成長。スタートアップ企業の方に取材すると、必ずこの単語が出てくる。ミニマムな組織では、個人が事業に与える影響は大きい。会社をどれだけ成長させられるかは、自分がどれだけ成長できるかにかかっている。では、もしその中心にいる人物が自身の伸び代に天井を感じていたら・・・。
『ユニコーンに乗って』は、ユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業)を目指す26歳のCEO・成川佐奈(永野芽郁)とその周辺の人々を通じて、人の成長を描いたドラマだ。
人はいくつになっても成長できるのだろうか?
ここで問題です。人間に「成長期」があるとしたら、それはいつだろう。体の発達が著しい10代こそが「成長期」なのか。それとも社会に出て、さまざまな成功と失敗を経験する20代こそが「成長期」なのか。答えは、人それぞれかもしれない。
でも、40代50代を「成長期」と言える人は多くはないだろう。もちろん理想としては、いくつになっても成長できると信じたい。だけど年をとるほどに思考は凝り固まり体は衰える。物覚えだって悪くなる。何か新しいことを始めようとしても、そう簡単にはいかない。
日本という社会自体が、中年の可能性を信じていない。停滞する事業の起爆剤となる人材を求めて、佐奈がCEOを務めるドリームポニーは求人の門戸を開いた。けれど、そこにやってきた小鳥智志(西島秀俊)を見て、佐奈もCTOの須崎功(杉野遥亮)も顔色を変える。ふた回り近く年上の48歳。しかもIT業界は未経験。それだけで、適性もポテンシャルもないと判断した。
でも、佐奈たちの掲げた採用基準は自走する力、新しさ、素直さの3つ。地方銀行の支店長を務めた経験もある小鳥なら自走能力は持ち合わせているだろうし、地銀からITという異業種へトライしようとしていることから考えても新しいものに対応できる感度も柔軟性も十分。何より森本海斗(坂東龍汰)が披露した3Dモーショングラフィックスに本気で感嘆し、本気で感動する素直さがあった。たとえ相手が大学生でも。どんなにコミュニケーションに難ありでも。
けれど、佐奈たちはそれらを見ようとしなかった。「すべての人が平等に学べる場所」をつくることを目指す佐奈たちが、人の学ぶ力を信じていなかったのだ。
その浅はかさは羽田早智(広末涼子)によってあっさり見破られる。アパレルの店舗スタッフからユニコーン企業を創出し、今や大手通信会社の新CEOとなった早智は、佐奈にとって憧れの存在。その早智本人から「この3年間、何をしてきたの?」と論破される。
貧困な家庭環境に生まれ育ったことから教育格差を実体験として感じていた佐奈は、「すべての人が平等に学べる場所」をつくるため、3年前にドリームポニーを起業。自分を投影したアバターと一緒に学べる学習アプリ・スタディーポニーがヒットし、次世代の経営者として注目を集めていた。
が、実際のところスタディーポニーの新規ユーザー数は伸び悩み、新たな事業プランも見えず、手詰まり状態。出資元のベンチャーキャピタルからも「成長スピードが遅すぎる」と一刀両断されてしまう。
「人は誰でも1冊は本を書ける」という言葉がある通り、ワンアイデアだけなら何とかなるのかもしれない。佐奈も「すべての人が平等に学べる場所をつくりたい」という一本槍で3年間やってきた。でも真の経営者になるには、そのワンアイデアをどう展開し、さらに拡大させていくかが重要。20代の女性CEOとして華やかなスポットライトを浴びる一方、この3年間、佐奈は何も成長できていなかった。
26歳のCEOと48歳の失業者。年齢や肩書だけを見たら、ポテンシャルが高いと思うのは前者かもしれない。でも、本当にそうなのだろうか。『ユニコーンに乗って』は、佐奈と小鳥という2人の人物を通して、いくつになっても人は成長できるのではないかという問題提起と、成長のために必要なものは何なのかという投げかけを描いてみせた。
小鳥も無事に入社を果たし、ドリームポニーのセカンドステージはここからが幕開け。本作が掲げる「大人の青春」というキーワードにふさわしい、瑞々しいドラマを見せてほしい。
"わんこみ"西島秀俊と、せつない杉野遥亮にキュンとしたい!
