「毒親」「親ガチャ」。いつからか親子問題はそんなキャッチーな言葉で回収されるようになってしまった。でも親子ってそんな単純ではない。はたから見たら毒に見えるものが当人にとっては薬だということもあるし、ガチャに例えられるほど人間は機械的ではない。

『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』第2話は、まるで騙し絵のように反転する母子像に胸掴まれた回だった。

ビーズカーテンに見る塚原あゆ子の演出マジック

息子がソーシャルゲームに無断で19万7000円もの課金をした。はたして返金に応じてもらえるか、というのが今回の相談。依頼主はシングルマザーの相田瑛子(木村佳乃)。当初、瑛子は過保護で抑圧的な「毒親」を思わせる描写がなされていた。

息子・孝多(小林優仁)の中学受験のために目の色を変え、人目もはばからず息子への愛を語る。しかし、その横で孝多は「俺、もう受験嫌だ」と反発する。息子の言い分を聞かない母と、そんな母から頑なに目を逸らす息子。演じたのが、映画『告白』の印象がいまだ鮮烈に残る木村佳乃ということもあって、ステレオタイプのお受験ママの話に見えた。

けれど、そこがミスリードというのが『石子と羽男』の面白さ。孝多が受験をやめたいと言い出したのは、自分のために身を粉にして働く母を想ってのことであり、母もまた盲目的に息子を溺愛するのではなく、たとえ未成年取消権によって全額返金が認められても、息子が故意に行ったことであるのなら、その責任は自分と息子でとるという理知的な親だった。

「社会のルールはそうでも、我が家のルールではそうさせてください」という脚本・西田征史の台詞の秀逸さもさることながら、塚原あゆ子演出の妙が光っていたのはビーズカーテンの使い方だ。最初に石子(有村架純)と羽男(中村倫也)が相田家を訪ねた際、暗い室内から覗くビーズカーテンは青く光っていた。それが、受験をめぐって入った親子の亀裂を思わせていて、なんとも不穏な空気を醸し出していた。けれど、真相がわかったとき、再び映ったそのビーズカーテンは、本来の綺麗な黄色と白だった。よく見ると、カーテンの色も暖色。不穏に見えたこの家にはあたたかい色で溢れていたのだ。

同じものがシチュエーションによって色が変わるという演出は、『最愛』でも見られた塚原マジック。人は簡単にミスリードされる。目に見たものを容易く信じてしまう。でも光の当て方を変えれば、同じものでもまったく違うふうに見えるんだということを、塚原あゆ子はこうした何気ない美術を使って物語る。

エンタメの中でしっかりと公助について描く新井順子の理念

孤食の描き方もそうだろう。冷めた作り置きの料理を、スマホを見ながら食べる孝多は、昨今批判の対象となりがちな孤食の典型例。けれど、実は孝多が見ていたのは、母の動画だった。はたから見れば寂しく見えるものが、母親の愛に欠けていると眉をひそめられそうなものが、実はそんなことはまったくなくて、本当は愛でいっぱいに溢れている。人の虚を衝くメッセージングが塚原あゆ子はとても上手い。

食事をとるタイミングなんて、その家庭のライフスタイルによってバラバラになってしまうのは仕方のないこと。重要なのは、そこじゃない。たとえ食べているときはひとりでも、心が独りでなければ大丈夫なんだと、プロデューサーの新井順子と監督の塚原あゆ子は旧来型の価値観を覆す。

最後に石子が母子家庭で受けられる手当の一覧を紹介するところまで含めてぬかりがない。『MIU404』で家出少女たちにサポートセンターの連絡先を教えた場面もそうだけど、新井順子は社会問題を扱う上で、ちゃんと公的な支援についても言及する。今、同じような立場で苦しんでいる人たちに公助の道はあるのだと伝えることが、エンタメの使命だと理解している。新井順子が今多くの視聴者から愛されるのは、そうした理念に信頼が置けるからだと思う。

孝多が瑛子を起こさないように、ビーズカーテンを掴むところも含めて、細かいところにまで目線が行き届いている。だから、安心して視聴者はドラマの世界に没入できるのだ。

また、瑛子と孝多の母子を通じて、石子と羽男の親子関係も浮かび上がってきた。母子家庭で育った石子は母に負担をかけたことにどこか罪悪感を抱いているようだった。羽男は羽男で、「羽根岡優乃」という着信表示に強い拒否感を示していた。次回予告を見る限り、どうやら姉の名前らしい。羽男はなぜ家族に背中を向けるのか。それぞれ不安定なところを抱える石子と羽男の謎を解くには、家族について知る必要がありそうだ。

コミカル有村架純×芸達者・中村倫也×まっすぐすぎる赤楚衛二が三つ巴!

