「あなた方は選ばれたんですよ!いや、なんというかお気の毒です!」

吉祥寺にある家賃2万5000円のシェアハウスに集まった入居者たちに、オーナーの代理人は告げる。応募フォームに記入された入居動機、懐事情、家庭環境、家族構成などを基に、より不幸な人、つまり"負け組"が選ばれ一堂に会した『吉祥寺ルーザーズ』(テレビ東京ほか)第1話の開幕だ。

面白いのは皆口々に"自分はルーザーじゃない"と主張するも、いかにも訳ありそうな個性の強い面々が揃いも揃ったことだ。年齢もバックグラウンドも職業もバラバラで、一見したところ何の共通点もなさそうな入居者たちから漂う不穏な空気感を、のほほんとした安彦聡(増田貴久)が発するいかにも"まとも風"な一言で打ち破り損ね幕開けする、あの始まりのゴングに既に本作のちぐはぐ感、不協和音が凝縮されていた。

童顔で学校でもナメられている高校の非常勤講師の聡は一見したところ人当たりは良さそうだが、職業柄かこのまとまりのない入居者にあれこれ声かけするも、"仕切っている"ようで気に食わないと秦幡多(片桐仁)からやけに大きな声で突っ込まれる。幡多は自称芸人で全く売れてもいない本人曰くは"ネクストブレイク"勢。必殺技は「ああ言えばこう言う」。それをも遮ることができるのが大庭桜(田中みな実)の「モテないよ!」の決まり文句。彼女の言い分をそのまま受け取ると、夫に愛想を尽かして家を出た元女性ファッション誌の敏腕編集長のようだ。

第1話のトラブルメーカーは聡。あろうことか、脱衣所の扉を外してしまい、このままではガラス張りの浴室が外から丸見えだと女性陣から総スカンを食らう。その前に、桜や警戒心の強いキャバ嬢・望月舞(田島芽瑠)の女性陣2人にまくしたてられると「耐えちゃダメ・・・受け流す・・・」と少し過呼吸になる姿が見られた聡だが、扉を壊してしまったことをソファに座る入居者全員に説明し方々から一気に責められる様子は、きっとそっくりそのまま彼の生徒を前にした教室での姿そのものなのではないだろうか。

皆と言い合いになると、最終的に「なんでのこのこ出て来たんだよ、なんで共同生活なんかしようと思ったんだよ」と自分を責めるような独り言を吐き、「大丈夫・・・男は弱音を吐いてはいけない」と息が荒くなり気絶してしまう。一体、彼は過去にどんなトラウマを抱えているのだろうか。目覚めた聡に50代で会社をリストラされた元広告代理店営業マンの池上隆二(國村隼)が掛けた言葉はスッと心に染み入る。「私たち世代が変な価値観作っちゃったからいけないんです。男は弱音を吐いちゃいけないだとか、一度逃げたら二度と立ち直れないぞとかね」は、正に世代の違う彼だからこそ言えた言葉であり、共同生活ゆえのトラブルもあるものの、一方それゆえの触れ合いや異文化交流のもたらす副産物が見られた。

また、聡に「私のせい?あなたが倒れちゃったの、私が追い込んだから?」と少しだけ気まずそうに尋ねる桜も、もしかすると彼女のそんな側面が災いして夫とすれ違い中なのかもしれない。自分自身でも"人を追い込んでいる節がある"と気づいてはいるものの、なかなかすぐに簡単には直せないそんな桜の持つ不器用さゆえの悲哀にもそっと触れたような気がする。

さて、聡は「ハロー、ママ」から始まるメールの文面で、このシェアハウスのことを学校にたとえ「交換留学生が5人入って来た」と紹介していたが、彼は本当に非常勤講師として現在も働いているのだろうか。

開かずの部屋"アボカドの部屋"に姿を現さない正体不明のオーナー・・・謎は募るばかりだが、既に彼ら6人が織りなすガチャガチャと騒がしい協奏曲にすっかり夢中になってしまっている。

(文:佳香(かこ)/イラスト・月野くみ)

【第2話(4月18日[月]放送)あらすじ】

シェアハウスへの引っ越しから6日が経ったが、負け組の6人はそれぞれが勝手に生活しているため、トラブルが絶えない。忙しい朝の洗面所争いに、放置されたキッチンの洗い物ややゴミ袋など・・・・・・家の中は何だかカオス状態に。そんな様子を見兼ねた大庭桜(田中みな実)は、集団生活のルールを決めるべく、安彦聡(増田貴久)に全員を集めての緊急会議を指示。だがワケありルーザーたちのルール決めが一筋縄でいくわけもなく――。

◆放送情報
ドラマプレミア23『吉祥寺ルーザーズ』
毎週月曜23:06~23:55放送
地上波放送終了後、動画配信サービス「Paravi」にて配信