海斗(坂東龍汰)の裏切りによって窮地に立たされたドリームポニー。『ユニコーンに乗って』第7話は、そんな嵐の前に穏やかな小島で船を休めるような回だった。
「好きだったな・・・」というつぶやきが物語る佐奈の本音
早智(広末涼子)の提案によって1泊2日のリフレッシュ合宿に出かけることになった佐奈(永野芽郁)たち。ある意味、今回は後半戦に向けた小休止といった回で、物語として大きな前進はなし。合宿先で出会った中学生たちから感じた"デジタル・ディバイド(情報格差)"がスタディーポニーキャンパスの開発にどんな影響をもたらすのかが、今後に向けたフラグのひとつ。あとは、自然豊かな環境で佐奈たちが大人の青春を楽しむ姿に、僕たちがデトックスされるような回だった。
小鳥(西島秀俊)と功(杉野遥亮)が並んで野菜を切ったり火を熾したりする場面は微笑ましかったし(どう見てもうまく切れていない功に「いい感じです。そのペースで大丈夫です」と声をかける小鳥さんはやっぱり優しい)。なんだかんだ佐奈と功のことを気にしている次郎(前原滉)はとてもいいやつだ(全然関係ないけど、次郎を演じているときの前原滉は「純猥談」の佐伯ポインティにめちゃくちゃ似ている)。
特に大きな見どころとなったのは、やっぱり佐奈と小鳥の2人きりの花火。佐奈は功に対して恋愛感情は持っているものの、いろんなしがらみのせいで進展することのない関係にもどかしさとあきらめを感じている様子。ポツリとつぶやいた「好きだったな・・・」という言葉が過去形であることに、佐奈の本音が表れている。
そんな佐奈の心にすっと寄り添ってくれるのが小鳥。小鳥に感じる安心感と居心地の良さは父性的なものなのかと思っていたけど、線香花火をしながら目が合ったときの佐奈の目は、恋に近いものだった。このまま花火のように恋心に火がつくのか。それとも同志としてのシンパシーで終わるのか。このあたりもそろそろはっきりとした進展が見たいところ。
ただ、やはり小鳥サイドにまったく恋愛感情が見られないのが気になる。次回は、小鳥の父親も登場するみたいだし、いよいよ謎に包まれた小鳥のプライベートが明らかになりそう。基本的には、なんだかんだで佐奈は功と結ばれると思っているのだけど、『私の家政夫ナギサさん』でもナギサ(大森南朋)を男性として見ているようには思えなかったメイ(多部未華子)が最終的にナギサを選んだ前歴があるので、やはり予断は許されないのである。
令和の時代に不要な「男らしさ」と必要な「男らしさ」
そんな中で、今回改めて語ってみたいのが、この『ユニコーンに乗って』で描かれる男性像について。もともと功に関してはアルコールが受けつけないという特徴がわりと頻繁に描かれていた。そして今回、小鳥が運転が得意ではないという事実も明らかに。これは功に冨士浅間神社に行かせるための設定だったのかもしれないけど、この2つの特徴からも『ユニコーンに乗って』で描かれる男性像の共通点が浮かんでくる。
それは、従来の「男らしさ」を安易にカッコいいものとして描かない、ということだ。一昔前までは、「男はお酒を飲めなくちゃ」というプレッシャーが強かった。また、「車を運転できない男はダサい」というのも、女性サイドからの定番の声だった。こうした旧態依然とした「男らしさ」をなるべく取り除きながら、今、私たちはどんな男性にときめくかを『ユニコーンに乗って』ではトライしているように感じられる。
というのも、同じ松本友香&岩崎愛奈タッグでつくられた『わたナギ』でも、お母さんになりたかったと言うナギサさんはもちろんのこと、いわゆる当て馬ポジションの田所(瀬戸康史)さえ有能なMRでありながら、家にお風呂に浮かべるアヒルが転がっているという萌え設定が盛り込まれていた。頼れるところはありつつ、あたりが柔らかいのが、松本&岩崎が描く男性像の特徴だ。
それは、この『ユニコーンに乗って』でも継承されている。佐奈のピンチに駆けつけてくれたり、急停止した車の中で佐奈を庇ってくれたり、男性的なたくましさは残しつつ、小鳥の描き方は徹底してソフト。上司と部下という関係性を差し引いても、佐奈に対して常に敬語だし、尊敬の姿勢を崩さない。
また、功に関しても、警備員に追われているところを助けてくれたり、ジャケットを貸してくれたり、キュンとする男らしさは散りばめつつ、恋愛面で性急な態度に出ることはなく、決して無理強いしない。
ステータス的な「男らしさ」は撤廃した上で、腕力・体力的に弱い存在を守り、支える「男らしさ」は良いものとして描く。それが、松本&岩崎の思う令和の理想の男性像なのだろう。
だが一方で、今ひとつ恋愛面が進まないのは、こうした令和的な「男らしさ」が足かせになっている部分も。佐奈が功に抱くもどかしさも、この令和的な「男らしさ」に原因があると見られる。
とすると、この状況を突破する最善の方法は、ある種、強引でも自分の気持ちをぶつけるわかりやすい「男らしさ」なのかも。後先なんて考えず、相手の気持ちも顧みず、ただ自分の「好き」を貫く。そんな「男らしさ」を功が手にすることができたら、明らかに不利なこの形勢を逆転できるのでは。あるいは、そんな「男らしさ」を小鳥が発揮したら、もう完全に小鳥エンドで決まりである。
優しすぎるこの恋愛模様を動かすのは、はたして誰の「男らしさ」だろうか。
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
【第8話(8月23日[火]放送)あらすじ】
海斗(坂東龍汰)の裏切りをいまだに信じられないながらも、前に進むため新たなエンジニアの採用を決意した佐奈(永野芽郁)たち。ネット上で名を轟かす正体不明の天才エンジニア"ミン・ソヌ"をスカウトするため、無謀にも彼が出場するeスポーツ大会に参戦することに!
そんな中、小鳥(西島秀俊)が突然会社を早退。心配に思った佐奈は、須崎(杉野遥亮)の後押しを受けて、小鳥の自宅を訪問する。そこで佐奈は、今まで明かされなかった小鳥の私生活と秘密を知ることに・・・
一方、早智(広末涼子)は、特許の横取りはゲームアカデミアの永瀬(松尾貴史)の企みの序章ではと佐奈に忠告する。その言葉に、海斗の裏切りも永瀬が仕掛けた罠だったのではとハッとする佐奈たち。真実を知るべく動き出した佐奈は、海斗の隠された過去と真相に近づいていき───
◆放送情報
『ユニコーンに乗って』
毎週火曜22:00からTBSで放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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