つくづくキリコ(柴咲コウ)がわからない。
ルール破りの捜査手法が原因で閑職に追いやられた暴走刑事・志村貴文(高橋一生)と犯罪コーディネーター・キリコがタッグを組み、警察も関知していない未知なる凶悪犯"クリミナルズ"を追う『インビジブル』。第2話で登場した"クリミナルズ"は、"調教師"だった。
志村とキリコの共通点は、犯人を許せないという怒りの炎?
山中で大量の白骨が発見された。遺体の身元は、6人の若い男女。いずれも未解決事件の手配中の被疑者だった。しかも、事件発生時の年齢はみな10代。親や社会から見捨てられた未成年だった。
孤独な少年少女に衣食住を与えて匿う代わりに、暗殺者へと育て上げる。その手口から、ついた二つ名は"調教師"。少年少女は実質洗脳に近い教育を施され、"調教師"を親のように慕っているが、"調教師"は彼/彼女たちのことを道具としか見ていない。もしも警察の捜査が及ぶようなことがあったら、トカゲの尻尾を切るように容赦なく処分する。発見された遺体は、そうやって"調教師"によって殺された哀れな教え子たちだった。
第2話は、そんな"調教師"の卑劣な犯行が暴かれたわけだが、今回のポイントは、偶然白骨が見つかったことによって真実が明るみになったわけではない、ということだ。
白骨を発見したのは、Yチューバーというライブ配信者たち。彼らは栃木県から依頼を受けたと供述していたが、その事実はなく、Yチューバーに金を振り込んだのはキリコだった。つまり、白骨が見つかるようにキリコが仕向けたということだ。キリコは「"調教師"は最悪の犯罪者だよ」と言い、本人を前に「昔からあんたのやり口が嫌いなんだよ、クズ」と吐き捨てた。どうやらキリコは"調教師"に対し腹に据えかねるものがあったよう。今回の事件は偶然発生したのではなく、キリコが"調教師"を狙って起こしたものだった。
このことから考えるに、キリコがわざわざ警察と手を組み、闇にまぎれた"クリミナルズ"の罪を白日のもとに晒そうとするのは、粛清が目的なのかもしれない。キリコにはキリコの犯罪の美学があり、それに反する者は処罰する。前回登場した"花火師"は爆破風景に快楽を覚える愉快犯だし、今回の"調教師"も犯行の目的はあくまで金目当て。こうした大義なき犯罪者を炙り出していくために、キリコは表社会に姿を現したのか。
だとしたら、その粛清の先にあるものは何か。おそらく最終的にはキリコ自身が最も強く憎む凶悪犯の存在が浮かび上がってくるはず。飄々としたキリコの内側には、志村と同じ、犯人を許せないという怒りの炎が燃えているのかもしれない。
キリコのもったいぶった態度は、警察に対する批判なのか
一方、なぜキリコが志村を指名したのかは依然として謎のまま。ただ、キリコ自身が志村をどこか試しているようにも見える。どれだけ志村が"調教師"について詰問しても口を割ろうとしなかったのに、猿渡(桐谷健太)に呼び出された途端、まるで見計らっていたかのように重要な情報を思い出したと言い出す。
さらに、猿渡の聴取を受けているのをわかっていて、わざと志村を呼び出し、「もう遅いよ、殺されている。観察の呼び出しに応じた時点でアウト」と告げ、「そのやり方じゃ"調教師"は捕まえられないよ」と警告した。
そんなもったいぶったような態度に、志村は「お前が回りくどく情報を小出しにするせいで捜査が後手に回ってる。死ななくてもいい人間がそれで死んでんだよ」と激昂する。キリコはなぜあえて志村を翻弄するようなやり方をとるのだろうか。
理由は2つ考えられる。1つは、志村を何としてでも捜査の最前線に立たせること。そしてもう1つは、警察の捜査体制に対する復讐だ。そもそも未解決事件が起こる理由は、警察の力不足。そして、その原因はルールに雁字搦めとなっている現行の体制や、初動の遅れなどスピード感に欠ける捜査能力にある。キリコのこの掴みどころのないやり方は、その批判なんじゃないだろうか。
そして、なぜそんなことをするのかと言うと、彼女自身が警察の遅鈍な捜査により、大事な人を殺した犯人を取り逃がした過去があるから。キリコが犯罪コーディネーターになったのも、あえて警察と手を組もうとしたのも、いかに現在の犯罪レベルに対し警察が後(おく)れをとっているのかを知らしめた上で、その体制を変え、今なお闇の中で暗躍する殺人犯に報復を遂げるためではないだろうか、というのが第2話時点での考察だ。
ここからさらにキリコの背景が見えてくることで明らかになる事実もあるはず。各話ごとの事件の展開と共に、キリコの目的に注視していきたい。
キリコの志村への感情は、白か黒か
そんな第2話の最大の見どころは、志村とキリコの関係の変化だ。鉄格子越しに手を差し出したキリコに対し、志村は「馴れ合いは必要ない」と握手を拒んだ。2人の間には、この鉄格子以上の断絶があった。しかし"調教師"の襲撃から身を挺して守ってくれた志村に、キリコは「ありがと。守ってくれて」とかすかに微笑んだ。志村はそっけなく目線を逸らすだけだったが、少なくとも「馴れ合いは必要ない」と言ったときのような冷たさはもうそこにはなかった。こうして少しずつ2人の間に同志のような連帯感が生まれてくるのだろうか。
頑なな姿勢を見せる志村とは対照的に、初期段階からキリコは妙に志村に好意的。だが、その裏側を想像するとこの態度が無邪気な親愛の表れとは考えにくい。むしろキリコがいちばん恨みを抱いている相手が志村で、今こうして志村に近づいているのも、志村を利用し、志村に復讐するためだとしたら...。
「たとえば、白だと思っていたものが実は黒で、黒だと思ってたものが本当は白だった、みたいな」
そうキリコは言っていた。ならば、キリコが志村に寄せる感情は白か黒か。その真実がわかったときが今から待ち遠しくて仕方ない。この2人のことだ。いっそ立ち直れないくらいのショックを味わわせてくれてもそれはそれで歓喜なのだが、どうだろう。
とりあえず我孫子家に突入したり、ビルから真下の川にダイブしたり、"調教師"のアジトに潜入したり、志村はことあるごとにガラスを割りすぎなので、最終回までに何枚ガラスを割るかも注目していこうと思います。
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
【第3話(4月29日[金・祝]放送)あらすじ】
志村貴文(高橋一生)が女性殺害の容疑で逮捕された。間もなく容疑は晴れたが、キリコ(柴咲コウ)によると、女性を殺してショーウィンドウに展示したのは「演出家」と呼ばれるクリミナルズで、遺体をアート作品に仕上げて展示するのが趣味だという。さらに、キリコは「演出家」がすでに次の殺害を請け負っていることを予告し、「演出家」を捕らえる為に志村にある作戦を持ち掛ける。キリコが持ち掛けた危険な作戦に捜査一課課長の犬飼彰吾(原田泰造)は猛反対するが、志村はキリコの作戦に乗ることを決める。
一方、志村とキリコの動向に対して、全てが気になる監察官の猿渡紳一郎(桐谷健太)は、磯ヶ谷潔(有岡大貴)と五十嵐夏樹(堀田茜)の捜査に同行することに。
そんななか、キリコは、知り合いでハッカーのラビアンローズ(DAIGO)に「演出家」の動向を探るように依頼。ラビアンローズからの情報を元に、磯ヶ谷らが現場に向かうが・・・。
◆放送情報
『インビジブル』
毎週金曜22:00からTBSで放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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