石子と羽男の関係性もしっかり描けていたと思う。学習塾に聞き込みをし、足で情報を稼ぐ石子と、ソーシャルゲームで遊んでいたかと思いきや、実は孝多のアカウントを乗った犯人とゲーム内で接触していた羽男。やり方は正反対。でも、依頼主の役に立ちたいという気持ちは同じ。そして、羽男は乗っ取り犯を特定し、石子は首謀者の正体に辿り着いた。2人がそれぞれ自分のやり方を活かしながら事件を解決したのだ。

そうやって得意なスタイルで戦う石子と羽男の姿は見ていて気持ちいいし、その結果、文句をつけていた羽男のカリスマに見せる小細工を石子が認め、ポーズを足したらいいんじゃないかとアドバイスするさまは微笑ましかった。

今回印象的だったのは、中村倫也が得意の小技で、そこかしこに笑いを生んでいたこと。「お任せします、石子さ〜ん」の投げやりな言い方と表情も、SNSを盛っていることを石子に見破られて扇風機の紐をカチカチするところも、「かたくなに私には挨拶しない」のツッコミも、大庭(赤楚衛二)に対する「あれ〜、近いね」の中村節も、「プリンをお口に運んでください」というシュールな台詞も全部がいちいち上手すぎる。この安定感たるや見事と言うしかない。

それに応じる有村架純も、ニコニコしながら毒を吐く切れ味の鋭さが痛快だ。「誇大広告と言われかねません」までの立て板に水感は、コミカルな演技もお手のものという幅の広さを見せつけた。

そして、その中に入ってくる赤楚衛二の愛らしさも前回以上に爆発している。どうやらこの大庭蒼生というキャラクターはまっすぐすぎるほどにまっすぐらしい。パワハラで係争中であることを履歴書に書いちゃう真っ正直さもいいし、それを綿郎(さだまさし)に指摘されて「添削ありがとうございます!」とお礼を言っちゃう善良ぶりがこれだけしっくり来るのは赤楚衛二ならでは。

ラブの要素もこの大庭が膨らませてくれそうで、石子との相合傘の場面もすごくよかった。マタニティのオチを最初からネタバレしちゃうポンコツっぷりが愛せるし、それとは対照的に傘を持つ手首の筋が男らしくて、はからずも色気が漏れ出ているところもたまりません。「股にお茶で」ともう1回同じネタを繰り返すくだりが全然あざとくならないのは、赤楚衛二だからこそ。こんな年下男子がいたら・・・と妄想がはかどりまくる第2話でした。

一方、羽男も服を前後ろ逆で着てくるポンコツを発揮して、キュン度が爆上がり。基本的にはリーガルエンターテインメントの路線を貫いていくと思いますが、羽男と大庭にキュンする楽しみも増えそうな金曜の夜です。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第3話(7月29日[金]放送)あらすじ】

羽男(中村倫也)に「国選弁護」の依頼が舞い込む。(※国選弁護=資金不足などが理由で弁護士を雇えない人に対して国が弁護人を立てる制度)
今回は映画を短く編集した"ファスト映画"を動画サイトに無断でアップロードし、 著作権法違反で映画会社から告訴、逮捕されたという大学生・山田遼平(井之脇海)の弁護だった。あまりお金にならない国選弁護の依頼に乗り気じゃない石子(有村架純)に対し、羽男は「注目されている事件だ」とやる気満々。しかし逮捕された遼平は反省どころか悪態をつき、羽男は振り回されることに。そんななか新たな事件が巻き起こって・・・!

◆放送情報
『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』
毎週金曜深22:00から、TBSにて放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
また、Paraviでは出演者のセリフだけでは表現しきれない「ト書き」や情景描写などをナレーションで説明した解説放送版、Paraviオリジナルストーリー「塩介と甘実―蕎麦ができるまで探偵―」も配信中。

(C)TBS