"選ばれし者"の影の努力と苦悩、そして孤独が描かれた日曜劇場『オールドルーキー』(TBS系)第3話。
元プロサッカー選手・新町(綾野剛)が正社員登用を懸けて任された仕事は男子マラソン界の絶対的エース・秀島修平(田中樹)のサポート。「僕の本当の目標は日本記録じゃありません。世界記録です(中略)まぁ期待してて下さい」と勝利宣言した後に臨んだレースで見舞われたまさかの惨敗に秀島は自分でも敗因がわからず困惑し何も信じられない様子だ。これまでのトレーニングメニューの全てを見直すと言い出し、入社以来4年間サポートを務めてきた塔子(芳根京子)のことも担当から外すよう指示する始末。その代わりに新たに担当に指名されたのが新町だった。"アスリートの気持ち"がわかるだろうという理由で。
ビッグマウスで自信家に見える秀島だったが、それは塔子いわく「自分で自分のことを奮い立たせて頑張るタイプ」で「本当に自信たっぷりな訳じゃない」ようだ。確かに秀島の想像のはるか上をいく練習量、ハードなトレーニング内容には、必死に不安を抱く隙がないようとにかく練習で埋め尽くそうとしているような側面も見受けられる。
ドイツリーグで活躍するサッカー選手・矢崎十志也(横浜流星)もそうだったが、0コンマ以下のタイムを競うような、生馬の目を抜く世界ではとにかく自分を鼓舞して、どこかで自身を誤魔化し欺き、自分自身の限界をストレッチし続けることでしか生き抜く方法はないのかもしれない。レース後の囲み取材での容赦ない質問にも、SNSで投げかけられる心ない言葉にも傷つきながらも、そんな雑音を上書きするべくリベンジに燃える秀島にはビッグマウスを封印して"安心して傷つける場所"がないのかもしれない。
常に実力が試される厳しい競争下では"何があっても味方でいてくれる人"の存在ほど大きいものはない。どんな時でも自分を信じて待っていてくれる人。秀島にとって塔子は既にそんな存在だったからこそ、レース敗北後のマスコミ対応に駆り出すのではなく、そこで自身の"アスリートの気持ち"に寄り添い守って欲しかったのではないだろうか。せめて塔子にだけは。塔子だけはわかってくれると思っていたのに、そんな彼女に裏切られたかのような気持ちになり担当チェンジを言い渡したのだろう。
そして自身の正社員昇格のチャンスを投げ打ってでも、秀島のための最善策として塔子に担当を戻す提案をするのがまた新町らしい。そして塔子にも秀島に対して"わがまま聞くばっかじゃなくちゃんと意見し、本当の気持ちを伝えるべき"だと背中を押す。思い入れが強いがあまり遠慮してしまい口出しできず、そして肝心な時に冷静ではいられない塔子と、そんな彼女に裏切られたように感じより孤立を深める秀島、双方の架け橋を新町が担った。
秀島役を務めた田中樹は、体型もランニングフォームも佇まいも全てが本当にランナーのようで驚かされた。『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京系)での陶芸教室の田宮先生役では切ない恋に翻弄される青年役を見事好演していたが、本作での秀島役同様に何か守るべきものを持ちながら人知れず憂う役どころがとてもよく似合う。
さて、新町にとっての"最強の味方"である妻・果奈子(榮倉奈々)からも最大のエールが送られた。新町の中から消えない現役サッカー選手への未練を見抜き「ダメ元でいいからさ、足掻いてみたらいいじゃん」なんて言える果奈子に惚れ惚れしてしまう。次週予告では、サッカーチームの加入テストに臨む新町の姿が見られたが、彼はどんな一歩を踏み出そうとしているのか。引き続き見守りたい。
(文:佳香(かこ)/イラスト・まつもとりえこ)
【第4話(7月24日[日]放送)あらすじ】
新町(綾野剛)は、未だに現役への未練が捨てられず毎日ランニングをしていた。その未練は日に日に募っていた。
そんな新町の姿を見ていた妻の果奈子(榮倉奈々)は、ある行動に出る。
そんな中、「ビクトリー」では梅屋敷(増田貴久)が横浜DeNAベイスターズ2軍選手の北芝謙二郎(板垣瑞生)に、マネージメント契約が間もなく終了することを告げていた。
北芝はベイスターズに入団して6年目を迎えたが、ずっと2軍のまま。まだ24歳だが、待っていたのは今季限りでの戦力外通告だった。
あっさりと北芝を見限ろうとする梅屋敷にいたたまれなくなった新町は、北芝の最後のマネージメントを名乗り出る。
そして、彼と接するうちに、新町はある決意を固める。それは、自身の現役復帰。
家族の理解も得て、新町は動き出す。
そんな中、Jリーグの1チームだけ加入テストを受けさせてくれるという話が持ち上がり、新町はラストチャンスに挑むべく向かう。果たして・・・?
◆放送情報
日曜劇場『オールドルーキー』
毎週日曜21:00からTBS系で放送中。
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」で配信。
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