いよいよ面白くなってきた。ついにキリコ(柴咲コウ)の正体が明らかになった『インビジブル』。第6話は、「新章開幕」のサブタイトルにふさわしい、胸躍る新展開となった。

父の善悪を切り分けたのが、キリコとキリヒトだった

裏社会の人脈に精通し、多国語を自在に操るキリコ。そのチートすぎる能力をどこで手に入れたのかが謎だったが、キリコの父こそが"インビジブル"の元祖であり、弟のキリヒト(永山絢斗)と共に幼い頃から犯罪の英才教育を受けてきたのだった。

キリコの父は、法で裁けない悪人に罰を与えるために罪を犯してきた。法と社会という観点から見れば悪。だが、キリコの父にはキリコの父なりの正義があった。まさに正義と悪が混在したキャラクターだ。

そんな父の中に内在する善悪をそれぞれ切り分けたのが、キリコとキリヒトだった。キリコは父のしていることが許せなかった。父から受け継いだその優秀すぎる能力も、キリコから見れば呪いだった。一方、悪の部分のみを強く継承したキリヒトは、父が掲げた使命感からも背き、ただ金のために犯罪を重ねる殺人コーディネーターになり果てた。やがて父の存在さえ疎ましく思ったキリヒトは父を殺し、姉弟の道は決裂。弟を純粋だった子どもの頃に戻すことが、キリコの願いだったのだ。

そして、そんな弟からゲームとして提示されたのが、今回登場した"ドクター"の事件。医療器具によって拷問を施し、最後はターゲットを薬物死に追い込む"ドクター"は、当初、外科医の樫谷健治(吉沢悠)の方かと思われた。だが、本物の"ドクター"はその母・加代子(銀粉蝶)だった。この母子の関係が、おのずとキリコとその父にオーバーラップされてくるところが、第6話の大きなポイントだ。

「優秀な外科医だったのに、毒親に洗脳された可哀相な男」

そうキリコは言った。この台詞は、そのまま彼女の父子関係を想起させるものだった。確かに父には崇高な使命があったのかもしれない。だけど、自らの価値観を押しつけ、子の可能性を奪い、意のままに操る行為は、毒親以外のなんでもない。

そういえば、キリコは"調教師"(久本雅美)のことを「最悪の犯罪者だよ」と吐き捨て、「昔からあんたのやり口が嫌いなんだよ、クズ」と珍しく強い感情を見せていた。あれも今思えば、"調教師"が無力な子どもたちを優しい言葉で飼い慣らし、殺人マシンへと洗脳していたからだろう。キリコは"調教師"に父を重ねていたのかもしれない。そうやって今までのことを紐解いていくと、正体不明だったはずのキリコが突然人間らしく思えてくる。

これは、志村がキリコに救済を与える物語

この物語の骨格もはっきりと見えてきた。これは、キリコが志村(高橋一生)によって救済される物語なのだろう。どんなに強い反発心を抱いていたにせよ、父の犯罪行為にキリコが加担させられていたのは、まぎれもない事実。キリコの手は罪によって汚れている。キリコは自分自身が許せないのだ。誰よりも自分を「悪」だと憎んでいる。

そんなキリコの相棒となったのが、志村だ。キリコは、志村を指名した理由を、無能揃いの警察の中で唯一父を追いつめたのが志村だったからだと明かした。もちろん最初はそれだけだったのかもしれない。でも、こうして見ると今はまったく別の運命によって2人が結びつけられたのだということがわかる。

志村は、正義と悪を見極めることが刑事の信条であると語る男。そんな志村の目で見たときに、キリコはどう映るのか。今はまだその途中でしかない。これから2人はキリヒトという純粋な悪と対峙していく。その対決が終わったとき、改めて志村はキリコという人間を見極めることになるだろう。正義か、悪か、それともそれだけでは語りきれない何かなのか。いずれにせよ、強い正義感だけで行動する志村という男が、最後にキリコにどんな言葉をかけるのか。そこに、父によって人生を歪められたキリコの救済が待っている気がする。

高橋一生のニヒルなヒロイズムと、柴咲コウの人間臭さ

キリコの正体が明らかになったことで、柴咲コウの演技もぐっとトーンが変わった。これまでの人を試すような目や、からかうような台詞回しは消え、時に葛藤しながらも強い信念を貫く人間臭さがその大きな瞳から漏れ出ている。このキャラクター変化を自然にフェードクロスさせる柴咲コウの技巧は、さすがの一言。

志村の「だから助けてやるよ」という言葉を、「な〜に、その言い方」といつもの余裕でかわそうとするが、声がかすかに揺れている。その微妙なニュアンスもさることながら、志村がその場から立ち去った瞬間、一気に感情がこぼれてしまう表情が絶妙だった。人が見ていないところで、人の本音はこぼれる。ずっとひとりで戦ってきたキリコにとって、志村の「助けてやるよ」という言葉がどれだけうれしかったか、どれだけ心強かったか。胸の奥がじんと熱くなる様子まで伝わってくるような演技だった。

キリコの正体が明らかとなったことで、高橋一生のニヒルなヒロイズムも全開となった。熱血ヒーローとはまたちょっと違う、斜に構えているけど、困っている人は絶対に見捨てない志村の正義感が、高橋一生の乾いたトーンによく似合う。

こちらも「だから助けてやるよ」のくだりももちろんいいのだけど、それ以上にキリコの告白を柱にもたれて聞いているときの横顔がよかった。キリコに向けて「何が正義で何が悪かは俺が見極める」と宣言したときの少し潤んだ瞳は、志村がキリコの痛みを引き取った証拠。いい役者は、人の芝居を受けたあとのリアクションがいいということを、高橋一生と柴咲コウが証明している。

ラストでは、警察組織内に"インビジブル"とつながっている内通者の存在が浮上。さらにキリヒトが安野(平埜生成)の妹・東子(大野いと)に目をつけた。はたしてこの先にどんな展開が待っているのか。『インビジブル』がさらに面白くなってくるのは、ここからだ。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第7話(5月27日[金]放送)あらすじ】

捜査一課内にインビジブルと繋がっている人間がいる――。

志村(高橋一生)はキリコ(柴咲コウ)の言葉を心に留め、キリヒト(永山絢斗)の捜索にあたる。

一方、キリヒトはクリミナルズの「シノビ」を使い、暗殺計画を立てていた。次なるターゲットがIT企業のCEO・早坂(横山めぐみ)と睨んだキリコは、志村に早坂のSPになるよう持ち掛ける。彼女を守りながら、内通者に邪魔されずにクリミナルズを調べるためだ。

監察官の猿渡(桐谷健太)が上層部に掛け合い、志村はSPのチームリーダー・神岡(山田純大)指揮のもと早坂の警護にあたることに。そんな中、犬飼(原田泰造)は「シノビ」の犯行と類似した過去の毒物事件や関連機関を調べるよう指示を出す。すると、捜査線上に浮かんだ関係者が次々と事故や不審な死を遂げていて・・・。

◆放送情報
『インビジブル』
毎週金曜22:00からTBSで放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。