TBSの"火10"ドラマ名物である恋模様も楽しみなポイントのひとつ。佐奈の恋の相手となるのは、小鳥と功の2人だろう。
当然本命は小鳥。2人はドリームポニーを創業するずっと前、まだ佐奈が高校生だった頃に出会っていた。出会いの場は、図書館。手が届かない位置にある本を代わりに取ってくれた男性がいた。その本が鳥の図鑑だったことから考えても、あれはバードウォッチングが趣味の小鳥と見ていいだろう。
そして、この図書館こそが「すべての人が平等に学べる場所」だ。ITの力がなくたって、この社会にはちゃんと「すべての人が平等に学べる場所」が存在する。おそらく今後の展開として図書館にITの力を掛け合わせてドリームポニーは何か新事業を生み出す気がする。となると、その図書館が大切な場所となっている佐奈と小鳥がタッグを組んでいくことになりそうだ。
小鳥を演じる西島秀俊は、言わずと知れた人気実力派。ただ、これだけポップな作品に出演するのは久しぶりという印象もあり、長年抑えられてきた西島秀俊にキュンとしたいという視聴者の欲望がマグマのように噴火する役どころになりそう。
実際、ラストで見せた"スティーブ・ジョブズ"ルックは愛らしさが大爆発。この一瞬で、これから3ヶ月間、西島秀俊に「尊い...」と悶えられる喜びを想像し、胸いっぱいになった視聴者も多いはず。笑ったときにくっと持ち上がる口角もたまらなくキュート。渋さも色気もありながら、"わんこみ"も自在に操れるところが西島秀俊のすごさだ。酸いも甘いも嚙み分けた名優が、キュンにステータスを全振りしたところをぜひ堪能させていただきたいです。
対する須崎功を演じるのは、杉野遥亮。こちらも今、ノリにノッている若手俳優だ。功は功で前半から飛ばしまくっている。警備員に追われる佐奈の手を掴み、「来て」と駆け出す功。放送開始から1分28秒ですでに視聴者の心まで掴みに来ている。完全に「別マ」の世界じゃん。
ゴールデンキャピタルから厳しい指摘を受けて落ち込んでいるのを、ただひとり見抜き、「さっきの嘘だろ」と気遣ってくれる優しさもある。しかも、そのときに佐奈の頬にかかっていた髪をそっと耳にかける仕草までついてくる。一体どんなハッピーセットだ。だったら杉野遥亮の前でひたすら髪を垂らすから、そのたびに優しくかき上げてほしい。
まあ、でもこういうキャラクターは往々にしてヒロインとは結ばれないのが世のさだめ。佐奈と小鳥の距離の近さに、すでに複雑そうな顔をしているところも、なんともせつない。社内恋愛禁止というルールを最初に破るのは、功なのか。規定通り当て馬路線を走るか、それとも定説を覆し想いを成就させるか。功の片想いの行方も注目して見守りたいところ。
とりあえず1話の段階でイントロダクションはバッチリ。ここから物語は走り出していく。みんな今はまだポニー。それがどうユニコーンへと成長していくのか。佐奈たちの夢と恋を3ヶ月間応援していきたいと思います。
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
【第2話(7月12日[火]放送)あらすじ】
元銀行員の小鳥(西島秀俊)と、天才エンジニアの現役大学生・海斗(坂東龍汰)を仲間に加えた新生「ドリームポニー」。CEOの佐奈(永野芽郁)は早速ネットの仮想空間に誰もが無料で通えるバーチャルスクール「スタディーポニーキャンパス」を作るという新たな目標を設定! 実現に向けて、まずは現在のアプリを大幅リニューアルすることに。
佐奈は開発のための資金獲得に奔走するが、ベンチャーキャピタルの担当・白金(山口貴也)から、追加投資の条件として20万人の新規ユーザー獲得を提示されてしまう。てんやわんやな状況で焦りも募る中、IT用語に疎く、社内チャットも使いこなせないアナログ人間の小鳥は、小さなトラブルを連発! そんな小鳥に佐奈はついイライラ・・・
そんな中、須崎(杉野遥亮)は、短期間でユーザーを増やすべく、元カノのインフルエンサー・凛花(石川恋)の協力を仰ぐことに。一方の小鳥は、一人ひとりのユーザーに向けて商業施設でのアプリの体験会を提案。そのアナログな施策に疑問を抱く佐奈だったが・・・。
◆放送情報
『ユニコーンに乗って』
毎週火曜22:00からTBSで放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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