提出されたドライブレコーダーの映像に、法廷内が騒然となった。その中で、ただひとりだけ状況を飲み込めずに息をつめていた人がいた。被告人・堂前一奈(生見愛瑠)の姉・絵実(趣里)だ。事故で視力を失った絵実は映像を直接その目で認識することができない。そんな絵実のために、石子(有村架純)は手を握って伝える。

「一奈さん、まず駆け寄りました」

事故の瞬間を目撃した者はいない。誰もその目で見ることのなかった真実。それが、ドライブレコーダーという目に見えるかたちであらわになった。不信と疑惑は一転し、一奈の潔白は証明された。

人は己の目で見たものを信じる。逆に言えば、見ていないものを信じることはできない。だが、目の見えない姉は、たとえ見えなくても一心に信じていた、妹は決して人を見捨てて自分だけ逃げるような人間ではないと。

『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』第4話は、「見えるもの/見えないもの」が反復しながら隠されていた真実が溢れ出す回だった。

目に見えるものに惑わされる大衆と、見えないものを信じた姉

人を信じるというのは決して簡単なことではない。最初は一奈の主張を信じていた羽男(中村倫也)だったが、交通違反が絡んだ非行歴があったことを知るや、彼女の証言に疑いを持つようになった。面会室での態度も悪印象を招いたのかもしれない。私たちは目に見えるものだけで判断する、この人ならやりかねないと。

一方、石子は一奈を信じる気持ちを貫いた。羽男が止めるのも聞かず、周辺の聞き込みを繰り返し、目撃者を探した。その石子の石のような頑なさに、やがて羽男も触発される。事故当夜、被害者の新庄隆信(じろう)を見たという者が現れ、一奈と同じように隆信から甘酸っぱい匂いがしたと証言する。一奈は嘘をついていなかったのだ。

ふたりが辿り着いた真実に、判決の行方はあっさりひっくり返った。目に見えるものでしか人は動かせない。でも最初からずっと妹を信じていたのは、目の見えない姉だった。事実とは目に見えるもの。でも真実は見えないところにある。それを照らすのが、弁護士という仕事なのだと実感するエピソードだった。

姉の見えない愛に、羽男が気づく日は来るのか

一方、「見えるもの/見えないもの」というテーマは、羽男と優乃(MEGUMI)という姉弟の関係にも鮮やかにリンクする。

「まだあんな戦い方してるの? 臨機応変に対応できなきゃ終わり。わかってる?」
「人の人生背負う覚悟持ってやってる? そうじゃないんだったら、弁護士辞めた方がいい」

実の弟を姉はばっさりとぶった切る。その痛烈な言葉は、優秀な法曹一家で羽男だけが落ちこぼれという構図を浮かび上がらせる。そして、その劣等感に羽男が苦しんできたことも。

けれど、真実は見えないところにあった。裁判が終わったあと、石子は優乃に尋ねる。

「ひょっとして最初から違法カジノの存在を知っていたのでは」

優乃は、羽男に内情を暴かせるために、あえて挑発するようなことを言った。できそこないの弟を見下すように聞こえたあの発言は、姉からの愛ある叱咤激励だったのだ。その証拠に優乃は言った、「弟をよろしくね」と。そうやって頭を下げる姿は、弟想いの姉そのものだ。

そのことを羽男は知らない。愛は目に見えないものだからこそ、気づかなかったり見落としたりする。見えない愛に気づいたとき、羽男はまたひとつ成長できるのかもしれない。

羽男は傷を打ち明け、石子は絆創膏を貼る

回を重ねるごとに、石子と羽男の関係も、やわらかで微笑ましいものになっている。石子と羽男はお互いの欠けているところを補い合うコンビだ。石子には弁護士の資格はないが、弁護士としての志がある。一方、羽男には資格があるが志がやや弱い。ふたりでちょうど一人前。その関係性が心地いい。

