「ビクトリー」創業以来初のパラアスリートのマネジメントが題材となった日曜劇場『オールドルーキー』(TBS系)第7話。車いすテニス選手の吉木修二(福山翔大)を通して、パラスポーツやパラアスリートが抱える問題が浮き彫りになった。
何か切羽詰まったように練習に直向きに打ち込むも、その裏には常に焦燥感が滲み、自分やライバル以外のもっと大きな何かと闘っているかのような吉木。彼が目に涙をいっぱいに溜めながら漏らす言葉がその正体を物語っていた。
「健常者のアスリートなら競技生活を終えても次の選択肢は沢山あるだろうけど、僕達は比べ物にならないくらい限られるんです。パラスポーツを知らない人達にも知ってもらえるぐらい強くならなきゃ僕のセカンドキャリアはないんです」
障がいの有無にかかわらず多くのアスリートにとって、引退後のセカンドキャリアが険しい道であることは新町(綾野剛)自身が身を持って証明済みだ。それよりも尚選択肢が狭まるのだと、本人が認めたくはないけれど認めざるを得ない現実を言葉にして発する時、吉木がこれまで闘ってきた相手が何だったのか、少しだけわかった気がした。
障がい者雇用を"ボランティア"だと平然と言ってのける無知でデリカシーのない上司、悪気のない"可哀想"だという世間の目は知らず知らずのうちに彼を常に"施される側"へと押しやり、その中では双方向ではなく一方通行のコミュニケーションが生まれやすいだろう。純粋にスポーツとして、アスリートとして応援してもらうというよりも、その前に"社会的意義"や"会社のイメージアップ"のような大義名分が先行し、誰かの作為的な感情や目的と隣り合わせとなれば、ある意味道具として利用されている感覚だって否めないかもしれない。
そんなどこか"特別視"する眼差しにずっと晒されていたら、必要以上に肩身が狭く感じられ「僕はもう十分にお世話になってるので」というような心持ちになってしまうのも無理はない。梅屋敷(増田貴久)の姪・桜(池端杏慈)がこぼした「どうせ私は邪魔になるだけだから」という言葉とリンクする。そんな無言の圧や"善意の顔をした"哀れみや無関心に飲み込まれぬように、何とかそれらを黙らせ封じ込めるためには、邪魔と一蹴されないように居場所を確保するには"勝ち続けて切り捨てられない"ようにする他ないと強迫観念のようなものにも苛まれるのだろう。
ここで、思い出すべきは社長の高柳(反町隆史)の「吉木くんがパラアスリートだという概念は捨てろ。本当の意味で彼をリスペクトしろ」という一言に尽きるだろう。
これを地でやっているのが吉木と長い付き合いの競技用車いす整備士・矢部(津田健次郎)だ。彼らの遠慮のないやり取りや信頼関係が頼もしい。矢部はテニス選手としての吉木に惚れており、一番の応援団であり、二人三脚で歩めるサポーターだ。吉木役を演じた福山翔大の競技姿は本当に"車いすが体の一部になっている"と感じさせるもので、時折襲われる無力感や肩身の狭さと、だからこそそれに負けじと競技に没頭する迷いのなさの絶妙なバランスを見せてくれた。
また、そんな彼に変なお情けも建前も配慮も一切なしに伴走するぶっきらぼうに見えて実際にはとんでもなく熱いものを胸に宿す津田健次郎演じる矢部の言葉少なな掛け合いには目頭を熱くさせられた。
なんだかこれまでとは全く違う梅屋敷の一面も見られ、ますます真のスポーツマネジメントに迫っているチーム「ビクトリー」。そんな彼らに次週何やら不穏な空気が漂うようだが、こんな時こそ新町は潤滑油になれるだろうか。
(文:佳香(かこ)/イラスト・まつもとりえこ)
【第8話(8月21日[日]放送)あらすじ】
塔子(芳根京子)が担当するバレーボール選手・古川舞(田辺桃子)に、イタリアの強豪・トリエステから誘いがかかった。
世界で活躍するまたとないチャンスだが、舞は移籍を断ると言う。
高柳(反町隆史)は何としても彼女を説得するように言うが、塔子は躊躇する。古川との付き合いから、彼女が断るのには何か大きな理由があるはずだと考えていたからだ。しかし、高柳はかほり(岡崎紗絵)を担当につけて、説得に乗り出す。
そして、塔子とかほりは新町(綾野剛)と共に練習場へ。舞はチームの練習後もアシスタントコーチの宮野紘也(大谷亮平)から個人練習を受けるほど熱心な選手で、3人は彼女のチームへの愛着を実感する。
そんな中、高柳がとった強硬手段により、塔子と舞の間にある変化が生まれる・・・。
一方、レシピ本が人気の果奈子(榮倉奈々)に地方での講演依頼が舞い込み、新町は慣れない家事に奮闘していた・・・。
◆放送情報
日曜劇場『オールドルーキー』
毎週日曜21:00からTBS系で放送中。
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」で配信。
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