豊作揃いと評判の春クール。その中でも本命候補と名高い『インビジブル』(TBS系)がついに動き出した。『おんな城主 直虎』(NHK総合)で多くのファンを生み出した高橋一生&柴咲コウが再タッグ。伝説のコンビは、今作でどんな関係性を築き上げてくれるのだろうか。

呼吸も忘れるような7分で、『インビジブル』は幕を上げた

いいドラマは、トップシーンから面白い。それが名作ドラマの掟なら、『インビジブル』はその掟は見事にクリアした。

映し出される渋谷の風景。募金を乞う子どもたち。インターネット上でやりとりされる自殺志願者の声と違法ドラッグ。それらを「神の視点」から眺める金髪の女・キリコ(柴咲コウ)。募金活動を行う団体を憎々しげに見つめる男(森岡龍)と、ラジカセを肩に背負い愉快そうに交差点を闊歩する男(RED RICE)。

怒濤の情報量に脳がショートしそうになった瞬間、場面は切り替わり、志村貴文(高橋一生)が男に暴行を働いている。「どこにいる」「どこにいる」「どこにいる」と平板な声で男を執拗に殴り続ける志村。それだけでこの志村という男がクレイジーなことがわかる。

サングラスを外したキリコの手首には謎のタトゥーが刻まれている。広場に置かれたラジカセ。緊迫感の増す音楽。スクランブル交差点に辿り着いた志村が、追っていた男の肩を掴んだ瞬間、ラジカセが爆発する。噴き上がる黒煙。鳴り響く非常ベル。大衆の叫びと泣き声。

さらにその混乱を嘲笑うように、渋谷の大型ビジョンがジャックされる。大衆の視線やマスコミのカメラが注がれる中、包帯で顔を隠した人間はこう言う。

「私がほしいのは、志村貴文」

はたして包帯人間の目的は何なのか。なぜ志村を指名したのか。入れ替わるように何度もカットバックされる、茫然とわななく志村の顔と、キリコの不敵な笑み。ここまでで約7分。呼吸も忘れるような7分で、『インビジブル』は幕を上げた。

第1話で提示された3つの謎

この爆破事件の真相を追うと共に、第1話から多くの謎が提示された。

まず1つ目が、志村の心に今なお傷跡を残す3年前の通り魔殺害事件。犯人を追う志村は、後輩刑事である安野慎吾(平埜生成)を目の前で殺された。犯人はいったい何者なのか。おそらくこの通り魔殺害事件が、物語全体の縦糸となる。

2つ目の謎が、なぜキリコは志村に執着するのか。わざわざ電波ジャックまでして志村を指名したのは、キリコだった。そしてキリコは自分と力を合わせて未解決事件の犯人を一網打尽にしようと持ちかける。いったいどこで志村のことを知り、なぜ志村と手を組もうと言い出したのか。その背景に、3年前の通り魔殺害事件が関与していると考えるのが道理だが、まだ真相は見えない。

3つ目の謎が、そもそもキリコは何者か。彼女の正体は、犯罪コーディネーター。あらゆる犯罪に精通し、警察をも関知していない未解決事件にさえ通じていると言う。タイトルの『インビジブル』は、警察内でも都市伝説化されていた、裏社会を牛耳り、多額の報酬と引き換えに犯罪を指揮する犯罪コーディネーターのことを指す。なぜキリコは"インビジブル"となったのか。キリコの過去が、この物語の鍵を握っている。

これらの謎を追いつつ、キリコの提供する情報に従い、さまざまな未解決事件に志村が挑むのが『インビジブル』の大枠。考察ブームに沸く連ドラ界に、金曜ドラマが『最愛』(TBS系)に続いてオリジナルドラマという形で挑戦状を叩きつけた。

高橋一生&柴咲コウの演技合戦に釘付け!

