聡(増田貴久)の秘密は、今現在非常勤講師ですらないことだった。彼が教師の職を懲戒解雇されてしまうきっかけとなった元・教え子の間宮リコ(岩本蓮加)と、聡いわく"存在自体がモンスター"という彼の母親・梢(筒井真理子)が一気にシェアハウスを襲来する展開に見舞われた『吉祥寺ルーザーズ』(テレビ東京ほか)第10話。

とにかく自分が思う"息子像"を聡に押しつけようとし、彼の話に聞く耳を持たない梢。常に物語の中心は自分で、彼女から見えている世界が"全て"、異論を寄せ付けない。どうやら聡の父親もそんな梢にはお手上げで見て見ぬふりをしてきたようだ。

そして、きっと幼少期から母親の顔色ばかり伺って育ってきた聡は、"人の期待を裏切ってはいけない、期待に応えなければならない""人に嫌われたり、悲しませてはいけない"そんな呪いにかけられてしまっているようだ。

自分自身にとっては生きるために何とか体得せざるを得なかった処世術であり護身術のような呪いを増田演じる聡がなんとか解こうと必死に声を振り絞り、母親と真っ向から対峙するシーンは圧巻だ。ずっと胸の奥底にしまい込んできた痛みや本心が後から後へと溢れ出し決壊する様子に、涙腺を刺激されてしまった。

「喋ると否定されるから何も喋らない方が楽なんだって。ある日、そう決めたの。逆らわないように、否定されないようにって。いつも笑顔でいて、なるべく素直でいようって。(中略)その決まりごとは今でも僕を縛りつけてる。もう解放してあげたいんだ、あの日の僕を・・・(中略)いまだにその決まりごとは僕を自由にしてあげられてない」

あまりに悲痛な胸の内だ。よくぞ言えた、聡・・・!!よくやったぞ!!

だが、この兆候は少し前から訪れていた。母親向けに嘘の報告文を送り続けてきた聡だったが、ある日を境にその日課がこなせなくなっていた。きっと自身の本音と向き合い、肩の荷をおろしていく他のルーザーズの姿に、そして秘密を暴かれた後も態度を変えずに当たり前のようにそっと側にいてくれる周囲のルーザーズの様子に、"あの日の僕"が目を覚まし自由にしてくれと声を上げ出したのだろう。

そして、自分の意見を主張するよりも嵐が過ぎ去るまで沈黙を決め込みじっと耐えるという聡にとっての生存本能が、リコにあらぬ誤解を与え完全なる認識のズレをもたらしていたこともわかる。リコの異様な執着心からして聡への好意は明らかだったが、彼女は聡も同じように自分のことを想ってくれているものだと勘違いしていたのだ。人の期待や好意に応えなければならないと条件反射的に思ってしまう聡は、なかなか彼女に「君を好きだと思ったことは一度もない」と、真実を伝えることができなかったのだろう。

聡が自身の中の二大わだかまりと向き合えた日、そんな日だからこそ律儀にも母親宛に連絡を入れるところがまた彼らしくいじらしい。

「ルーザーだからこそ、人の痛みがわかる、そんな優しい人たちなんだ。僕はここの住人でいられることが、とても嬉しいんだよ」とは、聡のみならず住民全員の想いを代弁しているだろう。

こうなってくると、ここに住まう人々がシェアハウスを卒業する日は来るのだろうか。ルーザーズとしての実態が暴かれておらず秘密がはっきりとは明かされていないのは残すところ前話から姿を見せていない池上さん(國村隼)のみか。

(文:佳香(かこ)/イラスト・月野くみ)

【第11話(6月20日[月]放送)あらすじ】

テレビ取材があった日を境に、池上隆二(國村隼)が姿を消した・・・。バッグがないことに気づいた大庭桜(田中みな実)は、旅行ではないかと推理。安彦聡(増田貴久)は何か池上の秘密を知っている様子だが、頑なに口を割ろうとしない。だが秘密を書いた紙が入ったアボカド人形は、日曜日の夕食に全員が集まれなければ割る約束で、このままだと秘密はおのずと明らかに・・・。池上の身に一体何が?果たして日曜までに戻ってくるのか!?

◆放送情報
ドラマプレミア23『吉祥寺ルーザーズ』
毎週月曜23:06~23:55放送
地上波放送終了後、動画配信サービス「Paravi」にて配信