「もし許されるなら・・・また映画に関わって生きていきたいです」

罪を犯した青年は、公判で最後にそう語った。けれど、いちばん許してほしい相手からその罪を許されることはなかった。『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』第3話は、罪を許されないという"罰"を描いた回だった。

豆苗は切っても伸びる。夢を摘まれた青年はこのあとどう生きるのか

"ファスト映画"は何がいけないのか。第3話は、そんな問いと共に始まった。

法律的に言えば著作権法違反。そのひと言で十分なのだけど、法では人の心は動かせない。自分は収益をあげていない。作品の宣伝になっている。被告人・山田遼平(井之脇海)はそう主張し、まるで罪悪感を持っていない。どうやって彼に自分の犯した罪の重さを理解させるか。それが、第3話の焦点だった。

映画にはたくさんのお金と、たくさんの人の時間と、そして愛が込められている。ファスト映画は、それらを踏みにじる行為だ。動画をあげた人だけが悪いんじゃない。ファスト映画だけを観て本編も観ずにその作品を理解したつもりでいる人も同罪だ。山田遼平は、敬愛する山田恭兵(でんでん)監督の最新作が、ファスト映画によって非難されていることで、自分がやってきたことがいかに愚かだったかを思い知る。

その上で公判で語ったのが、冒頭の「もし許されるなら・・・また映画に関わって生きていきたいです」という言葉だ。遼平自身、もともと大の映画好き。いつか自分で映画を撮ることが夢だった。「もし許されるなら」という前置きは、確かに心からの反省ではあっただろうけど、まるで道を誤った青年の再生劇を演じているような陶酔感を孕んでいた。

そんな独りよがりを、恭兵は容易く見破る。

「未熟で申し訳ない。どんなに謝罪をされても受け入れることはできません」

それは、はっきりとした拒絶だった。土下座をした遼平は、恭兵に肩を叩かれたとき、赦しの言葉をもらえることを期待したはずだ。無知で愚かな若者には、再生の道が用意されて然るべき。腹の底には、そんな繊細な図太さを隠し持っていた。

でも、恭兵はそれらをすべて拒否した。「許されるなら」という巧妙な逃げ道を、「許さない」と断じることで完全に塞いだ。人の夢を潰した人間は、自らの夢も摘まれる。どちらかと言えば、ヒューマンな手ざわりだった本作としては、とても残酷で、痛烈な結末だった。

ただ、救いも残した。そのシンボルとなったのは、潮家にある豆苗だ。豆苗は切っても、また生える。芽さえ摘まなければ。

「マックス3度ですが」

石子(有村架純)が言ったその言葉は、そのまま人にも言えるだろう。罪を犯した人も、本人にまっすぐ伸びていくという気持ちと、周りの大事に育てる愛情さえあれば、やり直せる。ただし、その回数は限られている。遼平は一度失敗した。執行猶予は得たが、敬愛する人物から許されないという"罰"を受け、デジタルタトゥーという傷も残った。もう大好きな映画の世界で生きていくことはできないかもしれない。でも、人生は続く。遼平はこれからどうやって生きていくんだろう。あまりにも無知すぎた青年のこれからに胸が潰れるようなストーリーだった。

作品と向き合うことは、その人たちが注いだ時間に敬意を払うこと

また、視聴者への警鐘も色濃く響く回だった。山田恭兵の作風は、余韻や行間を味わうものだ。じっくり腰を据え、誠実に作品と向き合わないと、その味わいには辿り着けない。けれど、今そうした作品は興行的に決して歓迎されない。ファスト映画に限らず、倍速視聴も今ではどんどん広がっている。なんなら台詞のないシーンは飛ばしていくという人もいるらしい。確かにそうやって観ても筋書きはわかるかもしれない。でも、それは本当に「観た」と言えるのか。山田恭兵のやるせない目が、視聴者に語りかける。

今回、ファスト映画や倍速視聴を選択する側の言い分は一切描かなかった。きっと彼らには彼らの正義や論理があるだろう。経済的に圧迫されていて、映画代を捻出できない人もいるかもしれない。仕事や家事、子育てや介護などに追われて、なかなかゆっくり作品を楽しめない人もいるかもしれない。ファスト映画や倍速視聴は、そうした人にとって、それでもエンタメにふれられる貴重な拠り所という見方もできる。

だが、そうした事情は取り扱わなかった。ここに、つくり手側の断固たる意志を見た。おのおのの事情はもちろんある。でもそれが免罪符にはならないのだと言いたかったからじゃないだろうか。

「最近、空見上げる余裕もなかったな」

ため息をつくように、羽男(中村倫也)は言った。きっとあれは皮肉だ。空を見上げる余裕さえなく足速に生きる僕たちへの。そんなにファストに生きなくてもいいじゃない? ファスト映画を生むのは、何もかもがファストに消費されてしまう時代の空気だ。

山田恭兵は、新作をつくるのに10年かかった。人がつくったものに向き合うということは、その人たちが作品に注いだ時間に敬意を払うということだ。だからどんなに事情があったとしてもファスト映画も(きっと倍速視聴も)良しとはしない。2022年を生きるクリエイターたちのひとつのメッセージがこの第3話には詰め込まれていた。

僕たちと遼平ははたしてどれくらい違うのだろうか

遼平が許されなかったことに対して、溜飲を下げる思いだった視聴者は多かった気がする。でもその一方で思うのだ、はたしてどれくらいの人が遼平を愚かだと笑えるのだろうと。

たとえば、Twitterのアイコン。そのアイコンは、誰かの著作権や肖像権を侵害していないだろうか。番組のスクショ画像を貼って、つぶやいたことはないだろうか。見逃したバラエティや歌番組の1コマを、誰かがあげた切り抜き動画で後追いチェックしたことはないだろうか。あなたが今日YouTubeで観た動画は、テレビ局のコンテンツを無断でアップロードしたものではないだろうか。

僕はそれらのすべてについて自分を"シロ"だとはとても言えない。正直に言って「助かった」と思ったこともある。もう何年も前の番組がYouTubeで簡単に観られるこの時代を便利だと喜んだことすらある。

それらのすべてが遼平とどう違うのか。宣伝になっているからいい。別に誰かが損をしたわけじゃないからいい。そう言って罪悪感に蓋をした顔は、接見室で開き直った遼平の顔とどれだけ違うのか。

「著作権法違反」は僕たちの生活にあまりにも深く密接に絡みついている。グレーゾーンという小部屋の中でにんまりと笑む僕たちに向かって、今まさに警察官が扉をノックしようとしているのかもしれない。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第4話(8月5日[金]放送)あらすじ】

潮法律事務所に堂前絵実(趣里)から弁護の依頼が舞い込む。妹の一奈(生見愛瑠)が運転する電動キックボードにぶつかって転んだ新庄隆信(じろう)が、帰宅後に容体が急変。警察がひき逃げ事件として捜査し、一奈が逮捕されてしまったのだという。

一奈から「すぐに男性に駆け寄った」と聞いた石子(有村架純)と羽男(中村倫也)は示談の可能性を探るが、新庄の妻はひき逃げを主張。裁判に持ち込まれ、羽男は姉で検事の優乃(MEGUMI)と争うことに。

さらに、事故当日の目撃者探しをしていた石子と羽男は、真相を探ろうと思わぬ行動に・・・!

◆放送情報
『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』
毎週金曜深22:00から、TBSにて放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
また、Paraviでは出演者のセリフだけでは表現しきれない「ト書き」や情景描写などをナレーションで説明した解説放送版、Paraviオリジナルストーリー「塩介と甘実―蕎麦ができるまで探偵―」も配信中。

(C)TBS