第1話からすでに高橋一生と柴咲コウの魅力が存分に炸裂している。志村の自室のハンガーラックにずらりと並んだ、まったく同じ色・形の白シャツ。着飾ることに関心などないのだろう。志村の心に取り憑いているのは、3年前の通り魔殺害事件。過去の事件に縛られた、ルール破りの暴走刑事といえば、『ケイゾク』(TBS系)の真山(渡部篤郎)や『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(TBS系)の瀬文(加瀬亮)と同系譜。この手のちょっとヤバくて、だけど脆い男が刺さるタイプにはたまらないキャラクターだ。

ネットに顔を晒されて白目になるなど、危なっかしいだけじゃなくて、コミカルな面があるところもいい。前髪を上げた高橋一生の額に、何度となく青筋が立つ。その青筋が色っぽい。皮膚の内側に怒りが張りついたような表情は、高橋一生の十八番。志村は、「こんなキャラクターに弱い」と「こんな高橋一生が見たい」が最高温度で融解したようなキャラクター造形となっている。

柴咲コウの演じるキリコも実に謎めいている。金髪のショートカットは非常にマニッシュ。そのヘアスタイルに、整った柴咲コウの面差しが映える。大きな猫目が暗示的で、その目が志村を裏社会に誘い込むような魔力を放っている。口調は淡々としているけど、どこか挑発的でもあり、掴みきれない。このクールでミステリアスな雰囲気は、柴咲コウにしか出せないだろう。いくつもの代表作を持つ彼女が、またひとつ当たり役を掴んだ。

2人ががっぷり四つに組んだシーンが、第1話の名場面。中でも留置所での対面は絶品だ。窓からの陽射しを浴びるキリコの横顔は美しく、鉄格子を挟んで切り取られた2人の正面からのアップは、檻の中にいるはずなのにキリコの方がずっと開放的で、檻の外にいる志村の方が何か閉じ込められているようだった。

クライマックスの取調室シーンもワクワクとさせられた。手を組もうというキリコの申し出に、志村の瞼がかすかに震える。漏れ出る何かを飲み込むように、志村が口に手を当てた。その仕草が生っぽい。指の関節を、唇に埋め込むように強く押し当てる。獰猛な狂犬が、毛を逆立てて唸るような仕草にまたゾクゾクする。そんな志村と相対しながらも、終始悠然としているキリコとのコントラストもいい。最初は話を持ちかけていたキリコが前のめりになっていたのに、気づいたら志村の方が前のめりになっている。きっと視聴者も志村と同じように前のめりになっていたはずだ。こんな2人の演技合戦をこれから毎週楽しめるとは、なんて刺激的で贅沢なんだろう。

オリジナルドラマだけに、ここからどう展開するかはまったくの未知数。ただ、ストーリーもキャラクターも魅力十分の『インビジブル』。春ドラマ必見の1作であることは間違いなさそうだ。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第2話(4月22日[金]放送)あらすじ】

未解決事件に関する情報を提供する代わりに手を組もう――。取引を持ち掛けてきたキリコ(柴咲コウ)の真意を、志村(高橋一生)は測りかねていた。するとキリコは次に起こる事件を示唆し、ある動画チャンネルのライブ配信をチェックするよう伝える。その映像を見た捜査一課課長の犬飼(原田泰造)らは驚く。観光PRを頼まれたという大学生キャンパーたちが掘っていた地中から、大量の人骨が出てきたのだ。

遺体は6人の若い男女。キリコによると、殺したのは少年少女を食い物にする"調教師"と呼ばれるクリミナルズだという。ライブ配信をした大学生たちを署に呼んで事情を聞いていると、人権派の弁護士・智寿子(久本雅美)が駆け付け、彼らの弁護を担当すると申し出る。

一方、志村は犬飼の指示でキリコを留置場からVIP待遇の特別施設"民宿"に移送。2人の関係を怪しむ監察官の猿渡(桐谷健太)は志村に呼び出しをかけるが、志村は"調教師"に関わる重要な情報をキリコから聞き出していて・・・。

◆放送情報
『インビジブル』
毎週金曜22:00からTBSで放送中。
地上波放送後には、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。