"美"は圧倒的な威力や引力を発揮するが、時としてそれは強迫観念にもなり人を苦しめ萎縮させがんじがらめにもする。行き過ぎた"美"への執着は自己嫌悪をいとも簡単に引き起こし、周囲も自分のことをも傷つけてしまう凶器になりかねない。

"強く楽しく可愛く"がモットーの無敵メンタル・白川さん(井桁弘恵)の前に現れたのは頭の先からつま先まで抜かりなく手入れされた隙のないパーフェクト美女・羽柴美雪(遊井亮子)。"上から猛毒蛇女"の異名を持つ彼女の毒が周囲に伝搬し呪いとなって蝕んでいく様が描かれた『メンタル強め美女白川さん』(テレビ東京ほか)第7話。

ネイルにメイクにスキンケアにヘアケア、ダイエットや食生活、ファッション・・・"美"は追求しようと思えばキリがない。"もっともっと"がいくらでも出来てしまう底なし沼であり、それが「美容」の魔力でもある。"こうしたい、こうなりたい"と自身が願って変身しようとするのは前向きな活力にもモチベーションにもなるが、一度"こうしなきゃ、ああならなきゃ"に変換された瞬間、それは苦痛以外の何物でもなく、大袈裟ではなくそこには地獄が広がる。

常に他人を出し抜こうとする羽柴さんの美しさは何だかギスギスして見えてしまい、余裕がない。それはきっと自分自身が努力していることを他人にも"やって当然のこと"、"私もここまで頑張っているんだから"と知らず知らずのうちに強制してしまっているからだろう。本人としては、皆もそれを当たり前のごとく望んでいるはずだと思い込み、親切心のつもりであれこれ口出しし勧めてしまう。周囲がそれについていけなくなると、羽柴さん視点で"頑張っていない"とジャッジし即切り捨てる。

その圧倒的ストイックさで周囲がひれ伏す女王様のようでもあるが、どんどん人との距離を作ってしまう"裸の王様"かのようにも見える。"美しくなりたい"という願望があっても、どこにお金や時間をかけどんな方法をとるのか、どんな美しさを目指しているのかは人それぞれであるはずなのに、羽柴さんの中での"美しさ"の定義や基準は画一的で、一切の異議を認めない。そして"美"という一つの価値観に自身の全てを懸け、武装しているかのような羽柴さんに危うさを感じずにはいられない。

これは「美に競争は持ち込まない」「楽しんで美しくなるのが一番の栄養剤」という白川さんの持論とは対極の思想だ。朝比奈さん(東野絢香)の赤いほっぺを"天然のチーク"とした白川さんに対し、羽柴さんは「お肌のノイズ」と言ってのけてしまう。「私たちはみんな綺麗になる手段も速度も違うだけなんです!」「その美しさも長所も全てあなただけのものです。人を突き落とすために使うものなんかじゃないです」という白川さんの言葉は羽柴さんにどう響いただろうか。

ただ、自身のコンプレックスや弱点と向き合うことはかなりの気力や精神力を要することだ。それだけパワーのかかることに一生懸命に常に真正面から取り組み、一つ一つ気になるところを取り除いたり改善したりしてチェック項目を潰していくかのような羽柴さんだが、一体何が彼女をそうさせるのか。彼女の原動力となっているものが何なのか気になるところだ。本人の言葉を借りると「ひがんでるだけで努力もできない人間のストレス発散に利用されてきた」ことでもあったのだろうか。

「今の私、あいつらそっくり!負けるわけにはいかないのよ」と羽柴さんは鏡に写る自分に向かって言い捨てていたが、彼女は誰と、そして何と闘っているのか。闘い続けなければそこに立っていられないほどに、どんな傷を抱え込んでしまっているのだろうか。このあまりに根深い筋金入りの呪いに白川さんはどう向き合い、そしてどうやって羽柴さんの心に刺さったトゲを抜くのだろうか。

文:佳香(かこ)

【第8話(5月25日[水]放送)あらすじ】

メンタル強めな美女白川さん(井桁弘恵)・・・の上をいく、メンタル最強美女・羽柴美雪(遊井亮子)は、女性社員に美のアドバイスをして回っていた。羽柴さんの毒牙にかかった社員たちは委縮してしまい、白川さんのアドバイスで前向きになった朝比奈林檎(東野絢香)もすっかり委縮してしまう。
そんな羽柴さんは「負けるわけにはいかない」といつも何かと闘っていて・・・彼女の闇が明らかに。果たして白川さんは羽柴さんの呪いを解くことができるのか?

◆番組情報
ドラマParavi『メンタル強め美女白川さん』
毎週水曜深夜0:30からテレビ東京ほかで放送。
動画配信サービス「Paravi」で前週水曜日21:00より毎話独占先行配信中