動画配信サービス「Paravi」にて、今の時代を牽引する若きスターたちに密着取材したドキュメンタリー番組『Real Folder』Season2の独占配信が開始された。Season2の記念すべき第3回はピアニスト・反田恭平への密着取材だ。今回は、オフのときでも反田が音楽に対しストイックな姿を捉えている他、配信ならではの尺で、反田が奏でる素晴らしいピアノをたっぷり堪能できる回となっている。
どこか挑発的な眼差し、滲み出る貫禄と動じなさ、それでいて茶目っ気があり、演奏姿には華がある。そして普段はしっかり隙まで見せてくれる、そんな人間味溢れる音楽界の異端児。"世界三大コンクール"とも称されるショパンコンクールで日本人として2人目となる最高位2位入賞を果たした反田。
本格的なレッスンを受け始めたのも12歳からということで、出発地点はメインストリームではない少し外れたところにいながら、一気に王道に躍り出るそんな彼のキャリア自体にも何だか既定路線に捉われない大胆さとドラマティックさ、小気味良さ、それこそカリスマ性が感じられる。ショパンコンクールの本戦での彼の演奏姿について親友のピアニスト・務川慧悟は「あんなに気負わずあんなにフレンドリーに弾けるっていうのはかなりのことだと思う」とインタビューで答えていた。
そして、それが反田の多才な顔に繋がっているとも言えよう。番組内ではいち演奏家としての顔だけでなく、プロデューサー、総指揮官としての活躍ぶりについても取り上げられている。彼独自のバックグラウンドがあったからこそ反田は日本の演奏家志望の学生が海外に留学するばかりで、その反対のケースがないことを疑問視できたのではないだろうか。これまでの定説を持ち込まず、先入観や固定概念なしに他の道も模索してみる。その実現のために周囲を巻き込んで着実に行動に移せるところも反田の凄まじさである。
「世界から日本に(留学に)来るっていう窓口を奈良でやりたいなぁって僕は思っているんですよね。これから5年、10年、30年かけて学校を作っていきます」「だから僕がショパンコンクールっていう国際大会にエントリーしたのも、そして全てはその(学校を作るという)目標のためであった」と断言する反田。ある意味、ショパンコンクールをそのさらに先にある"目標"のための"手段"として捉え、6年間かけてこのコンクールに照準を合わせてきたのだという。
世界が認める演奏家でありながら、自身の音だけを追求するのではなく、その原動力が同じく音楽を愛する者や後世にまで向けられているところが彼の柔軟性と求心力、タフさに繋がるのだろう。自らレーベルを立ち上げ、実力のある音楽家たちに発表の場を提供するために設立したチーム「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」の練習風景でも、仲間と自分たちの音色を追求しようと刺激し合う姿が見られた。
曲や作曲家への自身の理解を自分の言葉で話した上で、若き音楽家たちと互いにリスペクトし合い、試行錯誤を重ねながらディスカッションできる関係性を紡いでいく。「みんなで作るオーケストラにしたい」と話す反田だが、メンバー全体に向けて話していながらも、一人ひとりに話しかけているかのような1対1の語りかけが自然とできている。そのチームビルディング力も彼の強力な武器の一つと言えるだろう。
そしてこのハイブリッド志向はやはり彼の特殊な音楽環境ゆえに養われた稀有な側面だと言えるのではないだろうか。本作では反田ソロはもちろん、オーケストラでの全身全霊の演奏姿もたっぷり収録されており、彼らがぶつかり合いながら作る音色や空間が臨場感たっぷりに堪能できる。反田が指揮をする様子を真正面から捉えた貴重なシーンもあり、その魅力に様々な角度から触れられる。遊び心や挑戦心、"自分たちオーケストラの顔"を獲得しようと常にフェーズを変えていく反田を中心とした彼らの軌跡自体が聴く者の心を高揚させ、捉え離さないのだろう。
さらに反田はこのオーケストラを国内で初めて株式会社化。メンバーを社員にして寮まで完備。個々に安定した生活基盤を保障し、音楽活動に専念できる環境を整えている。確かに今、ここでクラシック音楽界が新しく変わっていこうとする革命の音が聴こえている。
"クラッシック音楽"を限られた人だけのものに閉じてしまわず、興味を持ってもらえるきっかけ、タッチポイントを増やし新たな解釈を取り入れようとする、そんな反田の試みを、同じく今を生きる若者として(また筆者は奈良県出身者としても)リアルタイムに見せてもらえることがただただ嬉しく、心ときめかされる。
【文:佳香(かこ)】
◆番組概要
『Real Folder』
【配信ページ】https://www.paravi.jp/title/89311
(C)MBS
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