臭さと、誰に対しても優しい羽男の思慮深さが交互に顔を出し、まったく恋愛的な描かれ方はしていないのに、こんな人が身近にいたら好きになってしまうようなあ・・・と思わせる人物像に仕上げている。ひとつひとつ細かく拾っていくと、一大長編小説になるので、ざっくりと挙げるだけで、

・のっけから『DEATH NOTE』のLのパロディをする羽男
・TwitterのDMから依頼が来たことにご満悦の羽男
・怪文書に対して過剰に怖がる、たぶんホラー映画とか1人で見られない羽男
・石子に「うるさいです」と言われて声を出さずに笑う羽男
・六車の圧に口をへの字に結ぶ羽男
・顧問弁護士の座を狙い高笑いの羽男
・つけてもいない腕時計を見るふりをする羽男
・大庭(赤楚衛二)とひたすら鼻をさするジェスチャーをし、大はしゃぎの羽男
・羽根岡任三郎になる羽男

と、もう「可愛い」と「面白い」の大渋滞。ずっと見ていても飽きないチャーミングなキャラクターになっている。これはもう中村倫也の抜け感のある演技の賜物だろう。

それでいて、石子が余計なことを気にせず、大庭との関係を前向きに考えられるよう、仕事で成果を出そうとするところが最高すぎて。「大丈夫? 荷物持つよ」というキーワードがここで回収されてくるという周到なシナリオに目が覚める思いだった。今まで自分の恋のために仕事を頑張るキャラクターは掃いて捨てるほど見てきたけど、人の恋のために仕事を頑張ろうとするキャラクターはそう見たことがない。尊すぎてテレビの前でのけぞりました。完全に中村倫也無双である。

終盤に向けてのキーパーソンは、石子?

一方、注目だった大庭の片想いは見事に成就。告白のシーンはスカイツリー、返事のシーンは東京タワーをバックにするという演出も遊び心が効いている。これでおそらく最終回に向けての最後の山は、やはり大庭が入社したナカマルという会社と、社長の御子神(田中哲司)になることはほぼ間違いないだろう。

普通に考えたら、パワハラや長時間労働といった労働問題が題材になりそうだけど、そうすると1話でやったことの繰り返しになるので、どういう切り口を選んでくるかは楽しみなところ。

また、羽男の家庭環境は描かれた一方で、石子のバックボーンが6話まで来たにもかかわらずほとんど不透明なことも気になる。亡くなった母親とのエピソードもぼんやりしているし、綿郎(さだまさし)との関係が円滑に見えてどこか他人行儀なところも特に進展は見られない。そもそも東大を首席で卒業するほど優秀でありながら、なぜ司法試験に4回も落ちているのかも謎。本番に弱いようにも見えないのだけど、彼女の勝負弱さは何が原因なのだろうか。

今回も、羽男が六車に向かって弁舌を振るう傍らで、石子も口だけでこっそり同じ文言を唱えていた。やっぱり石子は弁護士になりたいのだろうか。だとすると、このドラマのラストは彼女が5度目の司法試験に挑むところでフィニッシュとなるのか。あるいは、羽男の相棒としてパラリーガルの道を突き進むのか。

いずれにせよ終盤に向けての鍵は、石子が握っている気がする。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第7話(8月26日[金]放送)あらすじ】

石子(有村架純)と羽男(中村倫也)は、停車中のキッチンカーを破損させた人物を捜してほしいという依頼を受け、丸来町の繁華街にやって来た。ここは居場所を求める少年少女が集まる場所。聞き込みをしてもまともに話を聞かない少年たち。石子と羽男は川瀬ひな(片岡凜)と東美冬(小林星蘭)にも話を聞こうとするが無視されてしまう。

ドライブレコーダーの映像をもとに聞き込みをした結果、車を破損したのは少年少女たちのカリスマ的存在で「K」と呼ばれている人物だとわかる。

そんな中、羽男に「助けて!」とひなから電話があり・・・。
少女たちに隠された秘密とは?

◆放送情報
『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』
毎週金曜深22:00から、TBSにて放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
また、Paraviでは出演者のセリフだけでは表現しきれない「ト書き」や情景描写などをナレーションで説明した解説放送版、Paraviオリジナルストーリー「塩介と甘実―蕎麦ができるまで探偵―」も配信中