今回絶妙だったのは、ふたりの不器用すぎる誘い方だ。姉に言われたことにショックを受けている羽男を励まそうと、石子は納豆と蔵人の話を持ち出して飲みに誘う。一方、家まで送ってくれた石子に対し、羽男はふるさと納税とドラフトビールの話をして飲みに誘う。ふたりとも、まったくもって素直じゃない。でも、そのちょっと面倒くさいところがよく似ているから、見ていてあたたかいものがこみ上げる。

しかもここで石子が安易に羽男の部屋に上がらないところがいい。終電も過ぎた真夜中に付き合ってもいない男性の部屋に入るのは石子の性格に合っていないし、そうやって安直に男女のラブストーリーに転がっていかないところに信頼が持てる。

むしろそのおかげで、あの美しい朝焼けの階段シーンが生まれた。橙と紫が溶け合った広い空は、僕たちが暮らすこの雑多な街にも、目にしていないだけで、毎朝こんな美しい瞬間が訪れているのかもしれないとワクワクさせられたし、きっとこの朝焼けのように、探せば世界には美しいものがまだまだたくさんあると思わされた。

それは、男女の描写も同じ。部屋に上がることで、もっと密着感のある画は撮れたかもしれない。でも、男女の描写ってそれだけじゃなくて。きっとあの朝焼けのように、探せば世界には尊い関係がまだまだたくさんあるはず。その一端を、あの朝焼けのシーンは見せてくれたんじゃないだろうか。

想定外のことに対応できない自らの弱点を羽男は石子に打ち明け、石子はそれを受け止める合図として、羽男の傷口に絆創膏を貼る。それだけで台詞では埋め切れないものが伝わってきた。そして、ふたりの心が通い合い、ひとつに重なったことを表すように、まだらだった空の色は一面金色に光り輝く。これまでも塚原あゆ子は画で登場人物の気持ちを語ってきたが、このシーンもまさに情景がキャラクターの心情にシンクロする見事な演出だった。

今後も安直なラブストーリーに陥らないとは思うものの、大衆のミーハー心をよく熟知している新井順子のことだ。視聴者のキャッキャしたいという欲望に応えることも忘れない。今のところその役を担っているのが、大庭蒼生役の赤楚衛二だ。

石子が羽男を飲みに誘っているのを見つめながら、だけど引き戸によって容赦なくシャットアウトされたり。帰る方向が逆であるばかりに、石子と羽男が乗ったタクシーをただ見送るしかできなかったり。ふっと残す視線の余韻がせつない破壊力を帯びている。

見る限り、石子にとって大庭は完全に恋愛対象外。かと言って、羽男に恋愛感情を寄せているようにも見えず(羽男はなんとなく石子を女性として意識している気がする)、この始まりそうで始まらない三角関係をどう持っていくかは気になるところ。

とりあえず今回は中村倫也の「すごい脇汗かいたよ」と、ほうきで剣道をする赤楚衛二にときめいたので、そちらの方面も十分に楽しませていただいています!

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第5話(8月12日[金]放送)あらすじ】

そば店の塩崎(おいでやす小田)が相談にやって来た。叔父の重野(中村梅雀)が、隣の家の木が自宅にまで伸びていて、毛虫が大量発生して困っていると言う。

石子(有村架純)と羽男(中村倫也)が重野家の隣人・万寿江(風吹ジュン)を訪ね、伸びた枝を切ることをお願いすると万寿江はすんなり了承。問題は解決したかに思えたが、後日、逆に万寿江から重野へピアノの騒音による慰謝料を要求する書類が届く。ご近所トラブルの裏に、いったい何が・・・?

そんな折、大庭(赤楚衛二)と行動を共にしていた石子が突然腹痛を訴え、病院に担ぎ込まれる。

◆放送情報
『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』
毎週金曜深22:00から、TBSにて放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
また、Paraviでは出演者のセリフだけでは表現しきれない「ト書き」や情景描写などをナレーションで説明した解説放送版、Paraviオリジナルストーリー「塩介と甘実―蕎麦ができるまで探偵―」も配信中。