聡(増田貴久)と幡多(片桐仁)が変化するための一歩を踏み出した『吉祥寺ルーザーズ』(テレビ東京ほか)第5話。

聡はオンライン家庭教師の登録をし、過去学校で見舞われた何らかのトラウマを克服しようと行動に移し始める。対人関係に不安を抱えながらも少しずつ社会復帰を進めようとする聡の姿に触発されたのは、幡多だ。芸人になるという夢を後回しにし続け、本業の実演販売でも売れ残り在庫を大量に抱える幡多の、芸人志望らしい姿が初めて見られた。コンビを組む相方が見つかってから参加しようと考えていたというネタ見せにピン芸人として参加することを決め、夜リビングで1人ネタを書く。

「聡の成長は嬉しいけどなんかちょっと寂しいっていうかさ。負け組から抜け出したら、もうここにいる必要はなくなっちまうからな」とは幡多が桜(田中みな実)にこぼした言葉だが、確かにこれは彼らの悲しき運命でもある。今現在"負け組"だからこそここに集った面々である以上、それぞれの問題が解決すれば自ずと卒業の時が来るのだ。

「(聡のことは応援しているものの)いつまでもここで一緒にダラダラ楽しく過ごしたいって気持ちもあるんだよな」という幡多の言葉からも、彼らにとってなんだかんだこの"訳ありシェアハウス"がいつの間にか居心地の良いパラダイスと化しており、みな悩んだり焦ったりしながらも絶賛人生のモラトリアム謳歌中なのだろう。「早くこの嘘だらけの家から出て行かねぇとな」と口に出し決意を新たにしなければならない程に、きっとそれぞれにとって住み心地も抜群に良くなってきているのだろう。それはともすれば"ぬるま湯"にもなり得る危険性をはらんでもいる。

そして、今話では聡と幡多の間にいつの間にか芽生えていた仲間意識、友情がしっかりと見られた。幡多がネタ見せに向かおうとしたところ、聡の元教え子で彼を探している女子高生・間宮リコ(岩本蓮加)に遭遇。聡のオンライン家庭教師デビューを無事迎えさせようと、なんとかその場を収め彼らが鉢合わせてしまわないようにとあれこれ画策する幡多と桜。聡の"小さな、だけれどもとても大きな一歩"を全力で見守り、何があってもその一歩を踏み出させようと見届け応援する彼らの関係性を"仲間"と呼ばずして何と呼べば良いのだろう。

それぞれに抱えた事情に深入りせずに、けれども想いを馳せ、手を貸すべきところでそっと手を差し伸べる。踏み込みすぎることもないものの、それでも行き過ぎた個人主義でドライということもない適度な距離感が正に心地いい。大人になればなる程、自分を変えようとすることは周囲の目もあってどんどん難しくなる。変化するための努力を"何を今さら""そんな戯言を"と冷笑したり切り捨てる向きも少なくない。周囲から見れば前進しているようには見えない小さな小さなほんの一歩に気が付いてくれる人がいるということ、まだ何の結果も残せていない中で、何の形にもなっていない足掻きやその過程をそのまま背伸びせずに見せられる相手がいるということはどれほど貴重で心強いことだろう。本当に理想的な関係性で、思わずリコが聡のことを羨ましがるのも頷ける。

聡も「僕、嬉しかったんです。一緒に頑張れる仲間がいるってなんて頼もしいんだろうって」と幡多に向けて話していたが、聡が学校で問題を抱えた際にはきっとそれを共有したり相談できる相手がいなかったのだろう。でも今は違う。ここにはまたしても気絶してしまった聡に、不要な負担や心配はかけぬようにと、気絶前に起きたことをそっと伏せ秘密にしてくれるそんな優しい嘘をつけるルーザーズが集っている。聡とリコとの間に何があったのか、どんな行き違いがあったのかも気になるところだが、ルーザーズと同じく聡のペースでその秘密が語られる時を待ちたい。

次週は、桜の夫役として坂本昌行がゲスト出演するようで、そちらも見逃せない。

(文:佳香(かこ)/イラスト・月野くみ)

【第6話(5月16日[月]放送)あらすじ】

シェアハウス生活がスタートして早1カ月。初めての更新日を迎えるが、望月舞(田島芽瑠)はお金がなく家賃が払えないと土下座する。とその時、安彦聡(増田貴久)が聴いていたラジオ番組で、「ライフハックの投稿が採用されたら3万円プレゼント」との告知が。「それで舞の家賃が払える」とさっそく役に立つ生活情報ネタを探し始めるルーザーたち。ところが、それがキッカケで胡桃沢翠(濱田マリ)の過去と心の闇が明るみに――。

◆放送情報
ドラマプレミア23『吉祥寺ルーザーズ』
毎週月曜23:06~23:55放送
地上波放送終了後、動画配信サービス「Paravi」にて配信