村田椰融による同名コミックを原作に据え、堤真一が主演を務めるホームドラマ『妻、小学生になる。』(TBS系)の最終回である第10話が3月25日に放送された。10年前に事故死した妻・新島貴恵(石田ゆり子)の生まれ変わりと名乗る小学4年生・万理華(毎田暖乃)が、主人公・圭介(堤)とその娘・麻衣(蒔田彩珠)のもとに現れる物語。
「間借り」していた体を万理華に返し、成仏しようとする貴恵のもとに、万理華の魂がやって来て、「会いたい。もう一度だけでいいから会いたいよ、家族に会いたい」と涙する貴恵。そこから、万理華が貴恵にくれたのは、貴恵が亡くなって10年目の結婚記念日に家族と過ごす1日である。人生最後の日をいかにすごすのか。
そんな1日は、貴恵が麻衣にたくさんの春服と長く使える上質なアクセサリーを買ってあげるところからスタートする。「ママのしたいことは?」と尋ねられた貴恵は、蓮司(杉野遥亮)のもとへ行き、麻衣と蓮司の仲を修復。"小学生"ぶって、昭和のスタイルの「実家にご挨拶ごっこ」を提案すると、蓮司の挨拶は「麻衣さんしか考えられない」、今は未熟だが、地に足着けてから「必ず麻衣さんを幸せにします!」「麻衣さんと結婚させてください」という言葉だった。それを聞き、涙ぐんだ貴恵は、麻衣のことを託す。
さらに、再び漫画に向き合い始めた弟・友利(神木隆之介)が、出版社に拘束されつつも漫画家として走り始めた姿を見届けると、万理華のフリをしたまま去っていく。
そんな中、圭介は貴恵がかつて自分の店を持つという夢を語っていたことを思い出す。そこで急遽、守屋(森田望智)に、亡くなった妻が1日だけ帰って来たと伝え、「開店」準備を手伝ってもらうのだった。
貴恵が腕をふるうレストランに訪れたのは、寺カフェのマスター(柳家喬太郎)や常連客、守屋、圭介の会社の同僚など。貴恵は圭介のそばに守屋が、麻衣の傍らに蓮司がいる様子を、ちょっぴり寂しさも混じる安堵の笑顔で見届ける。最後の「悔い」として、貴恵が語ったのは、自分が亡くなった後に荒れ果ててしまった農園だったが、そこから蓮司の運転で農園に急行。きれいに手入れし、思い出のハバネロを植えたところで、倒れそうになる貴恵に麻衣は「ママ......大好き。会いに来てくれてありがとう」、圭介は「ありがとう貴恵、帰って来てくれて。ありがとう、僕の妻でいてくれて」と言い、「おやすみ」の挨拶で別れを告げる。
この世への悔いを全てなくし、今度こそ本当に消えたように見える貴恵。しかし、貴恵が触れ合った人たちの中には、確かに貴恵が息づいている。
例えば、貴恵が万理華の体を借りて1日だけ戻ってきた日の朝、万理華の表情を見ただけで、かつてネグレクトをしていた母・千嘉(吉田羊)は、貴恵の魂がそこにあることを瞬時に察知し、「行って。万理華と私のことを思ってくれたのはわかってる。でも、あんな別れ方はあなたらしくない」と、新島家に送り出してくれた。共に母親との複雑な関係という共通点を持ち、万理華という体でつながった貴恵との"友情"は、千嘉の人生、そして万理華との親子関係にあたたかく穏やかな光をもたらしたのだった。
また、貴恵が亡くなってから10年間自室に引きこもっていた麻衣も、自分の中に「よく笑う」貴恵と同じ性質があることを、貴恵が戻ってきたこと、そして圭介の言葉によって気づかされる。人に対して壁を作りがちだった麻衣が、蓮司の背中をポンとたたいたり、待ち合わせに遅れた蓮司に対して、自分の腕時計を指さして怒ってみせたりする様子は、かつて圭介に対して見せた貴恵の表情・しぐさとそっくりだ。
さらに、貴恵の最後の「悔い」として農園の話が出たとき、「後回しじゃダメだ! 今やろう!」と言った圭介にも大きな変化が見られた。いつも明るく太陽のような貴恵にリードされてきた圭介が、与えられてきたエネルギーを自身の中に蓄え、それを原動力とするように、貴恵が去った後にもイタリア語の勉強を始めるなど、前を向いて歩きだすのだ。
「生き返り」モノではなく、必ず訪れる別れに向かう「喪失」の物語だと途中までは思っていた。しかし、貴恵がくれたモノは、周りの人たちの中で芽吹き、きっとさらに大きく育っていく。喪失ではなく、蘇生・生育の物語だったのだ。
(文・田幸和歌子/イラスト・まつもとりえこ)
◆番組情報
『妻、小学生になる。』
Paraviオリジナルストーリー「ヤコ、ショウがクセになる。」
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。
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