やはり内通者はあの人だった・・・! 最終回に向けてエンジン全開の『インビジブル』。第9話で、ついに"リーパー"の正体が明かされた。
クライマックスを予感させる桐谷健太のあの笑み
キリヒト(永山絢斗)に情報を提供し、犬飼(原田泰造)や安野(平埜生成)を亡き者にした内通者こと"リーパー"。その正体は、猿渡(桐山健太)だった。とりあえず猿渡説をゴリ推ししていた身としては、ほっとひと安心。だけど、その本性は思ったよりもヤバいやつなのかもしれない。
てっきり猿渡は、腐敗した警察組織を粛清し、法で裁けない悪を討つための"また別の正義"だと思っていた。だが、キリコ(柴咲コウ)が発見した捜査資料によると、11歳のときにある通り魔殺人事件の被疑者として補導されたのが猿渡だった。しかも、その事件の前から何度も補導歴があったと言う。となると、崇高な思想犯というよりは、人の心を持たない快楽犯だ。実際、キリコがかけた"K"からの着信をスルーしたあと、車内でひとり浮かべた笑みは残忍かつ狡猾だった。あの桐谷健太の笑みを見て、ここからどんな対決が繰り広げられるのだろうとゾクゾクした。
あっさりキリコに拘束されたことから見ても、キリヒトはあくまで前フリで、ラスボスは猿渡なのだろう。正義の顔をして、救いがたい悪事を働き続けてきた猿渡に、志村(高橋一生)はどんな裁きをくだすのか。
「俺は警察の正義を信じてます。世の中の善良な人々の心の正義を信じてます。どんなに悪にまみれようと、見極められるって信じたい」
安野のあの言葉が改めて思い出される。人の良心を、人の正義を信じた安野は命を落とした。では、志村はどうなるのか。
死亡診断書には「轢過による頭部損傷」としか書かれていなかったのに、猿渡は「あの火傷はおかしいと思います」と言った。この矛盾に気づいた志村は、猿渡に疑念を抱いてはいるようだ。猿渡と行動を共にするのは、猿渡自身を見張るためか。だが、かけられた手錠をあっさり外すなど、猿渡も一筋縄ではいかない。あの「志村うしろー!」という古のインターネットミームを視聴者が使わなくてすむように、志村には最終回まで背後にはどうか気をつけていただきたい。
キリヒトと猿渡の共通点は、異常な執着心
一方、キリヒトと猿渡の歪みもはっきりと見えてきた。キリヒトは愛がほしかったのだ。父は姉ばかりを可愛がり、自分には目もくれようとしない。キリヒトが暴走しだしたのは、父に反発したからでも、犯罪の快感に魅入られたからでもない。父に褒めてほしかったんだと思う。自分もできるんだよと。お姉ちゃんより僕の方がずっと優秀なんだよと。力を誇示するのは、父に振り向いてほしかったから。でもそれが裏目に出て、余計に父はキリヒトを恐れ、認めなくなった。親子関係のねじれが、キリヒトという凶悪なモンスターを生み出してしまったのだった。
キリコに執着するのも、猿渡に心酔を示すのも、誰かに強く求められたいから。キリヒトは、自分が思っているよりも脆く、依存体質なのかもしれない。警察を無能と嘲笑う反面、より強大な能力を持った人間に憧れる。父を憎む一方で、父にしてほしかったことを、他者に求めてしまう幼さが、キリヒトの中にある。
執着という意味では、猿渡が志村に見せる執着も異常だ。猿渡は、苦しむ志村を渇望している。志村の顔が苦悩で歪み、自責の念に打ちひしがれる姿に、興奮を覚えているようにさえ見える。安野を殺したのだって、志村を苦しめたいからだろう。なぜ猿渡は志村にそんなにも執着するのか。
幼い頃から凶行を重ねてきながら、成人し、警察の道を選んだ動機も不可解だ。猿渡は、確実に何かが壊れている。それが生まれついてのものなのか。何かしらの体験によって、彼の善悪の秤が狂ってしまったのか。そして、それがどう志村に結びついているのか。すべてが明かされるのは、最終回。志村と猿渡の対決を想像すると、興奮で毛穴が開きそうだ。
ただひとつ気になることがある。それが、志村と猿渡の車中での会話だ。
「前に磯ヶ谷さんたちが噂してたのを思い出しちゃって。志村さん、射撃はうまくないって」
猿渡の正体が明らかになるまでは、何気ない雑談のようにも思えた。けれど、猿渡が"リーパー"と判明した以上、この会話が何か重要な意味を帯びているように思えてならない。最終回で起きる事件の布石と見ていいのだろうか。
志村は銃を所持している。最終回で、猿渡か、あるいはキリヒトに銃口を構える場面もあるのかもしれない。となると、この射撃がうまくないという前情報が、途端に不吉な前兆に聞こえてくる。
その一方で、殺人のプロである猿渡と銃撃戦になったときに、射撃のうまくない志村が、たった一発で猿渡を仕留め、事件にピリオドを打つ場面があったとしたら・・・。今度は、その凛々しい志村の勇姿に全身が痺れそうだ。いずれにせよこの段になってまったく意味のない会話がここでなされるとは思えない。きっと志村の射撃の腕前が、最終回の行方を占うキーとなるはず。
もちろん志村とキリコの結末も忘れてはならない。キリコ自身が、過去に数多くの犯罪を重ねていることは事実。真実が明るみになった以上、無罪放免とはならないだろう。キリコにどんな裁きがくだされるのか。それは、志村とキリコの別れを意味するものなのか。まるで猫みたいに忽然と姿を消すキリコも見てみたいだけど、確信を持てる予想はできない。志村にとってキリコは、キリコにとって志村は、どんな存在となるのか。
3ヶ月に及んだ2人のドラマの結末にも注目だ。
追伸、キリヒトへ。「ブラックフライデー」と聞いたら、みんな「え? Amazonでセールするの?」と思っちゃうから、ネーミングを決めるときは1回ググって、他とかぶっていないか確認してからにしてください。
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
【最終話(6月17日[金]放送)あらすじ】
史上最悪のクリミナルズ「リーパー」の正体がついに明らかとなった。
そんな中、初めて心を通わせたキリコ(柴咲コウ)とキリヒト(永山絢斗)。
そして、そんな2人の元にたどり着いた志村(高橋一生)だったが、キリコを危険視する猿渡(桐谷健太)が彼女に銃口を向ける。
一方、捜査一課では仕掛けられていたEMP爆弾が作動し、ブラックフライデーが動きだした。猿渡は、すべて志村とキリコの仕業だと捜査一課の面々に説明し、志村を捕獲するように指示を出す。
さらに、インビジブルのサイトでは志村の身柄に懸賞金が付けられる。
警察からもクリミナルズからも追われる志村。
絶体絶命のピンチのなか、ある最後の賭けに出る・・・。
◆放送情報
『インビジブル』
毎週金曜22:00からTBSで放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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